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研究者の私がもし小学生(中学生)なら、この夏やりたい自由研究4選 RE:CONNECT×Nue inc note企画第2弾

森・里・海のつながりを総合的に研究する「RE:CONNECT(リコネクト)」。日本財団と京都大学が共同で行うプロジェクトです。本プロジェクトのクリエイティブ部門を担当するコンサルティングファーム、Nue incからお題をいただき、研究者が記事を執筆する企画がはじまりました。第2弾は「研究者の私がもし小学生(中学生)なら、この夏やりたい自由研究」。小学生(中学生)のこころで考えてみました。


このお題をいただいてから,自分は小中学生の時にどんな自由研究をしたか思い返してみた。ちゃんと研究したのは,小6の時の「ケナフの生長観察日記」。当時巷ではケナフの栽培が流行しており,ケナフについて,私は,1年でぐんぐん生長して二酸化炭素をたくさん吸収するから環境に優しい,との認識だった。学年全員で一人ひと鉢お世話して,最後は繊維を取り出してハガキを作った。自由研究の内容は,毎日の高さ測定,葉っぱの数,花の数。今思えば,1日あたりの生長速度や二酸化炭素吸収量の推定,肥料や鉢の大きさが生長速度に与える影響など,できることはたくさんあったが,如何せんそこまで思考が及ばず,ただの観察日記で終わってしまった。そして,アフリカ原産なので,外来種。既に日本に帰化してしまったようだ。

しょうもないことでも,今童心に返って自由研究ができるなら,真剣に調べてみたいことはたくさんある。小中学生の(純粋な)こころで考えるといっても,若干の邪な考えは拭いきれない…。考えだすとキリがなくて一つに絞りきれなかったので,家にいながらできる研究を3つ+おまけを挙げてみようと思う。

【家庭菜園編①】コンパニオンプランツの効果〜欲張ってあの種この種とたくさん植えるとどうなる?

家庭菜園,せっかく育てるなら無農薬がいい。大きく美味しく育てたいけど害虫被害は抑えたい。欲にまみれた人間が家庭菜園をするとこんなことを願う。特にイチゴには虫がたくさんついてしまう。そこで,コンパニオンプランツの登場だ。コンパニオンプランツとは近くに植えると害虫被害を抑制したり生長を良くしたりする効果のある植物のこと。このうちの一つ,虫除けによく効くレモングラスはどんな植物でも効果があるのだろうか?風上,風下など効果の出やすい植え方はある?はたまた,多くの効能を求めて何種類ものコンパニオンプランツを植えても問題ないのだろうか?その場合の最適な組み合わせは?少し下調べが大変なのと,育てる野菜によって効果の変動が大きいと思われるが,ある程度パターン化できれば,もう少し気楽に家庭菜園を楽しめそうだ。

【家庭菜園編②】ラディッシュの葉っぱに大量についてくる赤いカメムシ「ナガメ」はどんなオスがもてる?

北海道でもあの臭いカメムシは大量に発生する。でも,初めてラディッシュを育てて,生まれて初めて真っ赤なカメムシ「ナガメ」に出会った。どうやらアブラナ科の植物によく集まるようだ。このナガメ,しばらく観察してみたが,ずーーーっと交尾しながらあちこち歩き回っている。葉っぱから払い落としても離れないほどのひっつき具合だ。トンボの仲間では,交尾する時間が長ければ長いほど魅力的なオスだという説がある。では,ナガメの交尾時間の長さを決める魅力(要因)は何だろう?小学生の頃はなぜか足の速い男の子がモテる時期があるが(生存競争に優位?),そもそもカメムシ界ではどんなオスがモテるのか?まさか臭ければ臭いほどモテるとか?赤い面積が大きいほどモテるとか?ちょっと興味がある。ちなみにこの「ナガメ」,あんまり臭くないので,頑張れば研究できそうだ。

【魚編】魚の形から推定する餌生物と実際の胃内容物解析

魚のことをずっと研究してきたが,それでも魚の生態は知らないことばかりだ(図鑑で読んでも頭から抜けているだけかもしれない)。なので,その魚が何を食べているかを自らの手で調べることは,その魚の生態の一端をより深く知る手がかりとなるだろう。釣りが好きなら釣りで魚を集めるのも良いし,他の種と比較するために,手間を省くために魚市場などで購入するのは研究では常套手段だ。釣りでは仕掛けを変化させることで,食性が異なる種が釣れるだろうから,それだけでも一つの自由研究になる。あるいは同じ種でも,サイズによる違いを比較しても良いだろう。

