フランスから、食関連ニュース 2019.10.15

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。


1. 今週のひとこと

ニンジンがシンボルのYUKAというアプリケーションが、今フランスの食品メーカー全体に揺さぶりをかけています。スーパーマーケットでスマートフォンを手にした消費者がしきりに食品のバーコードをスキャンしている姿を見かけるようになったのですが、そのアプリケーションを提供しているのがYUKA。無知な消費者としてではなく、自身が摂取するものを理解して購買する、賢い消費者を育てようというもの。スキャンをするとその食品の成分を素早く読み取って、評価が4段階で現れます。濃い緑が「Excellent 優れている」、緑が「Bon 良い」、オレンジが「Médiocre 普通」、赤が「Mauvais 危険」。総合評価は、栄養面60%、添加物分析30%、オーガニック評価10%で決定。さらにその食品の長所と短所が、含まれる成分の量で示されます。100gに対する例えば糖分や塩分、飽和脂肪酸量、繊維質など。商品があまり勧められない数値が出た場合は、他の商品を推奨するといった具合で、このアプリケーションで扱われている商品は、コスメにも及んで、今や80万品にも上っています。

アプリケーションのダウンロードはフリーなので、YUKAの資金源について疑問に思っていましたが、栄養摂取指導のコーチ事業と寄付金の半々で運営されている独立企業だということ。食品メーカー業界に殴り込みをかけるような挑戦でしたが、今やYUKAアプリの所持者は1200万人を超え、毎日延べ300万件がスキャンにかけられています。さらにYUKA利用者の95%は、評価の低い商品に関しては、購買を控えるといった統計も出ている。こうした状況下で、食品メーカー自身が、食品のレシピの見直しを図ることを余儀なくされています。例えば、大手スーパーであるIntermarchéは自社商品の900つに関して、有害といわれる142つの添加物を18ヶ月かけて排除していくことを発表。ブイトーニは、ピザレシピの減塩を決定。クノールは、保存料も砂糖も添加しないスープを開発。Michel et Augustinはレモナードから糖分を49%カット。Fleury Michonは亜硝酸塩の含まれないハムを発表。Monoprixは、クラブサンドイッチからいくつかの添加物を排除する。等々と、見直しを図るメーカーは後を断ちません。

細かい食品表示をすることは義務づけられているものの、いままでは、それがいったい何であるかを消費者として知り得なかったのですが、このアプリケーションによって多くのことが明らかになり、結果的に食品メーカーを動かすことになったのは、画期的だったでしょう。他消費団体も、YUKAに倣ったアプリケーションを作ることを検討し始めています。

社会問題を解決するためのシンクタンク的な基盤を持ち、民間に直接働きかけることのできるアプリケーションは、今の時代にふさわしい新しいメディアのあり方の一つかもしれません。インターネット時代、今後、社会貢献の手段ともなり、おおいに発展していく分野なのではないかと考えさせられています。


2. 今週のトピックス

【A】ミラノ生まれ、初の100%ビーガンバーガー店、マルセイユに上陸。

「ビーガンバーガー」を謳うミラノ生まれのバーガーショップ「フラワー・バーガー」が、フランス・マルセイユに上陸しました。2015年の創業から、イタリアにはすでに11店舗、オランダ・アムステルダムに1店舗を経て、フランスでのオープンにこぎ着けています。ミッションは「世界をより美しく」。100%ビーガンのバーガー店としては初出店と誇っています。ロゴが花のマークなのは、平和や喜び、愛の象徴であるということと、自然とのつながりを表しているといいます。また今までのビーガンフードと異なる、カラフルで食欲をそそるような店作り、レシピ作りにも力を注いでいるということ。

すべてのソースはイタリア産豆乳100%、ひまわり油、ディジョンのマスタードで作り上げた、名付けて「フラワー・マヨ」をベースに。厳選したシリアルを合わせた粉で作るバンズパン。大地のタンパク質であるさまざまな豆を駆使してミックスしたステーキなど。それぞれのレシピは研究に研究を重ねた緻密なもので、世界中へのフランチャイズ展開を狙っています。

小豆とオートミールのステーキ入りでオレンジ風味のバンズの「サンセット」。

ほうれん草入りでヒヨコ豆とパン粉、小豆と赤タマネギのステーキを炭粉入りのブラックバンズに挟んだ「フラワー」。レンズ豆とバスマティ米で作ったステーキを、チェリーとビーツ入りのバイオレットカラーのバンズに挟んだ「チェリー・ボンブ」など。再度メニューにはポテトの他、EDAMAMEが選べるのにも、ヨーロッパにおける今のモードが伺えます。バーガー流行、健康志向のパリにやってくるのも時間の問題でしょう。

https://www.flowerburger.fr/

【B】国際宇宙ステーションで、に人工培養肉の製造に成功。

イスラエル・テルアビブに本拠地を持つAleph Farmsは、人工培養肉に取り組むスタートアップ企業。この9月、地上から339Kmの高度を飛行する国際宇宙ステーションにて、牛の細胞から培養したステーキを製造することに成功しました。宇宙飛行士にとって素晴らしいニュースであるのと同時に、畜産による地球上の環境負荷を大幅に軽減できる人工培養肉が生産できたことを知らしめるパフォーマンスにも。

