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雨の火曜日

コーヒースタンド付きのシェアスペースを運営している。
レンタル利用がない平日は9:00-13:00で管理人のわたしによるコーヒースタンド。


しかし今日は朝から雨で客足はほぼなし。

午後からは洋菓子るぽさんの焼き菓子とコーヒーのスタンドに切り替わる。
月に2-4回、不定期で出店してくれるのだけどわたしは彼女のタルトのファン。

バターの香りが高いサクサクの生地に、その季節だけのジューシーなフルーツのタルト。
コーヒーもタルトに合わせた浅煎りで、ワインのようなときもあるし、シナモンのようなときもある。
彼女がいる日はなるべく余計なコーヒーや甘味をとらないようにしている。
月に2回の楽しみだ。

さくっと店じまいして場所を譲ろうと片付け始めたころ。

近所にひとり暮らしをする男子大学生が訪れた。
友だちが遊びに来ているからと、彼のお気に入りの温かい黒糖ミルクを人数分注文してくれた。


先日訪れた際に彼は身体の不調をぽつりとこぼした。
その不調はわたしも経験したことがあるから、対症療法と予防を伝えた。

ミルクを鍋で温めている間に今日の調子はどう?と聞くと、よくなりました、ここの黒糖ミルクを飲んだからです、とはにかんだ。

お世話とも受け取れるけど、お世話ではないのだろう。
話すだけで気持ちが軽くなることだってある。
親でも友だちでもない、心配をかける負荷のない存在が心地よいときだってある。
ただ通り過ぎるだけだった道に現れた錆びたトタン屋根のコーヒースタンド。
そこに彼は意味を見出してくれた。

それはよかった、またね、と彼を見送った。

雨の日に訪れるお客さんは、強い意志を持ってこの場所に足を運ぶ。
そしてみな物語を持ってやってくる。
わたしはただ居て、コーヒーを淹れて、話を聞くだけだけど、きっとそれでいいのだろう。


ひとの痛みを知るひとは強くてやさしいと、持論がある。

鬱だったときにね、とあっけらかんに言う友人はうずくまるひとに寄り添える強さを持っている。

というわたしも適応障害と軽度のうつと診断されたことがある。

しかし防衛本能なのか当時の記憶が薄い。
診断書と身体の症状を書き連ねたメモが他人のもののように思えるほど。

思い出すかはわからないけど、いつかこの経験がなにかの役に立つといいなと思う。

雨降り、売り上げは芳しくないもののゆっくりと思考することができて、慈雨だった。

ルビーグレープフルーツのタルトも食べられた。甘酸っぱくて美味しい。

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