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バレンタインにちょっとだけまつわる、10年来の初恋の話②

小学校を卒業して時は過ぎ去り、2012年の冬。

私は大学生になっていて、イギリスの北部ニューカッスルに単身留学中だった。
当時、Facebookが一番波に乗っていた時代で、「友達かも?」のサジェスチョンから古い友達とのオンライン再会、なんてのもよくある話だった。
その中で突然出てきたのが、Kくんだった。
見た目はもちろん成長していたけど、フルネームを見た瞬間にKくんだ!!と気づいて、突然いろんな過去の記憶が蘇った。
もちろんそのときは恋愛とかでなく、純粋に「懐かしい!」という気持ちでページを開き、今何してるのかな、なんてプロフィールを覗きに行った。
少し話が逸れるけど、私はイギリスのロック音楽の大ファンだ。
でも、なかなか中高大と話の合う友達ができなくて、好きなバンドの話を思い切りできる環境なんて日本じゃどこにもないのかも、なんて諦めてすらいた。
そんなとき、Kくんの『好きな音楽』欄に目が留まった…
あれ?このバンド…えっ、まさかそんな。
いや、たしかにそうだ、このバンドもこのバンドも、私の好きなあのバンドたちに違いない。
彼の好きな音楽欄は、有名バンドだけでなくマイナーなインディーズまで網羅されていて、人生ではじめて音楽の趣味が合う日本人を見つけた瞬間だった。
興奮冷めやらぬまま、久しぶり!とメッセージを送るまでにそんなに時間はかからなかった。
あちらも名前を見て私のことを思い出してくれて、10数年の時差などなかったかのように、あっという間に話は盛り上がった。
私が今イギリスに住んでいることもあり、趣味の話題は尽きなかった。
すぐにLINEを交換して、そこから毎日のように連絡を取り合うようになった。

日本とイギリスには時差が9時間あって、ちょうど昼と夜が逆転している。
いつも朝起きると携帯をチェックして、KくんのLINEがきていたらそれを読んで朝ごはんを食べ、学校が終わった夜に返信をするサイクルが自然と生まれた。
ちょうどホームシックになりかかっていたこともあって、故郷が同じで趣味の合うKくんはどこか身近に感じ、勉強でつらい毎日の励みになっていたのだった。
私の住んでいた寮にはWi-Fiがなくて、有線でパソコンを繋ぐか、連絡のやり取りには現地で買った安い旧式の携帯を使っていた。
だからLINEは日本から持ってきた携帯を使うしかなかったのだけど、部屋にWi-Fiがないものだから、いつも窓から落ちそうなほど身を乗り出して腕を伸ばして、通っていた大学施設の公共Wi-Fiをギリギリ一本奪うことで、なんとかLINEの受信ができていた。笑
大学まで出ればもちろんできるんだけど、身を乗り出してLINEを読むことが朝出かけるまでの日課になっていたから、そのルーティンをこなすことで心の癒しをもらっていたのだった。

そんなこんなで、毎日のやりとりは1ヶ月続いた。
日本に帰ったら早く会いたいね、話したいことたくさんあるよ、なんて会話しながら。
そのうちイギリスにも2月が訪れて、バレンタインシーズンがやってきた。
特に好きな子もいなかったから、友達と凝ったチョコケーキを作ってみんなで食べるだけだったけど、そのときふと、過去の思い出が甦った。
そういえば私、昔バレンタイン告白したけど失敗したよなあ、と。
今となればもう笑い話だったけど、それからというものKくんをなんとなく意識するようになってしまった。
こんなチョコケーキ作ったよ、と写真を送れば、「いいな、食べられた人が羨ましい、俺も食べたい。俺は母さんとバイト先からしか貰えなかったわ」なんて彼が言うから、アホな私はちょっぴり期待してしまって。
思い返せば、ここで「バイト先」の話をちゃんと突っ込んで聞いておけばよかったのだけど…
それは後に続く話。

