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親指1本の思い出

小さな頃からずっと、結婚するイメージがわかなかった。
それよりもまず、働いて自分で自分を養えるようになること。
自分に嘘をつかず、この仕事が好きだ!と思えることを本業にすること。
30代半ばまで、ずーっと、そればっかり追いかけ続けていた。

彼氏に「君を守る」と言われても、しっくりこなかった。
守るって、私の激務を肩代わりしてくれるのか?
一体、何からどうやって守るというのだ。

むしろ私はどこかで、”私が相手を守らなきゃ”と思ってきた。
20代の頃の彼氏のお店に、出店のヤ●ザが来て揉めた時は、
私がそのおじちゃんと、デートをすることで事をおさめた。

そんな私だけど、男性っていいな、と感じた思い出はある。

とあるワークショップに参加した時、仲良くなった4人のメンバーで、
休憩時間に、会場近くの海に遊びに行った。
メンバーのうち男性は1人だけ。
物静かでマイペース。みんなから離れて、1人で猫を撫でてるような人。
女3人に混じっても違和感のない、穏やかな人だった。

砂浜に4人で座って話していたら、1人が寝てみよう!と言い出したので、
私達はみんなで寝っ転がって、自然に手をつないだ。
私は彼の隣だったので、自分から手を伸ばして、軽く握った。

その時、彼の親指が動いた。
私の親指の方が上になっていたのを、下になるように握り直したのだ。
彼の親指に包み込まれた時、驚いた。
自分が泣きそうになったからだ。

君が前に出なくていいんだよ、と言ってもらったようだった。
さりげなく、彼に守ってもらったように感じたのだ。
それがこんなに嬉しいなんて。
そうか、私は守って欲しかったのか、と驚いた。

私も彼も、何も言わなかったし、お互いを見ることさえしなかった。
親指1本だけのことだ。
でも親指1本で、男は女を感動させるんだな、と思った。

あの心地よさや安心感を、私は今も覚えている。
今度、誰かに「君を守りたい」と言われたら、
「守ってね」と言える、かもしれない。

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