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見返してやる、なんて思わなくていいから好きなら続けろ。▶『お探し物は図書室まで』感想文エッセイ

私なら、どんな「ふろく」をもらえるのかな?
そう思いながら読んだ一冊。

英さんの閉架書庫、2023年の一冊目はこちら!

『お探し物は図書室まで』青山美智子・著/ポプラ社
読書期間:2022年12月(日にち不明)~2023年1月6日(くらい)

言わずと知れた、本屋大賞2021で2位に輝いた作品です。
ずっとずっと気になっていて、でも、
文庫じゃなくてソフトカバーなんだよな〜、お値段とサイズがな〜……
と思って手に取れませんでした。
(非正規公務員はいろいろ考えちゃうのよとほほ)
好きなタイプの物語だから、手元に置きたくて、図書館で借りるのもためらっていました。

昨年、ポプラ社の作品を続けて読む機会があって、
やっぱりこれは読めってことだよね!
と思い、駅ビルの書店でポイントがたくさん付く日に、ついに購入!
(セコいんじゃない、賢いんだ!)

読み終わってみれば、フセンだらけのビシビシ響く一冊になっていました。

★ あらすじ ★
都内の羽鳥区にあるコミュニティハウス(通称コミハ)の図書室に、人生の岐路に立ち、悩み迷ってふらりとやってきた5人の利用者それぞれの短編連作の物語。
大柄でひっつめ髪にかんざしを差した『らんま1/2』の早乙女玄馬パンダver.みたいな姿の司書・小町さゆりさんが、利用者の「今必要としている本」を調べて選んでくれます。
その中には「リクエストしていない本」もあり、利用者はなんでその本がおすすめされているのかはわからなくて……。
さらに、小町さんが仕事中(!)に作っている羊毛フェルトのマスコットも「その本のふろくだ」と手渡され、???の混乱状態。
しかし、その???な本を開いたとき、彼らは自分で自分の道を見つけ、いつの間にかマスコットがお守りのように足元を支えてくれていることに気づきます。

小町さんは、大好きなハニードームのお菓子箱にフェルト道具を詰めて、レファレンスコーナーでちくちくやりながら、今日も悩み多き利用者に優しい声で聞くのです。
「なにをお探し?」って。

大大大好きなハートフォーミング・ストーリー!
やっぱり、悩んでいた人が何かのきっかけで自ら道を見つけて進んで行く、というのはものすごくカタルシスがあります。
しかも、前の章で主人公だった人が別の章に登場したり、報われたり……好きなパターン!

この本の目次には、図書室の利用者の名前と年齢と職業が書かれています。
彼らが「仕事」や「自分の立場」について悩んでやってくる、というのが一目瞭然です。
20代から60代まで年齢はバラバラで、職業も「定年退職」や「ニート」なんていうのも。
私もニート経験者なので、人生に立ち止まらざるを得なかった人や、年齢で仕事を取り上げられてしまった人の話が入っているのが良いですね。
作者の青山さんの周りには、いろんな経験をしてきた人たちがいるのかもな、と思いながら読みました。

さて、大量のフセンがつけられたこの本ですが、見ての通り私にはビシビシ来る言葉がいっぱいです。
ぜーんぶ書き記したい気持ちでいっぱいなのですが、たぶん、そうするとちっともUPできないので、いくつかにします(笑)

フセン、こんなやで。

「今、僕のことを笑ってる人は、僕がこれからどんな状況になったって笑うよ。小さなほころびを探してね」

四章 浩弥 三十歳 ニート より

この章の主人公・浩弥の友人の言葉なのですが、めっちゃめちゃ身につまされる……!
彼は作家志望で、別の仕事をしながら投稿や文学フリマへの出品を続け、三十歳になるけれどなかなかデビューはできないでいます。
主人公・浩弥もイラストレーター志望ですが、描く絵が独特すぎて受け入れてもらえません。
承認欲求が強く、周りを見返してやりたい浩弥に対して、友人・征太郎は粛々と自分のために取り組んでいます。
成功するのは後者だってわかってるのに、私はどうしても浩弥側の人です。
体型のこと、四大を出ていないこと、非正規雇用のこと、責任を伴う仕事ができないこと、うつや発達障害のこと。
見返してやりたい、私をバカにして来た人を。親を。
だけど、このセリフを読んで、ハッとしました。

