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バレンタインにちょっとだけまつわる、10年来の初恋の話①

小学5年生の頃、初めて本気で好きな男の子ができた。

Kくんは、100人ほどいた学年中でいちばんを争うほどのいわゆるイケメンだった。
同じクラスになってはじめて話したとき、たった10年の人生の中だったけど、今まで出会ったことのないような、輝かんばかりのオーラに衝撃を受けた。
襟足を少しだけ伸ばしたサラサラの茶髪にきりっとした男らしい瞳、笑うと八重歯がみえるのもかわいかった。
そのうえサッカークラブ所属で、学年一足も早くて、ユーモアもあり、だれもから好かれるパーフェクトボーイ。
うちの学校からついにジャニーズ輩出か?なんて噂されるくらいだった。

Kくんはクラスの人気者だったから、仲良くなろうにも、当時の私にとってはなかなか難しい問題だった。
というのも、小学生時代の私はTHE・陰キャのオタクで、かわいい服や髪型にも興味がない、完璧すぎるほどモテない女の子だったからだ。
「着心地がいいから」っていう理由でずーっとお気に入りのグレーのセーター(超地味)を着ていて、完全にクラスの床とか壁に紛れる存在だった。

今よりかわいくなろうなんて考えは思いつきもしなかったけど、それでも人は身の程を知らずに恋に落ちてしまうもので。
どうにかこうにか小学生なりに仲良しの女の子に相談して、仲良くなる術を考えていた。
当時流行っていた謎のおまじないもたくさん試した。
消しゴムのケースの中にフルネームを書いて、誰にも気付かれず使い切れば恋が叶うだとか、シャーペンを名前の画数分ノックしてからハートを描いて、折れないように中を塗り切れれば上手くいくだとか。
まあどう考えてもバカなんだけど、全部できることはやっていた。
それくらいKくんに夢中だった。

がんばっていた私に運が味方したのか、とある日、話すきっかけが突然やってきた!
私の大好きだったハリーポッターをKくんも好きだとわかったのだ。
当時公開されていた映画の話や、グッズを持ち寄っておしゃべりできるようになった。
ふたりで呪文の練習をしたり、映画のセリフをまねっこしたり。
ニヤニヤしそうな表情をおさえながら、毎日ハリポタの話題で席に話しかけに行くのが人生最大の楽しみだった。
小学生の恋愛なんて所詮それ以上はなく、話せるだけで幸せだったけど、とある転機が訪れた。

Kくんと仲良しの男の子に、Mくんという子がいた。
私がクラスで仲良くしていたRちゃんがMくんのことが好きとわかり、それをきっかけに我々は共同戦線を結ぶことになった。
お互いの片想い相手に話しかけにいくついでに、片方も会話に入ってもらい、あわよくば4人で仲良くなっちゃおう作戦だった。
Rちゃんと私は当時同じ英会話塾に通っていて、帰り道にシャーっと自転車で走りながら、いつも作戦会議をしていた。
仲良くなり始めてわりと調子に乗っていた私たちふたりは、ついにもう一歩先に進もうと決意。
先日惜しまれながらも閉園してしまった『としまえん』にて、4人でダブルデートをしようというかなりハードル高めの案だった。
そんな夢みたいなこと叶うわけない!!と思ったけど、もうそのとき小学6年生に進級していた私たちにはあとがなかった。
ここでキメなきゃ、一生後悔する!
そう思った若き少女ふたり、お互いの相手をそれぞれ誘うことに決めたのだった。

今の若い子はケータイが当たり前だから想像が難しいかもしれないが、当時はだれかクラスメートと約束を取り付けたければ、その子の家に固定電話で電話するのが普通だった。
たいていの場合お父さんがお母さんが電話口に出てしまって、「○○ちゃんの友達です、代わってもらえますか」とモジモジお願いしたものだ。
この時のことは今でもわすれない。
うちは固定電話の真横にクラスの連絡網が画鋲でとめてあって、そこからはじめてKくんの電話番号を探し、はじめて電話をかけたときの心臓の音!!
案の定お母さんがでて、Kくんに代わってもらう羽目になったけど、緊張しすぎてもはやそんなことはどうでもよかった。
いろいろ理由をこじつけたけど、なんとか「4人でこんどの日曜日、としまえんに行かない?」と誘うことができた。
たぶん電話口の私の声は震えていたと思う。
でも、あっさりとKくんは「いいよ!」とオッケーしてくれたのだ。
もうそこからはあんまり覚えてないけど、とにかく信じられない気持ちでいっぱいだった。
すぐに次の日Rちゃんと話して、「どうしよう!何着てこう!何時にしよう!」って騒ぎまくった。
観覧車は緊張しちゃうかな?わざと途中でバラバラになって、ふたりきりの時間とか作っちゃう?なんて妄想して、舞い上がっていた。
と、まあそこまでは順調だった。
ように見えた。
待ちに待った週末、なんとまさかの大雨予報!
親にもさすがに行くのはやめなさいと言われ、結局夢のとしまえんダブルデートは叶わぬまま無かったことになってしまった。
天から地獄へとはこういうことか、と、小学生ながらに悟りを開いた出来事だった。

