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見えない歴史を形にすると、新たな繋がりがやって来る▶︎『紙屋ふじさき記念館 結のアルバム』感想エッセイ

大事件じゃなくても、人生の岐路とものごとの歴史は細部に宿る、ということをとてもリアルに感じた作品。

『紙屋ふじさき記念館  結のアルバム』ほしおさなえ・著/角川文庫
 
読書期間:2023.01.16〜02.05


さまざまな職業にあふれる現代ですが、「紙屋さん」の存在を意識したことはありますか?

ペーパーレスを叫ばれる世の中でも、紙の存在はやはり不可欠。
マスクやトイレットペーパーだって紙なのです。

そんな多種多様な「紙」を製造し、販売している紙問屋さんの、和紙に特化した企業ミュージアムが舞台の連作小説・第6巻。

【  あらすじ  】

都内に住む大学生の吉野百花は、叔母と紙雑貨のイベント「紙こもの市」を訪れる。
そこで叔母の知人・藤崎一成を紹介される。彼は老舗の紙問屋・藤崎産業の親族で、和紙専門の企業ミュージアム「紙屋ふじさき記念館」の若き館長だった。
そんな縁から、百花はその記念館でアルバイトをすることに。

徐々に和紙の魅力にハマっていく百花だが、肝心の館長は「わかる人にわかれば良い」というスタンス。
だから記念館の存続も危ういし、本社に勤める館長のイトコからは、記念館廃止を推し進められる始末。

どうしたら和紙の素晴らしさをたくさんの人に伝えられるのか、何をしたら記念館を盛り立てられるのか。
百花のアイデアと、館長の知識、そしてそれを形にする職人や協力してくれる人たちとの交流を通して、和紙や紙雑貨に関わったみんなが少しずつ成長していく物語。

第6巻は、百花がコロナ渦での就活で藤崎産業を受けることになったり、記念館の今後が明らかになっていく、人生も記念館も帰路に立つターニングポイントな一冊。

私は子どもの頃から書道をやっていたので、和紙を含む書道用紙はめちゃくちゃ身近にありました。
というか、今でもあります。
売るほどあります。

だから、和紙でも料紙でも洋紙でも中国紙でもパピルスでも、それらを作る人がいて、取り扱い店が販売している、というのは認識していました。
ただ、紙屋さんを意識したことはなかったです。

作中でも、百花は友人たちに「藤崎産業は紙屋さん」と話すと「そんなのあるんだ」と言われてしまいます。
それが普通の反応なんだろうと思うし、私もその一人です。

紙に埋もれて育ったためか、私も紙ものが好きです。
コロナ前は、活版TOKYOや本のイベントによく行っていました。
この本も、11月の文学フリマ東京で、ほしお先生からサイン入りを直接買わせていただきました。(紙博は絶対めちゃめちゃ散々するから、敢えて行ってない・笑)

だけど、私がこのシリーズを推しているのは、「紙雑貨かわいいよね!」だけではない、ところ。
そして、「紙ってこんなに苦労して作るんだ」というだけでもない、ところ。
それを象徴しているのが、百花のゼミの笹山先生の言葉。

どんな仕事も、これまでの歴史を背負っている。過去を背負い、先に進む。生きるとはそういうことです。世の中はいいことばかりではないですから、苦しむこともあるでしょう。でも、よく生きてください。

このシリーズ6冊目で、ついに「働くとは」ということに百花は正面から向き合うことになります。
記念館でも、百花の素直な性格と根気強さでアルバイト以上の仕事をしていました。
だから、百花が周りの人の心を動かし、彼女を助ける人と彼女を慕う人たちが集まって来ます。

「和紙の良さは知ってる人が知っていればいい」という考えだった若き館長も、百花や関わる人たちとともに企画した商品やワークショップなどを通して、「たくさんの人に良さを知ってもらえれば、新しい和紙の使い方や、魅力を知る人、それを活かす人が現れる」ということを身を持って体験します。

自分が経験してきたことを無駄にしない、埋もれさせない、自分の歴史を仕事や生き方に活かすことができるのです。
それは、自分にその技術や知識を教えてくれた人たちの歴史も繋いでいる、ということ。

これは本当に、ものづくりする人たちにも思いっきり当てはまることだと思います。
自分が経験してきたことが根底にあって、それに対して「思うこと」があるから、見える形にしたいのです。

そういうものを私も文章にして、見える形にして行きたいのです。
この読書感想エッセイがその第一歩!(に、なれ!・笑)


さて、同じ作者の別シリーズで、『活版印刷 三日月堂』という川越で活版印刷所を営む女性の物語があります。

『紙屋ふじさき記念館』は4巻目で、この「三日月堂シリーズ」とリンクし始めました。
私は物語どうしが繋がっていくのが大好きで、いつか「百花と弓子さん(三日月堂店主)のコラボが見たいなぁ」と思っていたので、大歓喜です!
別々の世界に生きているようで、実はみんな繋がっている、それがとても現実的で嬉しいのです。

小説は別世界にいざなうための手段だと思います。
現実でできないことを物語の中で体験する。それが作りごとの醍醐味です。
でも、現実を少しでも楽しく前向きな気持ちにできるならなお良しだとも思うのです。
ドラマでもスピンオフが流行るのは、そんな気持ちがあるからではないでしょうか。
みんな繋がりたいのです。一人でいる方が、どんどん現実から離れていってしまうのです。
その原因は、どうあがいても「寂しさ」なんだと思います。

実は、今回の本は思いれが強くて、なかなか自分の気持ちや思いを言語化できていません。本当に残念です。
悔しいなぁ、語彙力なさすぎ。
また思うことが言語化できたら、ここに足していこうと思います。
気持ちもネットも繋がっているから。

では、久々の読書感想エッセイもここまで。
本日も相棒のミッドナイトなMacBookAirからお送りしました。
4冊目も読破間近なので、早めにここに書けますように。(ついに祈っちゃった・笑)



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