万年筆に恋した人

 2021年も、2020年から続く混乱からの脱却は見通せていない。メインだった写真も、元々の需要が無い事も相俟って予定が立たず、最近は専ら小説に手を付けている。ライトノベル……とカテゴライズしているが、それにしては対象年齢が高く、また社会問題や国際問題を含んでいて、銃とテロをテーマにした話の次は、最近のネタとして定番のVRゲームに経済小説を組み合わせると云う、意外性で挑むことにしている。
 元は創作コスプレの設定のために練り始めたのだが、そこからブレインストーミングを繰り返してストーリーを構成することにした。その際、ドラフト……下書きを必ずするのだが、ごく一部の例外を除いて万年筆を使う。最早、万年筆を使うためにドラフトしている、小説を書いていると云った方が正しい。

 元々万年筆は、筆圧が高いためペン先を破損させる自信が有り、どうも抵抗が有った。そこで手に入れたのが、万年筆でもボールペンでもない、5thと呼ばれるイギリスのパーカー製のペンだった。サインペンの亜種と言った方が早いか。ぺんてるのトラディオプラマン……海外限定カラーを数本集めた……より、サクラクレパスのピグマの高級タイプに近い。
 自身が入手したのはアーバンと云う中価格帯のシリーズで、軸の色はロンドンキャブブラック。アメリカで生まれ、現在はイギリスのブランドだが、その首都ロンドンのシンボルでもある黒塗りのロンドンタクシー……ブラックキャブを髣髴とさせる色に惹かれた。同時にそれより少し安い1本挿しの純正ペンシースも入手する。
 これは使いやすいのだが、リフィルが高い。そこで目を付けたのが、当時東急ハンズで先行販売されていたプラチナ万年筆のノック式万年筆キュリダスだった。万年筆としては少数派のEF……極細だったこと、珍しいノック式だったことで、アビスブルー……水底のようなディープブルーの本体に合わせるようにブルーブラックのインクを使うことにした。当初はそれで書いていたのだが、今は気分の問題で別のものにした。それが前述の5thと同じパーカーアーバンの万年筆だった。

 2020年6月、九州最大の繁華街の一つ、天神の丸善が閉店セールを行っていた。再開発に伴う立ち退きだが移転先が見つからないことで行われていた。その時は万年筆も含めて半額だったが、偶然パーカーのショーケースを見た時に、5thと同じシリーズが2本残っているのに気付く。ペンシースも有るではないか。咄嗟に現状確認をし、ペン先の太さが細いことを示すFであることまで確認して、購入を決断。ペンシースも含めて4桁で済んだのは完全に得だった。
 軸の色も、5thと同じロンドンキャブブラックでペンシースも同じ。ここで困ったのは、見た目が同じでキャップを外すまでどっちが万年筆でどっちが5thか判らない。それはそれでコレクションとしての統一感が有って満足しているのだが。
 そのアーバン万年筆を使用するようになるのだが、ここで欲を出した。……インクが欲しい。元々使用頻度が高くないことでカートリッジを選んでいたのだが、高まると一気にボトルインクとコンバーター……吸引器が欲しくなった。元々メンテナンスで水を入れ、インクを洗い流す用にコンバーターは持っていたが、それとは別に専用としてのコンバーターと黒のボトルインクを入手した。

 コンバーターからの吸入は思ったより簡単だった。これで調子に乗り、低価格帯のパーカージョッターオリジナルの万年筆にも手を出した。ジョッターオリジナルのボールペンと色を合わせる形で、プラスチックの軸色は黄をチョイス。この理由は20年来の自身の推しキャラの色だからに他ならない。特に万年筆はグリップ部分が黒だから、黒と黄で尚更推し色になる。……これだから浪費癖と呼ばれるのか。推し色の概念カラーと云うだけでビジネスバッグを2つ持っているし。
 ペン先はアーバン万年筆と同じFだが、使ってみるとEF並。惜しむ点は、ジョッター自体細身で、グリップ部分は更に細く、親指の爪が軽く人差し指の腹に食い込むこと。爪の長さに気を付けるようになった。

 万年筆は、意識的に筆圧を落とす必要が有るため、書くのに疲れにくい。字の形に合わせて紙を撫でるような感覚だ。ノートはツバメノートで統一させているが、万年筆との親和性が抜群で万年筆や5thで書く時はそのノートに限定したいほどだ。
 メンテナンスが多少ややこしいように思うが、洗浄用としたコンバーターに水を入れて数回出し入れするだけでよい。しかし、物珍しさで入手したぺんてるのトラディオ万年筆……これも海外限定……には罠が有る。
 欧州メーカーの場合、大体欧州統一規格になっていて他社のコンバーターやカートリッジも使えることが多いが、パーカーのコンバーターやカートリッジは独自規格。そして他社のもカートリッジは挿せるがコンバーターはどれも密着しないことが、文具屋で店員を巻き込んで検証した結果、判明した。ぺんてるとは云え、海外限定のトラディオ系はフランスの現地法人が生産している上で海外用のため、日本国内で使うには多少ややこしい印象を受けた。

 ごく一部で使わないと言ったのは、飛行機に乗る時だ。機内の気圧で内部のインクが押し出されて零れる可能性が有り、その時は5thを用意する。トラディオプラマンも有るが、それは遊びで書いている全く別のR18企画用として。
 しかし、ここまで万年筆にハマるとは思わなかった。1人で文字を書いて過ごすには最高のパートナーで、メンテナンスや補給はややこしいが、愛着は湧く。ただ、目的が目的だけに、パートナーと言いつつ単なる高級玩具になっている感は否めないが、多分万年筆のポジションはそう云うものだと思う。

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