2021年同人問題を語れ(後編)

ゲームやPCソフトの販売チャネルでは最早主流となった感も有る、ダウンロード販売。それが同人販売サービスとして開始されて、既に十数年が経つ。同人誌だけでなく、コンピュータ社会らしくCG集、はたまたボイス集なども販売されている。昔はCD-Rにラベルを印刷してROM形式などで提供していたが、時代は変わった。

全て販売サイトのサーバからダウンロードするため、そもそも在庫と云う概念は無く、在庫切れの心配は無い。それに、印刷代も発生しなければ同人誌のように在庫を抱える必要も無い。
更には、ダウンロードと云う特性上、オンラインでの売買になる。店やイベントで購入すると云う手間もなくなり、オンラインの活用で人と会わなくて済む買い物を実現できる。
その意味では、ニューノーマル下での同人はダウンロード販売が最適解で、且つ高コスパだ。
一方、物理的な欠点と云えば、電子書籍同様販売サイトがサービスを終了すればダウンロードはできなくなるため、PCなどに予めダウンロードしたファイルを保管しておく必要が有る。それでも、電子書籍の普及ぶりを見れば同じように普及しても不思議ではないと思うのだが。
ただ、この販売チャネルが今ひとつ好まれない理由が有る。それは印刷代の存在意義だ。

自身は、金額の多寡に関わらず、売買して売上が発生するため「販売」と呼んでいるが、それは一部の同人クラスタからすれば訂正を要求したい単語だ、「頒布」と。
同人、特に二次創作の場合は版権の使用についてはグレーゾーンであり、公式から目を付けられないように細心の注意を払う上でのポイントは金の遣り取りだ。
同人誌が「販売」ではなく「頒布」と呼ばれるのには、買い手が払うのは「印刷代」であり、売り手も「印刷代と引き換えに有料配布」していると云う口実が有るのだ。

「同人誌は利益が出ないから公式も黙認してくれている。だから売って利益を出してはいけない。だから売上は全て印刷代で利益は1円も無い」
と云うのが、印刷代の存在意義だ。尤も、売り上げて利益を出したところで、サークル代や交通費などを差し引けば赤字と云うことは少なくないのだが。
ダウンロード販売は、印刷と云う作業を必要としないため、印刷代が元から発生しない。つまり売れれば売れるほど、本来得てはいけないハズの利益が生まれることになる。
表現と交流の手段であり、印刷代と引き換えに入手できる。それが同人誌の大前提であり、それに相反するダウンロード販売は容認できない、するワケにはいかない。それが同人クラスタの言い分だ。

ただ、1回のイベントで7桁単位の「利益」を出しているサークルも有り、それは同人誌を印刷して出しているから善し、一方で5桁に満たない少額でも同人誌を印刷せずダウンロード販売だけをしているからケシカラン。
そう言う輩がいるとすれば、それは最早、同人誌を神格化しているとしか思えない。

イベントがなくなっても、印刷屋が全滅し、同人誌が全滅するとは思わない。印刷業界も再編、寡占化はするだろうが数社は残る。売れ行きは悪くてもネット通販が有る。それに、そもそも印刷を必要としないダウンロード販売が有る。
そしてイベントは、ニューノーマル下では従前のような来場客数を動員することは難しく、採算面でも苦戦を強いられる。場合によっては消滅する団体も出るだろう。
しかし、イベントも交流会の側面は有れど、販売チャネルの一つとして見れば、イベントも上手に使いつつ、販売チャネルを活用することが同人文化を絶やさないためには必要なのではないか。

紙媒体か電子媒体かの違いこそ有れど、同人作品なのは同じで、電子媒体が業界の主流となったとしても同人文化は残る。紙媒体としての同人誌文化は衰退するだろうが、それが同人文化の終焉を招くとは思わない。

コミケは日本最大のオタク向けイベントだが、大きくなり過ぎた。一度飛んだだけで周囲の業界に与える影響も大きいのがその証左だ。しかし、次回のイベントは2021年5月を目指しているのであれば、初日まで10ヶ月近く空いていることになる。
それまでにコミケが経営危機に陥らなければ、の話だが、この非常事態は特に大手イベント団体にとっては、エポックメイキングの最大のチャンスだ。リアルとオンラインをシームレスに連動させ、安全を確保しつつ従前のイベントの面白さに近付け、また同人作品の販売チャネルとして一層の工夫をしなければ、同人業界は行き詰まるだろう。

2020年は、未だ半年近くを残している。しかし、既に同人イベントにとっても最大の試練となった。そして、2021年に問題が最も深刻化すると読んでいる。
ただ、印刷所やイベント団体が淘汰されるのは仕方ない。文化の名の下に護送船団方式のようなスタイルは時代錯誤であり、生き残り競争を勝つような資本主義の争いが求められる。
各団体がどのような生き残り策を仕掛けてくるか、それはそれで興味深いところではある。如何せん、自身は性格が悪いもので。

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