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五十路女子、NHKを辞めてみた

五十路にもなって「女子」だなんて
ちょっと恥ずかしいが、
ここは許していただこう。
私はバツイチ・子なし、
女子の老犬と暮している。
どこからどう見てもオバサンだけど、
気分は女子だ。

退職って…アレと似ている

そんな私は今年の夏、長年勤めたNHKを辞めた。
退職を迎えた日、ふと思った。
仕事を辞めるって、どこか離婚に似ているなと。
自分の肩書き=“ラベル”が消える感覚。
「妻」じゃなくなったように、
「職員」ではなくなった。
でも「職員」は実に30年近くも続いたから、
もう一つのラベルとは比較にならない
長いお付き合いだ。
いってみれば、別れてもお友達でいられる
「熟年の円満離婚」とでもいったところか。
五十路まで飽きることなく私を育ててくれた
NHKには心から感謝しているし、
その経験がなかったら、
起業する勇気なんて持てなかった。
まるで、
大きなクルーズ船から小さなボートに乗って、
大海原に飛び出したような気分だ。
職場の仲間は「おめでとう」と言ってくれた。
船からは離れるが、彼らはこれからも私の仲間だと思っている。

退職日、仲間のお祝い

砂漠とダイヤモンド

なぜ、大好きなNHKを辞めたのかー。
きっかけは最後の4年間、担当した医療番組だ。

医療で英語の番組なんて無理!!
…と最初は思ったし、本当に大変だった。
四苦八苦しながら作るうち、
面白くてたまらなくなった。
WEBサイトでは世界中の誰もが1年間見放題。
世界のどこかで病気に悩んでいる人に
届けることができる。
なんてすごいことだ!
そして、海外視聴者の番組評価も次第に上がり、
5点満点で4.5以上という高成績が続くようになった。

ところが、そのうちに気がついた。
「本当に病と闘う人に届いているだろうか?」

私は、
砂漠に水を撒いているような感覚に陥った。
病と闘う人に役立つ情報を
仲間と一緒に力を合わせて
わかりやすくお届けする努力を続けてきた。
いわば、栄養たっぷりの水だ。
それを種があるかどうかも分からない
広大な砂漠に一生懸命、
撒いているような気がしてきた。
種がたくさんある場所に撒けば、
大地は力強く芽吹き、いつか実をつける。
でも、砂漠では無理だ。

世界中でアクセスできる医療番組であっても、
いま病と闘っている人が、本当にたどり着けるのだろうか?
私が出した答えは「No」だった。
たくさんの偽物ダイヤの中に、
本物のダイヤが1粒あっても
簡単には見つからない。
情報も、同じだと思う。
世に溢れる情報は玉石混淆すぎて、
目利きじゃなければ見極めることは難しい。

Photo by Bruno/Germany

それなら「ダイヤ」は、
本物を買いにくる人が集まる店に卸せばいい。
「栄養たっぷりの水」は、
種がある場所に撒けばいい。
そのほうがずっと、
誰かの役に立てるのではないか。
マスの砂漠から、ニッチの専門店へ。
私は闘う舞台を変えたのだ。

私が100歳まで生きるかは果てしなく謎だが、
人生100年時代と言われるいま、
折り返し地点の私は、小さなボートで海に出た。
嵐も荒波もやってくるだろう。
乗り越えていけるかドキドキするのも悪くない。
ドキドキなんて、初心な少女のようではないか。
だから、五十路女子、NHKを辞めてみた。


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