なんとなくそれをきっかけに気まずくなってしまった、私とKくん。
でも、やっぱりクラスで見るKくんはカッコよくてキラキラしていてドキドキして、気持ちを仕舞い込むことなんて私には到底無理そうだった。
卒業の4月までに気持ちを伝えないときっといつか後悔すると思った私は、2月のバレンタインデーというイベントに賭けに出ることにした。
ふたりででかける機会なんてもちろんないし、このままだと有耶無耶で終わってしまう。
もうそこしかチャンスはない。
バレンタインに備え、友達の家でチョコレートを準備した。
もうハチャメチャにわかりやすい、ハート型のチョコだ。
それをかわいいラッピングに包み込み、いざバレンタイン当日の放課後。
としまえん事件以来にK君の家に電話をかけて、待ち合わせをしようかと思ったけど、迷いに迷って、結局チキンな私は勇気が出なかった。
ちいさなメッセージカードに、「いつも授業で助けてくれてありがとう。これはバレンタインの本命チョコです!Kくんのことが好きです。」と書いて、箱の中にそっとしまうことにした。
(当時、クラス内のグループワークで同じ班だったから、授業で話す機会だけはあったのだ)
小学生って怖いものなしというか、今思えばだいぶ大胆なメッセージ。
たぶん恋愛漫画の読みすぎで影響されていたのだと思うけど、今の私の当たって砕けろ精神は、きっとあの頃から育まれていたのだと思う。
ともかく、その箱を持ってKくんのおうちに直接向かった。
どこかで偶然出くわしたりしないかな?なんてちょっぴり期待しながら道を歩いたけど、そんな奇跡があるわけもなく、普通にマンションに到着した。
Kくんの部屋番号の郵便ポストに箱を突っ込んで、逃げるように家に帰ったのを覚えている。
読んでくれるかな?食べてくれるかな?そんなことをずっと考えて。

次の日、心臓がやぶれそうなくらいドキドキしながら登校した。
だが、グループワークでも、休み時間でも、放課後も、Kくんからのアクションはゼロ。
むしろ目も合わせてくれない。
えっ、どうして?絶対見てるはず。感想くらいないのかな?それとももしかしてまだ気づいてない?お母さんがかわりに開けちゃった?なんで、なんで。
ぐるぐるぐるぐる悩んでいるうちに放課後も終わり、なにも会話できずに終わってしまった。
あんなメッセージをいれた手前話しかける勇気がなかったからだけど。
そのまま結局、卒業までなにも生まれないまま、あっさりと私の片思いは終わりを告げた。
あんなに頑張ったのに、人生は無情なものだとはじめて思った。
本気で恋してプレゼントしたバレンタインチョコレート、彼は食べてくれたのかはいまだにわからない。

でも、そのあとしばらくして、ふと気づいたことがあった。
私はメッセージカードに自分の名前を書き忘れていた。かもしれない。いや、書いたよね?…書かなかったかも。はずかしくて、名前を書けなかったんだった。
そう、ただの馬鹿だった。
それじゃ、私があげたことすら気づいてもらえるわけがないし、ましてや匿名のチョコにお礼なんて言われるわけもない。
別に名前を書いたからって恋が実ったとは思えないけど、中途半端に終わらせてしまった自分をひたすら責めた。
やるなら最後までやり切るべきだったのに。
私のひそかな初恋は、微妙に風を吹かせながらも、何事もなく儚く散って終わりを告げた。

ここまでが小学生時代のお話。
片思いはここで終わったと思っていたけど、思いもよらない形で再び再燃することになった。
こればっかりは、私もまったく予想できなかったことだ。
長くなってしまったので、②に続けます。

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