恋文と童心 第一話・サボテン(10)
「怒らせるつもりじゃなかったんだけどな」
俺は開いた窓に肘を突いて寄りかかった。
いつから嫌味な性格になってしまったのか、自分でも分からない。大介や丈一たちと馬鹿をやっている時はテンションが高いのに、いざ女子の前に立つと波が引くように気持ちが冷めてゆくのだ。どうせ向こうも俺を嫌っている。だとしたら、俺のほうから媚びへつらって何の利益がある?
いつの間にか、俺は女子に何も期待しなくなっていた。本気で女子と付き合いたい気持ちがあるのかと聞かれても、首を傾げざるを得ない。
他人と真正面から接するよりも、少し斜めのポジションから眺め見ているほうが楽だからそうしている。面倒な人間関係から逃げているだけである。先輩に指摘されるまでもない。女好きの純粋さを隠そうともしない大介や丈一と比べても、俺が一番薄汚れた人間なのかも知れない。
しかしまあ、それはそれとして今回の件に関しては、もはや解決したも同然だった。現場に立ってみて、あの写真が撮られた前後に何が起こったのか、大方の予想が付いてしまったのだ。俺は写真を撮影した本人にスマホで質問を送った。初狩先輩が脅しを掛けて彼が口を閉ざしてしまう前に、一つの確証を得たかった。
『ブッチに送った写真のことだけど』
『あれね。姉崎も見たんだ』
『そうそう。あの写真を取る直前、何か声とか物音とか聞こえてこなかったか?』
『声ねえ。そういえば聞いたような気もする』
『女子の声だった?』
『うん。何だっけ。届かないよーみたいな、もう一回みたいな、そんな声だったかな』
『間違いない?』
『ああ、それと、そのすぐ後に短い悲鳴が聞こえた。キャッていう可愛らしい声』
スケベそうに笑うおっさんのスタンプ。『あれ、先輩の声だったんだろうな』
悲鳴は先輩が思いもかけない状態に置かれた際に発したものだろう。特に矛盾することはない。やはり初狩先輩と住谷は、この廊下で偶然にも組体操を行ったのである。
『サンクス。それと、あの写真はあまり広めないほうがいいぞ。初狩先輩、かなり怒ってたから』
俺は一応の忠告をして通信を終えた。
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