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ショートショート025『未来からの種』

初めて未来へタイムトラベルした。
なるほど、未来はこうなるのか。
とても言葉では言い表せないな。

私はその様子を絵で書くことにした。
スマホは持っているが、写真を撮ることは禁止されている。
使った時点で、何かのチカラが働いて、強制送還となるらしい。
機械類に詳しくないので、その辺の仕組みはちょっとよく解らない。
タイムトラベルができるほど世の中が変わっても、得てして使う側の人間はさほど変わらないものだ。

私は漫画家だ。
あまり売れていないので、次の作品の出来しだいではクビを切られる予定である。
私の漫画家人生を賭けた次回作は、現代人が見たことないSFにしようと考えて、なけなしの貯金をはたいてここへ来た。

公園のようなところ(なんとも、ようなところ、としか表現できない)のベンチのようなものに座り、ノートと鉛筆を取り出す。
なるべく見たままの風景を描いていると、私を覗き込む人物がいた。
振り返ると、なかなか紳士的な服装のおじいさんがいた。
彼は目をひん剥いた。

絵が上手い!!
と言っているのかと思ったら、そうではないようだ。
さすがにこれだけ未来に来ると、同じ日本(多分)でも言葉が違ってくるらしい。
なんとなく断片的には聞き取れるので、よくよく聞いてみると、紙とペンが欲しいそうだ。
スマホ的なものの充電が切れて、メモが取れない……のだと思われる。

私は持っていたノートをちぎり、持ち合わせの鉛筆をあげた。
おじいさんはそれをそうっと手にすると、太陽(多分)にかざして、涙ぐんだ。
そして、震える手で何かを書き付け始めた。
チラッと覗いて見たが、やっぱり解らない文字だった。

ひと通り書けたのか、おじいさんは満足そうに微笑みかけ、そして私の手に光る種を握らせた。
「タカラ」とか「キチョウ」という言葉が聞き取れたので、お礼に貴重なお宝がなる種をくれたのだと思う。

滞在時間が終了し、私は自動的に現代へ送られた。
ポケットにはあの種が入っている。やった、消えなかった!

私はさっそくその種を自宅の庭に撒いた。
キチョウなおタカラ。
未来の種だから、金かダイヤが成ってもおかしくないな。
いや、なにかもっと想像もつかないものが成って、それで一躍有名になるかもしれん。
育成漫画でも配信するかな?
いや、YouTubeで育成動画かな?
有料コンテンツや広告収入が見込めたり……
「イヒヒヒヒ」
声に出ていたのだろう、お隣の奥さんが怪訝な目でこちらを見ていた。

3日とかからず実が成った。
愕然とした。
お隣の奥さんが奇異な目でこちらを見ているが、そんなことはこの際どうでもいい。

光る種が付けた実は、ペラペラの紙と鉛筆だった。

あのおじいさんが、ノートの切れ端と鉛筆を見て、涙ぐんでいた意味が解った。
「これが……未来ではキチョウなタカラなのか」

だから私は、未来への警鐘の意味もこめて、この種のことを次回作にしようと思う。

<了>

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