BTS【花様年華】⑬ソクジンの変化
必ず起こってしまうコンテナ街の火災と、防ぐことの出来ないナムジュンの死によって失意のどん底へ落ち、かつてタイムリープの力を授かったあの海を訪れたソクジンは、再び姿を現した”猫”から、”魂の地図”の存在を知らされました。
そして「全てを終わらせることが出来る”魂の地図”を探せ」というヒントを与えられたことの代償に、ソクジンは7人がいつも一緒に笑い合って過ごした大切な【花様年華】の記憶を奪われてしまいます。
全ての原動力であった幸せな記憶を失ったソクジンの行動の目的は「6人を救って幸せになる」ことから「タイムリープを終わらせる」ことへと変化し、ここから先のソクジンの思考や行動はとにかくタイムリープのきっかけを取り除くことが最優先で、図らずも自ら不幸な道へ進もうとする6人に対し、まるで人が変わったかのように冷たく接するようになっていきました。
”魂の地図”の存在を知った直後のタイムリープ以降、ソクジンが気の遠くなるほどに繰り返したyear22.04.11からの出来事を、流れ作業のように淡々と修正して6人を救済していく中、本来起こっていたはずの不幸な出来事の数々を、唯一悪夢という形で知ることが出来ていたテヒョンが、これまでとは少しだけ違った行動をとるようになります。
ユンギがジョングクと口論になり焼身自殺を図ろうとしたその日、テヒョンは作業室から飛び出していくユンギを偶然見かけますが、ユンギの後をつけて走る怪しげな一台の車に気を取られて姿を見失ってしまいました。
煙の立ち昇るモーテルを見付けたテヒョンは、すぐに夢で見たどこかの部屋で炎に包まれるユンギの姿が脳裏を掠めます。
助けなければと走り出そうとしたその時、直前に見かけていた怪しげな車の中に冷たい瞳で座るソクジンと、モーテルの前を横切ってどこかへ走っていくジョングクに気が付いて、思わず足を止めました。
どこかイライラとした様子のソクジンの口が「面倒なことになった。」と呟くように動いたかと思うと、ソクジンは平然と車から降り、計画されたかのような躊躇いのない動きでモーテルの前に何かを置いて立ち去ります。
そして、そのソクジンが置いた何かを見つけたジョングクが慌ててモーテルへと駆け込んでいく様子を、テヒョンは呆然と見届けました。
ユンギが火傷の治療のために数日間の入院と通院を経て、退院後初めて作業室を訪れたとき、そこにはがらんとした部屋の床に一人でしゃがみ込んでいるジョングクの姿がありました。
ユンギが衝動的に作業室を飛び出したあの日、この場所は二人の激しい口論のせいで荒れ果てた状態になっていました。しかし、この日の作業室は普段通りに片付けられていて、その様子を見たユンギは、もしかすると自分がいなくなった後もジョングクが一人でこの場所に通っていたのかもしれないと気が付きます。
「死なないよ。死んだ方がマシだけど。」ユンギがそう口にすると、ジョングクは笑いながら「そうですね。死んだ方がマシですね。」と答えました。二人は作業室の床に転がって酒を飲みながら、酔いに任せてこれまで話さなかった自分自身の話をします。
「僕が兄さんを追いかけ回すの、好きでやってると思ってるんですか?兄さんのことなんか、ちっとも心配してないですよ。」
父親の生きる理由になれなかった過去を消化できずにいるジョングクは、自分がユンギの音楽が好きだから、 一日に何度も死にたくなるのにユンギのピアノを聞くと生きようと思えるから、自分のために仕方がなくやっていることなのだとくだを巻きます。
誰かの生きる理由になりたくないと願うユンギは、ジョングクがどうして死にたくなり、どうして生きたいと思うのかと考えながら、酔い潰れて眠ってしまったジョングクの寝顔を眺めました。
テヒョンの行動の他に、幸せな記憶を失ってしまったソクジン自身にも、とある微細な変化が起こります。
