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私たちは、いつから「変身」しないと正しいことができなくなったのだろう?▶︎ 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』読書感想エッセイ

大人が正しいことをするためには、「変身」という免罪符を手に入れないとできない。その寂しさと残念さ。
をエモい表紙と内容の濃さのギャップで感じた作品。

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田沙耶香
読書期間︰2023.04.07~20

\  あらすじなどはコチラ  /

いや、なんとも……村田沙耶香さんの作品は、そこはかとない気持ち悪さを含んでいる気がします。
私個人の大雑把なジャンル分けによると、村上龍氏と同じグループ感があります。

でもこの気持ち悪さ、大事なんですよね。
なんで気持ち悪いかというと、人間のの部分を言葉で顕にしているからかと。
オブラートに包まない言葉は、どろみと苦味と臭みがあるのです。
(とろみどころじゃない、どろみ)

そんなイメージがある村田さんが、こんなエモーショナルな表紙で本屋に並んでいるのでビビりました。
しかも主人公が、
10歳の時に始めた魔法少女ごっこを卒業できずに30代半ばになってしまった丸の内OL
という……よく思いつくよね、村田沙耶香、鬼才! 天才!  面白い!!(たぶん)
地元の本屋で平積みになっているうちに買うべき本だな、と思って、積ん読がたくさんあるにも関わらず手に取りました(笑)

で。
「こんな設定、よく思いつくよね」って書きましたが、職場での顔と家での顔が違うというのは、誰しも経験があると思います。
いわゆるスイッチを入れるとか、仕事モードに切替える、というやつです。
私も職場の敷地に入ると、「この職場での私」を演じるようにしています。
(ストレス溜まると曖昧になるけど・笑)

本作主人公のミラクリーナこと茅ヶ崎リナの行動は、この「モードを変える」の変化球のようなものなんだと思います。
本当に変身するわけではなく、ちょっと可愛い(たぶんJILLSTUARTみたいな)化粧用コンパクトと、子供のころから持っている相棒のぬいぐるみを通勤カバンに忍ばせて、変身した気分になって職場や世の中のために最善の行動を尽くす、というのが日課です。
彼女にとって「ミラクリーナに変身する」ということは、「正しい言動をする」ための免罪符なのです。(免罪符というよりも警察手帳みたいなもんかな?)

私たちも、幼い頃は横断歩道を手を挙げて渡っていたのに、小学校に上げればもうそんなことはせず、なんなら道路を横切ったりします。
いつの間にか、正しい行動をすることが面倒になり、恥ずかしくなるのです。
その面倒さと恥ずかしさを拭うための免罪符が「変身」なのです。
リナは、友人をモラハラ男から守るため、不要な変身をせざるを得なくなりますが、それによってモラハラをあぶり出し、友人の目を覚まさせることができました。
それは、変身(免罪符)がなければ正しい行動ができないの、おかしくない?
という警鐘がミラクリーナに現れている気がします。
(深読みしすぎかな……?)


私は、これまでの『英さんの閉架書庫』5冊をご覧いただければ解るのですが、あまり毒気の強い物語は得意ではありません(笑)
ハートウォーミングが好物です。
なので、表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』と、4編目の『変容』が物語としては好きでした。

でも、心に引っ掻き傷を残すのは、どうしてもどろっとした後味の悪さが残る『秘密の花園』です。
主人公の正解が本当にこれで正解なのか、もっと違う方法があったのではないか、と脳内をしばらく渦巻いてしまいました。
(まぁ、普通なんて物語にならんけど)

長い年月をかけて美化された妄想を現実でぶち壊すという荒治療の物語なのですが、沼と闇の深さが尋常でないのです。
人が人にハマるのは、恋や愛と呼んで綺麗に聞こえて、それ以上は「情」になると頭のどこかで妄想を美化していました。
でも、これらはすべて人間の感情に起因しています。
いつでも落ちるのです。闇の底にも。

彼女は本当にあの純粋だった頃の妄想を打ち砕けたのか。
また新たな沼に入り込んだのではないか……。
なかなか深読みが止まらない作品です。


さてさて、本日もMacBookAirミッドナイトちゃんにてお送りしました。
また次回お逢いしましょう♪

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