さて,食性を調べるだけなら,魚を解剖して胃を取り出し,胃の中に入っている生き物を調べれば良い。でもそれだけでは面白くないので,魚の外部形態もしっかり調べたい。例えば,サンマは口をよーく観察すると,上顎よりも下顎が突出している。これは海面近くに浮遊しているプランクトンを食べるため,プランクトンを食べやすいように下顎が長くなるのだ。逆に,水底にいる餌生物を食べる種は上顎が出ていることが多い。一方,同じプランクトン食者であっても,マイワシのように口を常に開けて泳いで餌を食べる種では下顎は出ない。ちなみに,プランクトンを捕食する種はエラの鰓耙(プランクトンなどをこしとるための機能)の構造も比較すると面白い。他にも,アンコウやカジカのように餌生物を丸呑みする種は口が大きく開くように骨格が発達しているし,どんな大きな餌生物でも確実に捉えられるよう,喉の奥にも細かな歯があったり肋骨が退化してお腹が膨張しやすくなっている。じっくり考えることが好きであれば,魚の外部形態をしっかり観察して,どんな生き物を食べるのか予想して,胃内容物を取り出して答え合わせするのも良いだろう。実は,形態に関しては既に結論が分かっているものがほとんどだが,自分で考えて理解する過程が重要だと考えているので,一度はやってみたいテーマだ。そして食性はその時その場所によって変化するので,これが正しい!という結果はないのも醍醐味だと思う。

ここまでが家+αでできる自由研究だが,もし海まで行けるようなら,ビーチコーミングも本格的にやってみても良いかもしれない。週末にうちの子供を連れてビーチコーミングに行くと毎回シーグラスを一生懸命集めている。この様子を見ると,子供への海ごみ問題の導入題材,あるいはアウトプットとして海ごみアートを楽しむのも良いかもしれないとも目論んでしまう…。

【おまけ 海ゴミ編】ビーチコーミングで海を知る

海辺には様々な貝殻や流木,シーグラスなどの漂着物が流れ着く。海辺の漂着物は,流れ込む海流が異なる日本海と太平洋,北と南ではガラリと変わる。一方で,海辺を構成する砂の質はその場所に生息する貝類や,地質の影響も受けるので,もっと小さなスケールでも変化する。今住んでいる北海道の道南では,太平洋に面した北斗市の七重浜海水浴場では細かな粒の砂地で,アマモ場が点在する場所であるが,噴火湾内に位置する南茅部地域まで北上すると,フジツボやその他貝殻が細かく砕かれた粒の大きな砂浜になっている。他にも鳴き砂のある浜辺では,石英の含有量が多くなるので,周辺の地質も石英が多く含まれるか,砂に不純物がないと予想される。このように,海辺はその場の生物+地質+漂着物(海流)によって変化するので,それぞれを細分化・視覚化することで,最終的には複合的に海の仕組みを知ることができる(根気があれば,砂粒の写真を撮って1枚の写真にどの石,色,あるいは貝殻の粒が何個あるか数えるとわかりやすいだろうか)。

また,ビーチコーミングでは海ゴミも高確率で発見するだろう。瀬戸内海においては,海ごみはそのほとんどが陸からの河川由来だそうだ。陸由来だと,人間の行動や心理の影響が強いかな,と予想できる。夏休み中に完結できないが,夏には冷たいペットボトルゴミが増えて,冬は暖かい缶コーヒーなどの空き缶が増えるのだろうか。一方で,日本海では韓国や中国からのゴミが流れ着いたりするので,国内・国外由来のゴミの量を1週間おきくらいで調べるのも面白そうだ。天候とも関連していそうなので,台風一過後は国内由来のゴミが増えるといったことがあるかもしれない。

少しまとまりのない内容になってしまったが,以上の4つが私がやってみたいと考える自由研究だ。これから自由研究のテーマを決める子供たちへの一つの題材になれば幸いです。

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