ソクジンは、6人を作業的に救済していく過程で過去を思い出そうとしたり、自分の行動の理由を考えたりする度に起こる酷い頭痛に悩まされていました。特にコンテナや海など、失った記憶に由縁のある場所を訪れた時には、その頭痛は耐え難いほど酷くなりました。
その後、これまでも何度も繰り返しそうして来たのと同様に、ソクジンに導かれるまま、7人は揃って学生時代に訪れたあの海へと向かいます。
year22.05.22に訪れるこの海では、どのタイムリープでも、ソクジンの車の前に集まって7人で写真を撮るのが恒例となっていました。7人で笑い合って撮る海での写真は、ソクジンが失った幸せな記憶そのものであり、ソクジンは写真を撮るという行動自体は覚えていても、これまでどんな風に写真を撮り合ったのかは思い出すことが出来ません。
タイマーをセットして車の前まで歩くソクジンの脳裏に、ほんの一瞬だけ6人の幸せそうな笑顔や楽し気な笑い声が過りますが、すぐに耐えられないほどの悲しく辛い気持ちが沸き起こり、猛烈な頭痛によって搔き消されてしまいます。
「代償を払わなければならない。」そう言い放った”猫”の言葉を思い出し、もっと冷静に、もっと理性的に行動しなければならないと、うんざりするタイムリープを抜け出して、早くこの呪縛を解かなければと自分自身に言い聞かせました。
そして、この海からの帰り道でジョングクが一人で事故に遭ってしまうことも、ソクジンが何度タイムリープを繰り返しても防げない不幸な出来事の一つでした。
この事故では、どうしてかタイムリープが起こることはありません。それでも、6人の幸せのために行動していたこれまでのソクジンは、どうにかしてジョングクの事故も未然に防げないかと考え、様々な努力をしても結局事故を防ぐことは叶いませんでした。
しかし、タイムリープを終わらせることだけが目的となって以降のソクジンは、ジョングクの事故はタイムリープとは関係なく必ず起こってしまうものであると割り切り、効率よくタイムリープを抜け出すためには多少の犠牲は致し方ないことであると見捨ててしまうようになります。
そしてこの日の帰り道も、ジョングクは一人で事故に遭い、徐々に薄れていく意識の中で、走り去る車のヘッドライトが緑と青の不思議な光へと変わる幻覚のような夢を見ていました。
”猫”に与えられたヒントであり、「全てを終わらせることが出来る」という”魂の地図”とは一体何なのか、どこをどう探すべきなのか。
あの日以降、あらゆる手段を使って”魂の地図”について調べて回っていたソクジンですが、一切の手掛かりも得ることが出来ずに途方に暮れていました。
”魂の地図”探しに奔走する中で、ソクジンはふと自宅にある父親の書斎に飾られた不気味な絵画について考えていました。その絵画には、激しい波に浮かぶ危険な筏の上で、恐怖と欲望に溺れてお互いを殺し合う人々の様子が描かれていて、幼いソクジンはその絵画を恐れて書斎から足を遠ざけていました。
しかし、その絵画は時間の経過と共に次第に見慣れたものとなり、その代わりに書斎の中にあるもう一つの扉の先に続く、”奥の部屋”の存在が気にかかるようになります。
本や書類が無造作に積まれているだけのように見えるその部屋は、なぜか本棚を見上げるだけで委縮感に全身が押し潰されそうになるような独特な雰囲気を持っていて、入って叱られた記憶はなくても、ソクジンは自然とその部屋に近付くことを避けるようになりました。
ジョングクの事故を防ぐことを諦めたソクジンは、ホソクが事故を知って慌てて6人に知らせた時も、あまり重要なことではないと感じ、これまでのようにジョングクを心配することはありませんでした。
アルバイトの後、面会時間をとうに過ぎた夜中にジョングクのお見舞いに訪れていたテヒョンは、ジョングクが自分たちと別れた直後に事故に遭っていたにも関わらず、誰一人としてそのことを知らずに過ごしていたことに胸を痛めていました。