私の知人に某超有名作家と同級生という方がいるのですが、彼が「あの作家と学生のころに一緒にバイトしてたんだよ。今じゃ有名人になちゃったけど、当時は仕事できなくてさー」云々と言っていたのを思い出しました。
それを聞いたとき、正直、明らかに作家さんのが収入も社会的地位もあなたより上じゃね? と思いましたが、やっぱり彼の中では「みんなができることをできる人が偉い人」なんでしょうね。
征太郎のセリフに「正しく!!」と思いました。
見返すために頑張るのは、ちっとも自分のためにはならないようです。
仕事で「あー、この人、私のことなんにもできない人だと思ってんなー」と感じたら、思い出すようにしている一文です。


「何かを始めるときにはそれが後から役に立つかどうかなんて考えたことないですよ。ただ、心が動いたら、それだけでトライする理由になると思うんです」

五章 正雄 六十五歳 定年退職 より

最後の章の主人公・正雄を窓の外の世界へいざなう人物のセリフです。
どうやら私は、主人公よりも、その周りにいる人たちの言葉に力をもらうタイプのようですね。

幼いころから、興味を持つとなんでも試してみたくなります。
「見てみたい」「やってみたい」が口癖で、親からもよく「おまえはなんでもやってみたいんだな」と呆れられていました。
自分の目で見て、体験して、自分にどう作用するのか確認したいんですよね。
ただ、興味が向く範囲が珍しいものとか芸術系とかに限られるのですが……。
(勉強とか仕事とかはね、全然やってみたいと思ったことないっすね)

大人になってからも、ミシンを新調して袋ものを作ってみたり、レジン作品を作ってみたり、オイルパステルを買ってみたり、ハイスペックだとは思いつつM2のMacBookAirをいじってみたり……などなど。

それをやって何になるの?
いくら儲かるの?
おまえは何屋になるつもりなんだ
と言われるたびに、いろいろと頭で考えつくだけの理由を言って、なんとか今後の自分に役に立つことを説明するようにしていました。
お金がかかるからということもありますが、我が家が「タメになるならやってもいい」という方針だったのもあると思います。

でも、なんとなくそうじゃない感じがあったんです。
見たい・聞きたい・知りたいって思ったときって、「今後の役に立つから興味が湧くんじゃない」ですよね。
興味がお金や生活に絡め取られて、心が動いたという事実にストップをかけるのはもったいない。
心が動いたんだからいいじゃないか。それがやりたい理由だ」と言っていいんだと、もやもやしていた気持ちが晴れたセリフでした。

今はね、iPadAirで絵を描いたり、バイオリンを弾いてみたいです!
(お金のことを考えるのは、心が動いたその後の話だわね)


たくさんの「思うこと」があって、長い感想文になってしましました。
読んでみて改めて思ったのは、やっぱりハートフォーミングが好きだということ。
ポプラ社新人賞には、前から書きたいテーマがあって、それはどうしても自分の重たい部分とか暗めな話になりそうだったのですが、
やっぱり、やっぱり、誰かがなにかのきっかけで道をつかんで明るく前向きなカタルシスがある話がいい気がする!
と思ってしまいました。
(うぅ、今から転換できるかな……頭の切り替えが……)

もうひとつ。
パラレルキャリアについての物語も出てきます。
仕事をひとつに縛る必要がなく、複数をこなしてもそれは副業ではなく、お互いを補い合う働き方のこと。
40代の私は、仕事は主力をひとつにし、他にやるなら趣味を副業に、という考え方が普通だと思って来ました。
非正規公務員は仮の姿で、文章を書いて生活する方をメインにするんだ、とも。
だけど、もうそんなことに囚われなくていい時代になっていたんですね。
自分が楽しく毎日をすごせるなら、どっちもメインでいい。
収入の差で自分の仕事に上下を付けなくていい。
上下を付けないから、どちらの仕事をしていても、劣等感を感じる必要がない。
これはすごく素敵な考え方が認められてきたな、と思いました。

1冊目にして熱く語り、さらにエッセイ的要素も入れ込んでしまいましたが、読書ってこうやって自分の中の鬱屈したものを取り出して昇華させる役目もある、ということで。
さて、私は小町さんに合ったら、レファレンスでどんな本を選んでもらって、なんの羊毛フェルトを手渡されるのか……ゆるゆると考えながら眠りに落ちたいと思います。

ではまた2冊目でお逢いできる嬉しいです。
今夜も自宅の相棒MacBookAirからお送りしました。

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