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手紙


xxxxxxxx様

普段は言えないけど、こうしてこっそりと手紙でなら伝えられるかなと思って筆を取りました。君がこの手紙を読むことは、到底ありえないことでしょうが。

君は寒いのがとても苦手だったけれど、今年の冬は体調を崩してないでしょうか?この間ようやく雪が降りましたね。君が生まれた日は初雪だったと、苦々しげに君が話してくれたのを思い出しました。


君が最初、どういうつもりで私なんかを認知してお話ししてくれるようになったのか、今でも君にまつわる謎のひとつです。けれど、どんな理由があるにしろ、ただの気まぐれにしろ、私にとっては奇跡的なことで、本当に有り難く嬉しく思っています。

君も私も、数ヶ月前に恋人とふられた頃に出逢いましたね。文面で会話していた時から、独特な世界観や君の人間的ユーモアに魅了されていました。私にはない頭のキレと本質を読み取る能力について、実は心底尊敬しています。あまり褒めると君は調子に乗るかな。

何故だからわからないけれど、話しているといつのまにか笑ってしまうし、時々刃物みたいに冷たくて鋭い言葉で刺されて、あぁこの人は私にとっては特別な人だなぁと直感的に思っていました。それは今でも変わらないです。

私はこう見えて(どう見えるかはわかりませんが)意外と冷淡な面もあり、どうでもいい人からの言葉には無反応なんです。好きな人にしか優しく誠実に接することができないから。他の人だったらはねてしまうようなことでも、君のお願いとあらば出来る限り引き受けてしまうの。知らなかったでしょう?


当時君は彼女のことをとても引きずっていたけれど、私にはそれがとても愛しくてたまりませんでした。こんなことを言うと、きっと君はまた私を変人扱いするでしょうね。けれど私はそんな君を見て、少しでも幸せになってほしい、どうか幸せを諦めないでほしいと思ったし、私もそんなふうに君に愛されてみたいと憧れるようになりました。そして、そうなりますようにと願ってしまったのです。

電話越しに彼女の話をきくたびに、私は絶望して本当はずっと死にたい気持ちでした。私はその人には絶対なれないし、敵わないことをそのたびに思い知らされていました。だけどそれが総てだよね。人間なんてさ。じゃなきゃ成り立たない。私だって誰でも代わりがきくような存在であるのが嫌だったから、それはよくわかっています。

君はいつでも真実を、それがどんなに残酷なものでも、真っ直ぐに受け止めて見抜いていて、私はそういうところが人として本当に好きです。みんなが怖くて逃げていることを認め、静かに絶望する君は本当に強くて哀しくて美しいのです。

本当に絶望した人間にしかわからない感情があると思っています。

私たちはきっとそこで繋がったか細い糸を手繰り寄せて巡り合ったんだよ。


秋に君が「近いうちにもう死ぬね、最後に君に会えてよかったよ」と言った時、自分の無力さを痛感して私も死にたかった。愛していたって実際に何かできるわけではない、愛なんてなんの意味もない。愛してるから何なんだよ、私はごみだよって叫んでしまってごめんなさい。

だけど死んで欲しくなくて、止める君の言葉を無視して会いに行きましたね。君は死なないでくれたけれど、本当にそれが正解だったのか今でもわからないです。あの時どんな気持ちでしたか?いや、もう君は覚えていないかな。


あと君は記憶が抜け落ちてしまうから覚えていないかもしれませんが、「君は陽だまりのような人だね」「君には報われて欲しい、君みたいな人が報われない世界なんて僕は嫌だ」「君の存在が事実なら君は僕の救いだ」なんて、どんな宝石よりキラキラした言葉を私にくれました。全部全部大切に覚えています。もうその言葉だけで報われているよ。ありがとう。


一緒に君の家に帰った日、夕焼けに並んだ影が愛しくて、君の影に自分の影でこっそりキスしたの。

光が見えないからもう影も消えてしまったね。


長くなってしまったので、そろそろさようなら。

どうかお元気で、



xxx

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