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夜光おみくじ【毎週ショートショートnote】


冬にエアコンを使うのは嫌いだ。
部屋の空気が乾燥して、肌も心もカサカサになっていく。

だから、部屋着の上にモコモコのパーカーを重ね、さらにダウンジャケットを着込み、小さな電気ヒーターひとつでがんばっている。

暖冬といってもやはり寒さが身に染みる、大晦日。

昨日ようやく年内の仕事を納め、死んだように眠っていたら31日の昼だった。掃除をして、買い出しに行って、お風呂に入ったら、もう紅白歌合戦が始まっている。

見るとはなしにテレビを見ながら、ピーチ味の缶チューハイをすすり、よくもまぁ年末ぎりぎりまで働いたものだ、と鼻白む。今年30歳を迎えた自分がするにしては動機が単純で、子ども地味すぎていやしないか。

けれど、断る理由なんてなかったのだ。彼に頼まれてしまったのだから。

この単身者向けアパートの窓からは、月がよく見える。
雲一つない夜空に、ひと際光を放っているそれは、私の上司であるあの人の存在とよく似ている。

こんなにはっきり見えるのに、どんなに手をのばしても届かない。

人当たりも地頭も面倒見も良いくせに、たまに少年のような顔を見せるあの人は、私がこうしている間、愛する家族と温かい部屋で、同じテレビ番組を見ているのだろうか。

あの月を、この手でつかむことはできないけれど。
バカだと思いがら来年も、がむしゃらに光を追いかけてしまうのだろう。
評価されることが、笑顔を見られることが、傍にいられることが、嬉しくて。

いつの間にか、缶が空になっていた。頬が熱を帯び、頭がぼーっとする。

のろのろと立ち上がって窓を明けると、刺すような冷気で、瞬時に顔の熱が奪われた。
ゆっくりと深呼吸。
月は変わらず、鮮やかにそこに在る。

明日は初詣に行って、おみくじでもひこうか。
誰にも打ち明けられない想いを、神様と共有して。

(741文字)

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何人かのフォロワーさんが参加していた企画に、勢いで乗っからせてもらいました。よろしくお願いします。

文字数400前後のところ、かなりオーバーしてしまいましたが。。

ほんとうに今朝、「夜?光?おみくじ?」と思い浮かべたら出てきた拙い掌編です。

お題の汲み取り方など色々間違っていたらすみません。

お題に沿って書くのは苦手なのですが、久しぶりにこういうものを書けてとても嬉しいです。

またできたら参加させていただきます。
読んでいただいた方に感謝です。
ありがとうございました。


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