しばらくして、就活関連の予定があり、日本に一週間だけ一時帰国することになった。
すぐに彼にそれを伝ると、話はとんとん拍子に進み、レオレオニの美術展に行って、夜ご飯を食べるというデートコースが決定した。
最高潮にホームシックだった私は、それはもうウキウキしながら日本に戻り、万全の体制で彼に会いに行った。
10数年ぶりに会った彼は、驚くほど変わっていなかった。
顔を見た瞬間、ああ、あのカッコ良かったKくんのまんまだ、と。
それからはもう説明するまでもないが、彼との話は本当に楽しくて、小学生時代の懐かしい話から、私たちだけの音楽の趣味の話、最近何をしているのか、とにかくずっと話は尽きなかった。
彼は将来建築士になりたくて、厨房のバイトの傍ら、勉強しているのだと言った。
キラキラした外見や趣味が合うだけでもじゅうぶん素敵な人のに、こんな真面目な一面があったのか。
単純な私は、一瞬で再び恋に落ちた。
お店にもギリギリまで滞在して、また会おう楽しかったねってそんな話をしていた。

私はといえば、もはや今すぐこの気持ちを告白したいくらい熱が上がってしまっていた。
昔から熱しやすいタイプなのだが、このときが最短記録だったかもしれない。
一週間だけの日本滞在という非日常に、小学生の頃の初恋の人との再会だなんて、おそらくテンションは普通でなかったし、まともな判断はできていなかったと思う。
でも、こんなに価値観の合う人がいて、しかも好きになれるかもしれなくて、また遠距離に戻ってこの気持ちがしぼんでいってしまうことが怖かった。
だから、イギリスに帰る前日に約束をして、もう一度会うことになった。
しかも、小学生時代の地元の公園で。
懐かしいやら、気持ちが昂ぶるやら、頭の中は大混乱だったが、帰る前に絶対気持ちを伝えようと決めていた。
こんなショートスパンで告白だなんて気持ち悪いと思われても、どうせ散るなら早い方がいい。
ふたりでiPodからイヤホンつけてThe Kooksのアルバムなんかを聴きながら、彼のバイトのことや、イギリスでの勉強のこと、将来について…いろんな会話をした。
ただ、私はいつ言い出そうかと気が気ではなく、正直全然集中できなかった。
これ以上耐えられなくなったタイミングで、地元の子供達が公園で遊ぶのを片隅に見ながら、ついに「あの、好きになっちゃったかもしれない」って白状した。

彼の答えは、結論から言うと、「付き合えない」だった。
悲しかったけど仕方なかった。
彼にはずっと好きな人がいると、そのとき初めて聞いたから。
どうせもうイギリスに帰るし、ここで振られてよかった。
彼はバイトの女の子が好きで、一年以上片思いしているのだそう。
その子にもまた片思い相手の男性がいて、だから自分にはなかなかチャンスがないけど、それでもやっぱり好きで諦めきれないんだ、と。
登場人物全員がぐるぐる片思いの連鎖になってる図式がなんだか面白くて笑っちゃったし、悲しみがすこし浄化された気がした。
世の中、みんながみんな両思いになれるなんて都合のいい展開、そんなのないんだって思わされた日だった。

私の中でのKくんへの片思いは、ここで本当の意味で終わったと思う。
お互い片思いしている同士、これ以上突き詰める気もなかったし、小学生の頃の不完全燃焼に終わった気持ちをちゃんと精算できた気がしたから。
もちろん失恋したわけだし、しばらくはつらかった。
でも日本にいる間に思いを告白できてしっかりフラれたからこそ、後悔はなかった。
その後、帰国してから恵比寿のホステスクラブウィーケンダーで彼を見かけたりもしたけど、もう気持ちがぶり返すこともなかった。

なんにもうまくいかなかったし、とくに面白いオチもないんだけど、長かった初恋の話はこれで終わり。
バレンタインと聞いて、ひさしぶりにこんな懐かしい記憶が頭をよぎり、ふと文字に書き起こしてみた。
結局恋愛を含めて、人生はすべてタイミングが大事だと実感する思い出だった。
「やらない後悔より、やった後悔」はいまでも私のなかでのモットーです。
以上、めちゃくちゃに個人的な懐古話でした。

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