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瑞々しい小説とは? の答えがココに▶︎『純喫茶パオーン』感想エッセイ

主人公の少年はもしかして人生2周目?
と思いながら読んだ一冊。

英さんの閉架書庫、2023年の2冊目はこちら!

『純喫茶パオーン』椰月美智子・著/ハルキ文庫
 
読書期間:2023.01.07~15(くらい)

同郷の作家さんです。
地元開催の本のイベントで、直接著作を手売りしていただいたこともあります。
この本も地元の書店で、サイン入りのものを購入しました。(サイン本を待ってた)

椰月先生の作品は、読後もじわじわと心に広がって、その世界観に囚われることもしばしばです。
『明日の食卓』は映画化もされているので、ご存知な方もいらっしゃるのでは。

ハートフルからサスペンスまで書かれるので、正直、「この本、どっち方面だ!?」と思いながら読みました。笑
『純喫茶パオーン』は、ハートフル方面です。

【  あらすじ  】
とある地方の、エモさ抜群な純喫茶「パオーン」。
間違っても「カフェ」なんて呼んじゃいけない。
風変わりなのは店名だけじゃなくて、なんちゃって方言をあやつり、手元が怪しいのに一滴もこぼさないウエイターのおじいちゃんと、適当に味付けしてるのに、魔法のように美味しい料理を作る、気風のいいおばあちゃんが営んでいる。
主人公・来人らいとはその2人の孫で、パオーンを毎日のようにお手伝い。
小学生・中学生・大学生時代の来人が体験する、パオーンとそこに入り浸る人たちの、日常ミステリーのような、優しいホラーのような、|SF《すこしふしぎ
》なハートフルストーリー。

∞-------  以下、すこーしネタバレします  -------∞

読む前は、
純喫茶に集う大人たちの紆余曲折物語
だと思っていたのですが、開けてみると、
純喫茶に集う大人と子供が織り成す児童文学
だなと思いました。

多様性な登場人物や起きる事件、セリフなどに、ファンタジーやコメディ要素があったり、誇張していたりするので、子供たちも読むことを想定して書かれた物語なんだろうと思いました。
青い鳥文庫で出ていてもなんら不思議はない感じです。
(ちなみに私は青い鳥文庫を読んでいる大人です。岩波少年文庫も胸熱)

ということで、アニメ化希望です(笑)
もしくはNHKの少年ドラマシリーズとか!(今ないよ)
まずは、NHKのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」あたりでどうでしょう?

話は最初に戻りますが。
素敵にまとまるのかと思いきや、どんでん返しがあったりする椰月先生の小説。
この本も読み進めながら「来人はもしや実は人生2周目とかだったりするのでは……?」と、最後の一行まで疑いまくっていました
そのくらい、来人が達観している印象だったのです。
最初の章では小学5年生、2章では中学1年生、最後の3章では大学1年生と成長して行くのですが、どの年齢を切り取っても、来人はちょっと大人びた考え方をしています。

例えばーー
小5の来人は、常連の高校生・ユリちゃんが大好きで、ユリちゃんやその友達の席に座って彼女たちの話を聞いています。
恋バナで盛り上がる彼女たちですが、だんだん雲行きが怪しくなって……。
そこで来人は、彼女らがぐうの音も出ないほど、ぴしゃりと叱り倒します。
自分が小学生だったときを思い返してみてください。
たった5〜6歳離れているだけなのに、高校生が「大人」に見えませんでしたか?
大人に11歳が正論を叩きつけるのは、猛烈な勇気がいる。
それを来人は日和もせずにやってのけるのです。

次の章でも、パオーン始まって以来の大事件が起きているのに、来人だけ中心におらず、少し離れたところにいるように思えました。(精神的に)
確実に主人公で物語の中心人物なのに、どこか傍観者なのです。

だから私は、最後の最後で「実は来人は人生2周目でしたー」という種明かしがあるのではとハラハラしながら読んでいました。
椰月先生ならありそうだな、と思っていたのです(笑)
ここまで読んでいただければおわかりのとおり、そういう結末ではありません。
(いや、続パオーンとかが出て、実は……てパターンもあるな)

大人になってしまうと、残念ながら子供の頃に考えていたことの詳細は忘れています。
年を取れば簡単にわかって(わかった気になって)しまうことを一生懸命こねくり回して考えていたはずなのです。
もしかしたら、あの頃が一番、哲学者だったかもしれません。
来人が人生2周目のように達観しているのは、「小5だからできること」なんだと思います。

椰月作品の書評では、よく「瑞々しい感性」という表現がされています。
子供の様子や思考をリアルに描いている、という意味なんだとは思いますが、むしろ
私たちを子供(の頃)に還してくれる
という意味もありそうです。
よく観察して、いろんな共通点を見つけ出して、読者が忘れていた部分をくすぐることができたら、瑞々しい作品が書けるのかも……なんて。

さて、最後に。
この純喫茶パオーン、モデルになった喫茶店があります。
学生時代、毎日のように近くを通っていたのですが、なんと未だに行ったことがありませんすみません。
ぜひ近いうちに、ミルクセーキやナポリタンを堪能しに行ってみたいと思います。
常連さんに混じれるかな?笑


本日もミッドナイトな相棒・MacBookAirからあやがお送りしました。
遅読で遅筆なので次の更新はいつになるやらですが、3冊目でお逢いしましょう。

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