日本とシリコンバレーのマッチングがうまく行かないたったひとつの理由 (95/365)
仕事柄、日本と海外をつなぐ機会が結構あります。よくあるのが、日本の企業と海外のスタートアップのマッチングです。
私もマッチングする以上事前ヒアリング含めてある程度アジェンダには気を遣いますが、マッチングがうまくいくかどうかは、当事者がどういう意図を持っているかにかかっているのですよね。
よく全員スーツの日本人視察団は敬遠される、と言いますよね。スーツ云々は象徴的に言ってますけど、結局のところ視察の意図はなんだったの?という違和感に尽きると思います。
「最初に確認させてください。今回ご訪問の意図はなんでしょうか?」
「御社を訪問し最新技術の動向を学ぶことです。」
「どのような技術分野に興味をお持ちでしょうか?」
「それを今回の訪問で探りたいと思います。」
「想定されている応用分野、事業はなんでしょうか?」
「当社は〇〇産業に属しています。」
「はい。具体的にはどの事業に当社の技術が適用できそうでしょうか?」
「それは今回の訪問を通して検討します。」
「深い話をするには、NDAが必要です。締結をしていただけますか?」
「持ち帰って法務に確認しないと何とも言えません。」
「・・・・」
文字に起こしてみると凄まじいですが、ほぼこれに近い会話を何度も目撃しています。以前記事を書きましたが、意図的に相手を誘導する狡猾さも感じませんので、これは本当に意図がない、空っぽな人なんだろうなと思います。
2022年のシリコンバレー視察で当時の荻生田経産大臣がインタビューを受けていました。
経産省では、選抜された若手の起業家候補をシリコンバレー視察に派遣する取り組みをしています。起業による経済活性化を促進するために、派遣人数を今の10倍にして、5年間で1000人を派遣するというのです。
「1000人規模の起業家がシリコンバレーのダイナミズムを持ち帰ってくれば、日本のスタートアップの景色も一変するはずだ」
視察といってもその実態は、1週間程度のあらかじめ決められたツアーとワークショップと聞いています。もちろん短期間でも、感受性の高い人は何かを感じて、自己改革に向かうでしょう。
しかし、それならば視察派遣の量を増やすより、選抜された起業家候補を現地企業にインターンで送り込む支援や、シリコンバレーでの起業の支援などに予算を振り向けるべきでしょう。
こんな場面でも、「ばらまき」発想から抜けられないのだなと悲しい気持ちになりました。
ふと思い出したことがあります。以前の会社で、台湾の企業に技術の売り込みに行った事があります。私は技術リーダとして。マーケ担当の相棒と2人で乗り込みました。一通り技術紹介を終えると、先方の役員が少し前のめりになって質問してきました。
役員「この技術は我々の性能目標を達成できそうか?」
私 「はい。改良は必要ですが可能です。」
役員「よし。次にこの技術の搭載製品の出荷は、計画に間に合うか?」
相棒「はい。いまから生産ラインを抑えれば間に合います。」
役員「うむ。それはよい。」
好反応をもらって、この案件は前向きに進めることになりました。帰り際に役員がぽろっと言った言葉がこちらです。
役員「君たちはその場で自分の言葉で答えてくれた。君たちを信頼している。これまでとは違う結果を期待する。」
これまでの対応は、あーだーこーだ言い訳を並べたうえ、「本社に持ち帰ります」というのが普通だったそうです。
正直に言いますと、私も相棒も、完全なる自信や裏付けがあったわけではありません。しかし、期待できる商談だったので、覚悟を決めて「はい」といったまでです。先方もそれは承知の上で信頼してくれたのでしょう。
残念ながらこの商談は成約には至りませんでしたが、次に向けた信頼感は構築できましたし、とてもよい勉強になりました。
冒頭の話に戻りますが、訪問や会合の提案をするなら、まず自分なりの仮説と意図を持ちましょう。スタートアップは単なる表敬訪問を受けるほど暇ではありません。予算消化とか、報告書のための訪問なら、そんなのやめちまえと言いたいです。
ふと思ったのですが、昭和の営業には用事が無くても顔を出して挨拶せよという文化もあって、それはまあ全否定はしませんが、なんかそういうメンタリティのネガな部分が残っているのかもしれないなと思いました。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。