あの日から、冬真くんとの照れくさくて、甘ったるくて、現実味のない恋愛が始まった。 まだ木嶋は戻ってこない。きっと私を待たせていることなんて忘れて、スマホをいじりながらのんびり一服しているのだろう。 これは、酔っているから。別に甘えたいわけでも、彼の声が聞きたいわけでもない。 酔っ払って、木嶋もいなくて、ただ、手持ち無沙汰なだけ。それだけ。 自分に半ば言い聞かせるようにして、私は冬真くんに電話をかけた。 普段、いつも連絡をくれるのは冬真くんで、なんとなく大人の余
そんなことが続いて三週間ほど過ぎた水曜の夜、だったと思う。 その日はギャル店員と眼鏡くんがバイトの日で、なんだ、そうか今日は彼のいない日か、なんて気付くとがっかりしている自分がいた。ハッとしてそんな気持ちを振り払い、缶ビールの並ぶ冷蔵庫の前に立つ。 冷蔵庫のドアに手をかけた私の耳に、コツコツとガラスを小さく叩く音が聞こえた。 音のした方を見ると、雑誌の並ぶラックのむこう、通りと駐車スペースに面した広い窓を外から冬真くんがノックしていた。 チョコレートをもらったあの
電子音のメロディーを聞きながら自動ドアを入ると、レジカウンターの向こうで伝票らしき用紙の束をチェックしていた寝ぐせの店員が振り向いた。 私が「あの……」と声をかけたのと、彼が「いらっしゃいませ」と言ったのは同時だった。 彼がきょとんとした顔でこちらを見つめている。 急に気恥ずかしくなって、咳ばらいをひとつした。気を取り直して口を開く。 「あの、これ。買ってないのに袋に入ってたんですけど。レシートもあります」 「あぁ!」 彼は寝ぐせを揺らして破顔した。 整った顔が
サングリアから始まり、スパークリングワインの赤、白、店のオリジナルというカクテルやハイボール、木嶋の入れた赤ワインのボトル。横浜駅そばのイタリアンバルと冠した居酒屋で、今夜もしこたま飲んだ。 大学を卒業後、入社した広告代理店の同期で、もう七年の付き合いになる木嶋ともつれ合いながら店を出て雑居ビルの階段をくだる。二足のハイヒールが鳴らす不揃いなリズムが、どれだけ私たちの足取りがおぼつかないかを物語っていた。 木嶋のトレンチコートの肩に腕をまわすと、彼女は愉快そうに空を仰ぐ