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をかし神との遭遇

タイトルから察するにお笑い芸人か
いやいや彼は一般人である
彼と言っては失礼だ
ミスターセンクスが関わっている
あるプロジェクトを進めてくださっている
初老の男性である

かれは神である
私はそう断言できる
非常に真面目な性格で
ビジネスミーティングでは
隙ひとつない立ち振る舞いをする方だ

そんな方から夜に電話があった
ひどく疲れているというか
ひどく落ち込んでいるような
普段ミーティングでは聞かないような
弱々しい声だったことを覚えている

それでその方はこう言った
抑揚のない真っ直ぐな口調で

プロジェクトのタスクを早く進めたいので
社員には早くするようにハッパをかけているんですが
無視されてしまって進まないんです
ハッパロクジュウシって言いますけど
まさにその通りなんです
ムシだけにね

おい
おいその方
大丈夫でござるか

ミスターセンクスはその瞬間どうなったか
5秒は凍りついていたと思う
うまいこと返すことには長けている私が
何も返せなかったのである

これは寒いという感覚か
オヤジギャグ特有の寒さなのか

いや違う
寒くはない
ただ驚いているのだ
冗談のひとつも言わないその方が
抑揚の全くない口調で
なんか変なことを言ったのである

5秒後に洪水のような笑いが
ミスターセンクスを襲った

笑いと言ってもそういうものじゃない
はっはっは!というものじゃなくて
ぐへっぐへっみたいなやつだったと思う

生まれて初めて感じるこの感覚
これはなんだ
ギャグという軽いイメージで片付けてはいけない
これは「いとをかし」のやつだ

趣しか感じない
趣の中に溢れるような滋味深さがある
何かがミスターセンクスを包んでいる

わからない
なんなのだろうかこの感覚

ハッパをかける
無視される
8×8=64
ハチかけるハチはロクジュウヨン
ハッパロクジュウシ

その読み方が複雑に組み合わさった
ひどく教養を感じる洒落である
洒落ているというのはこういうことか
それとも狂言と申すべきか

そちには尊敬の念しか浮かばないでござる
参りました!


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