ふと病室の外に人の気配を感じ、テヒョンが急いでドアを開けると、そこには誰もおらず、代わりに廊下の角を急いで曲がるソクジンの後ろ姿がありました。病室に入らずに立ち去ったソクジンを不審に思いながら、もしかしたら気のせいかもしれないと、深くは追求せずに病室へと戻ります。
ジョングクはこの日以降、宙に浮かんで、眠っているもう一人の自分を見下ろす、まるで幽体離脱をしているかのような夢を見るようになります。その夢は次第に事故に遭ったあの夜の光景へと変わり、走り去った車のヘッドライトは月になり、突然緑と青の玉のような光に変わりました。
夢の中に現れた不思議な光は、どうしてか乗り慣れたソクジンの車のヘッドライトを連想させ、ジョングクはその不気味な夢に導かれるようにソクジンに対して疑念を抱くようになってしまいます。
「僕を轢いたのは誰だったんですか?」息を切らして目を覚ましたジョングクがそう警察や医師に尋ねても、犯人に繋がる情報は何一つとしてありませんでした。
この頃のホソクは、ソンジュの街の再開発事業によって、養護施設で暮らす子どもたちが離れ離れになってしまうことを知り、どうにかして防ぐ方法はないのかと奔走していました。
ジョングクの退院パーティをしようとコンテナに集まった日も、ホソクは朝から養護施設の先生や卒業生たちと、市庁の前に集まって再開発計画の見直しを訴えていました。
そしてふと、再開発事業を主導しているキム・チャンジュン議員がソクジンの父親であることを思い出します。
「お父さんに一言でも話してもらえませんか?兄さんは知ってるじゃないですか!あそこが僕にとってどんな場所なのか。養護施設は僕の家です。あそこにいる子どもたちは、みんなバラバラになるんですよ!」
殺気立った様子でコンテナへやって来たホソクは、コンテナに入るや否や、ソクジンに向かって涙ぐみながらそう捲し立てました。
ソクジンはこれまでのタイムリープで、ホソクに頼まれて父親の説得を試みた時の、全く聞く耳を持たなかった父親の姿を思い返し、寄り添うことなく「もう全部決まったことだ。僕に出来ることはない。」と伝えます。
ソクジンの淡々とした返事を聞いたホソクは、物事を決定する側の世界にいるソクジンと、その決定に抗議することすら叶わない世界にいる自分との間に明確な境界線が引かれてしまったように感じ、これまで友人だと思っていたソクジンと自分では、きっと本当の意味での友人関係は成り立つことはないのだと思い知ることになりました。
その後も何一つ事態は進展せず、時間ばかりが過ぎていきました。
結局、ソクジンは”魂の地図”についての一切の情報を得ることが出来ないまま再びyear22.09.30を迎えることとなり、すでに見慣れた光景になりつつあるコンテナ街の火災が起きてしまうのです。
コンテナ街の火災を防ぎ、ナムジュンを救済しない限りタイムリープは起こり続けます。永遠と繰り返すタイムリープの中で、ソクジンの疲労と苛立ちは際限なく膨れ上がり、その瞳は凍て付くほどに冷め切ったものになっていきました。
コンテナ街の火災は自然発生するものではなく、元を辿ればソクジンの父親が主導し、ソクジン自身も介入しているソンジュの街の再開発事業によって引き起こされたものでした。
”魂の地図”を見つけ出すことだけに気を取られ、ただ効率よく不幸な出来事を回避しながら闇雲に探し回るだけのソクジンは、再開発事業を推し進める父親やソクジン自身の行動が、間接的にナムジュンの命を奪っているという事実に目を向けることが出来ずにいたのです。
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次回の記事では、”魂の地図”の正体を掴むことが出来ずに迷走し続けるソクジンと、そんなソクジンの様子に違和感を抱き始めた6人と共に、大きく変わっていく出来事を整理します。
〈次回〉
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