見出し画像

「悪知恵」のすすめ-ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓-

■ ひとこと概要

価値観や受け取り方の違いを感じるのも面白いフランス的な叡智と毒が詰まったフォンテーヌの寓話。バランス感覚を養うという前向きで悪意のない悪知恵を自分なりに掴む為に、フォンテーヌを読み進めてみたい。

■ 感想

「「悪知恵」のすすめ-ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓-」鹿島茂(清流出版)P228

17世紀の詩人ラ・フォンテーヌがルイ14世の王太子に人生の教訓を学んでほしいと、動物たちを主人公にし描かれた寓話たち。著者・鹿島先生が仰る通りイソップ物語は子供の頃から慣れ親しんできたものの、フォンテーヌの寓話は聞き覚えがある程度。

子供向けという意識を持っていた訳ではないけれど今までに一度も読んだことがなかったが、かの詩人の紡ぐ寓話は子供向けの教訓譚ではなく、厳しい認識に貫かれた人生訓の集合体とはまさに。紹介される寓話とその奥にあるフランス式意識は大人こそ楽しめる深さで驚いた。

「キツネとブドウ」で支柱から垂れ下がるブドウの房を取ろうとしたキツネが手が届かず、「まだ熟れてない」と立ち去るという話で、日本人なら「負け惜しみはよくない」という教訓として読み解くところを、フランスでは「あれはまだ青すぎる、下郎の食うものだ」と訳し、「愚痴をこぼすよりもましなことを言ったではないか」と。

日本人では少し引いてしまうかもしれない解釈ではあるもののその裏には、手が届かない富や地位を羨むのは愚の骨頂で、豊かではなくとも幸せでいられるという精神があるという。価値観や受け取り方の違いを感じるのも面白いフランス的な叡智と毒が詰まったフォンテーヌの寓話。

「悪知恵」とは生き残る為の知恵。確かに正直、純真、清廉潔白では誰かに騙され、うまく使われ、損ばかりする世の中になってしまった。しかし「騙される方が悪い」では世知辛すぎる。バランス感覚を養うという前向きで悪意のない悪知恵を自分なりに掴む為に、フォンテーヌを読み進めてみたい。

■ 寄り道読書

「グランヴィル―19世紀フランス幻想版画 (鹿島茂コレクション)」鹿島茂
(求龍堂)P159

「悪知恵」のすすめの挿絵としても貴重な鹿島先生のコレクションから挟まれていたフランス19世紀を代表する挿絵画家・グランヴィル。

大好きな画家であってもなかなか書籍で見ることが叶わないので、こうしてコレクションを書籍化して下さるのはすごく嬉しい。グランヴィルの描く毒を含んだ動物の風刺画をもっともっと見てみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?