2021年も同人イベント危機は続くか(前編)

2020年、同人イベント業界は未曾有の危機に陥った。イベントを悉く潰さざるを得ず、同人印刷業者では既に廃業を決めた所も有る。コミケのカタログ印刷を長年手掛けていた業者もその一つで、本当にコミケ需要に売上を依存している業界の構造の脆弱性を垣間見た。

2020年3月、コミケは決断を下したのはその末だった。イベントまで40日を切った段階での発表は、同種のイベントが次々と潰れる中であまりに遅いものだった。それでも、忠実な来場客…所謂「訓練された参加者」…は異口同音英断だと讃え、次回の再会を誓っていて、自身の対応の遅さを批判するコメントは流されたが。

この前後で、コミケの決断が何故遅れたのか、その少し前のF1開幕戦オーストラリアグランプリを巡る騒動に絡めて書いた。簡単に言えば、数十億円と云われるイベント不履行による違約金と云う名の責任の所在を巡って、ギリギリまで関係者同士の攻防が続いたのだ。
それと同じで、責任が発生する自己都合のキャンセルを避けようと足掻いた結果だったと見て間違い無い。
そして、これが遠征組の旅程キャンセルで混乱を招いた。イベントが不可抗力でキャンセルされたと云え、エージェント…旅行代理店で購入した旅行商品…ダイナミックパッケージ含む…のキャンセルはあくまで自己都合のため、キャンセル料が発生する。結果、キャンセル料を差し引いて手元に残った金額を見ながら、本来開かれていたハズのコミケに思いを馳せ、冬コミでの再会を誓う者も続出した。

自身は移動と宿泊は個別契約だったが、ホテルは数日前までキャンセル料は発生しない。その上で、航空券は数百円の取消手数料だけで済む期間内にキャンセルし、後々決行が決まれば航空券を買い直す方向に出た。航空券の支払いはリボ払いを基本とし、航空券が高くなっても支払期間が2ヶ月ほど延びるだけだから、と決断した。それは、当落通知の直前の話。
結果、手数料完全無料で払い戻す特例措置が執られたが、それが無かった場合に手元に残る割合を計算すると、あくまで通常通りのイベントを目指していた時点での最善策は自身のやり方だった。何が正しかったは、全て結果論でしかなかったのだ。


コミケの実情としてよく言われるのは、財政的に潤っていないことだ。そして、一度でもイベントがダメになると、それはコミケそのものの消滅にも直結しかねない。各方面への影響については割愛するが、コミケが消滅したからと云って同人文化の火が消えるのは甚だ大袈裟だと断言しよう。

さて、コミケもついに白旗を揚げたが、既にカタログは印刷していたため、販売に踏み切ることとなった。
カタログは、コミケにとっては次回のためのカンパの返礼品と云う扱いだ。2018年以前も購入を呼び掛けていたが、あくまでも任意だった。自身は購入したことは無い。
そして、2019年にリストバンドが導入されると、カタログにリストバンドが同梱されるようになる。リストバンド単体でも販売されていた。それでも、そもそもコスプレにしか興味が無く、フォロワーのレイヤーに会うことが目的だった自身は、リストバンドだけ購入した。電話帳並と云われる厚い一方で入場証の代わりにもならないカタログなど、邪魔でしかない。
このカタログを購入することで、次回の軍資金になるため買って応援に協力をコミケが呼び掛けると、忠実な連中は勇んで購入を表明し、財布の紐を全開にした。幻のコミケのカタログに、プレミアを見出した者もいる。

しかし、当時誰もが口にした
「冬コミは笑顔で再会しよう」
は、叶うことは無かった。7月、12月末の予定だった冬コミの見送りを発表した。サークルの応募セットを購入した上で応募すると云う方式だが、この発売前に白旗を揚げた。3月と違い、大きな混乱は「一見」見られなかった。しかし、裏で大混乱に陥った業界が有った。印刷業界だ。

同人印刷を手掛ける業者は中小零細が多く、中には年間の売上の8割がコミケ向けの新刊と云う、コミケ依存の体質の所も有る。そのため
「サークルは温めた思いを原稿に宿し、製本してオンラインで売ってほしい。そしてファンは積極的に買ってほしい」
と呼び掛ける業者も現れた。
今は個人でネット通販するためのサイトがサービスとして展開されているが、そのオンライン販売で少しでも本が売れれば、次の本への意欲になり、それは印刷業者に仕事が回ってくると云うものだ。

特に2020年はネット通販が爆発的に伸張した。自身も、地元の店から足が遠退き、代わりにアマゾンの注文履歴が増えていったほどだ。しかし、同人だけはその恩恵を受けなかった。それは、一般的には異常と思える同人流通の構造の特徴が大きい。

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