同社は、この製品を合成肉ではなく「クリーンミート」と呼んで、クリーンな環境下で作る、地球に優しい牛肉生産であることを強調。4種の細胞組織(筋細胞、血管、脂肪細胞、支援細胞)を培養し3D技術を使用して肉片を製造することができ、食感や味、形をも満足できる製品にたどり着けたのは世界初だそう。今のところ1枚の製造にかかるコストは45ユーロ(約5500円)ほどということですが、畜産に世界全土30%の土地を使用し、1kgの牛肉を生産するのに15000リットルもの水を作っていることや、2050年には肉の消費が70%増加するなどの未来を見据えた上での、新しい産業となるかも知れません。

https://www.aleph-farms.com/

【C】Cold Brew Pressionコーヒーがパリのマーケットに出現。

窒素ガス入りの専用サーバーで注がれる水だしコーヒーは、スターバックスのシアトルやニューヨーク店などで販売されて数年前から話題になっていました。クリーミーな泡立ちと、黒ビールのような見た目から、じわじわと人気を増しているようです。その提供の仕方にヒントを得たのか、フランスではアラン・デュカス・グループが、オープンしたばかりのBean to Barのコーヒーショップでも、ビールのサーバーを使用した泡立つアイスコーヒーをサービスして話題となっています。フランスではアイスコーヒーを飲むという概念はほぼなかったのですが、こうした変化球のサービスの仕方により、一部の愛好家の興味を惹いているようです。ちなみにフランス人が消費する液体は、水の次にコーヒーという統計が出ています。

有機栽培とフェアトレードを謳う、ニース発のコーヒー焙煎業者でカフェを展開する製造会社「マロンゴ」も、Cold Brew Pressionを初めたばかり。水出しコーヒーは、コーヒー自体の香りを守り、ムースはフレッシュな香りを表現できると、新しいコーヒーのマーケットを広げる第一歩となっています。

【D】シルバーウェアの新しい形、MOODの行く末。

1830年創業のフランスのシルバーウェアの老舗として知られる「クリストフル」。2015年に発表したカトラリーセットMOODは、食卓の中央のオブジェとしても愛でることのできる、シルバーが美しい卵形をしたテーブルウエアとして、大成功をおさめました。ナイフ、フォーク、スプーン大小の4種類6本ずつのセットで、スプーン6本のみのミニサイズMOOD Coffeeも2年前に発売されました。

このフォルムの美しさの話題性からクリストフルは、昨年2018年に初めてファッション界とのコラボレーションを実現。クリストフルを愛用していた故カール・ラガーフェルドのタッチが加えられ、1000点限定で発表しました。今年のイースターには、パティシエの王者ピエール・エルメがMOODのフォルムの、銀箔をあしらったチョコレートの卵を販売。

今年も、昨年の成功を受けて新作MOODを発表。このたびは、セレブリティに愛されるパリの料理人ジャン・アンベールと、その友人でグラミー賞受賞ミュージシャンでありプロデューサーのファレル・ウィリアムスとのコラボレーションによるもので、シリーズは「SHARE」と名付けられました。MOODは限定500点(2900ユーロ)、MOOD Coffeeは1000点(800ユーロ)で発表。すべてナンバリングされており、10月1日に発売されました。

この2人は昨年マイアミにレストランSWANを一緒にオープンするなどの仲。「SHARE」はまばゆい黄色を塗り付け、人物のイラストを書き付けたものですが、そのイラストは2人自身や、アンベールの祖母やファレルの妻など、2人にゆかりのある人々たち。いずれもファーストピースの売り上げはオークションにかけ、ファレルが支援する子供たちの教育を掲げた慈善団体FOHTA(From One Hand to Another)に寄付されるということです。


3. 今週の日本@フランス、ワールド

【A】2つ星シェフ小林圭氏、2冊目の豪華本を出版。

パリで唯一の2つ星を掲げるレストラン「レストラン K」のオーナーシェフ、小林圭氏がフランスで2冊目の豪華レシピ本を10月23日に発表します。タイトルは「Kei 2」(59.90ユーロ)。日本の料理アートとフランスのオートキュイジーヌを融合した80つのクリエーション料理を紹介したもの。著者は5年前の本と同様増井千尋氏で、CHENE社から。

【B】10月5〜7日、パリ開催、第6回サロン・ド・サケ終了。

今年第6回を迎えたサロン・ド・サケ。日本からは、北海道から佐賀までの自治体に、今年は静岡県、岩手県も加わり、北から南まで全国津々浦々の日本酒500銘柄が勢揃いしました。日本酒のテロワールやヨーロッパにおけるに日本酒の位置づけ、あるいは日本以外での日本酒の生産、発酵食品についてなど、興味深いコンフェランスやテイスティングも開催されました。

今年は特に、ヨーロッパにおいても知名度のあるサロンとなったという手応えを得たと事務局。ヴィジターは、ヨーロッパはもちろんのこと、リトアニア、タイ、メキシコなどからと、45カ国にもわたる国際色の豊かさで、3日で5000人にも。昨年比で10%の伸び率でしたが、とくにソムリエやバーテンダーの訪問率は13 %増、カヴィスト(酒販店)は39%増にも上ったことが、フランスを中心としたプロフェッショナルから見た、近年の日本酒へのポジティブな期待を読み取ることができます。

毎年「サロン・ド・サケ賞」が発表されますが、一般客が選ぶ今年の大賞には山口県旭酒造「獺祭23」が。プロが選ぶ大賞は栃木県外池酒蔵「燦爛純米吟醸」、特別賞には鳥取県稲田本店「純米稲田姫強力」が輝きました。

http://salon-du-sake.fr/ja/

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