わたしがいなくなっても

年末年始に2週間あまり里帰りをすることになっている。飛行機のチケットは相変わらずめちゃくちゃ高い。ハイシーズンなので仕方ないけど、オンライン決済をする時に嫌ーな動悸がする値段だった。

もし帰国の時期を春先にできたら、値段も若干安くなるだろうし花もわんさか咲いて素晴らしかろうとは思うものの、子供の学校が休みになるタイミングで行かなきゃならないので、どうしても夏休みか冬休みになる。あと数年は仕方ない。

だんながひとりで留守番をするので、動物たちの面倒は彼が見ることになる。うさぎと猫はそこまで心配していないが、水槽の魚たちに関してはやはり心もとない。生きものというよりはただのインテリアくらいに認識されていて忘れられそうな気がする。不在の間にこまごまとした定期の水槽メンテができないので、それでも環境がひどくなりすぎないように、少し前から見越してあれこれマイナーチェンジをはかってみた。わたしがいなくても、ダメージがなるべく小さくあるように環境を整える。帰ってきたらちゃんとまたいつもの通りのケアをして、崩れたものを立て直さなくては。

そんなことをしていると、今生きている土地が自分の「戻る」ところなのだなと思う。自分がここにまた帰ってくる前提を疑わない。日本にも「戻る」という感覚はまだ一応あるんだけど、でもだんだん確信を持って思えることではなくなってきているし、次がいつなのかも分からない。里帰りとは言ってみたものの、むしろ「なじみの土地に旅行に出る」という方が近くなってきているかもしれない。

日本が自分の生まれた国であることは変わり無いが、すでに自分がいないことがデフォルトの場所になってしまったなと思う。戻るたびに変わってしまったところや知らないものを見つけて、時間と距離の隔たりや乖離を痛感する。家族や友人とは、現代の技術の発展を大いに享受してそれなりにつながりを維持できているけど、まあだからこそ本当にはそこにいないということが、何か不思議な重みを持ってくるような気がする。

バーチャルでなら、どこでも誰とでも話はできるようになった。noteもそんな感じがする。直接のやりとりはしていなくても、ほんのりと淡い親近感を抱きつつ、それぞれの暮らしを送っているいろんな人のいろんな言葉を読む。それが特に自分に向けて書かれたものでないから、こちらの読みたいものを察して媚を売るように書かれているのではないからこそ、そこで覚える共感はむしろ嘘がないように思う。はかないけれど本当のものというか。そのことで自分の何かが確かに救われている。

ただ、実在ということの価値はまた別にあるなとも感じる。ふたつの間に優越はなくて、別々の事象として等しく並列だ。でも実在ということの圧倒的な実在感はやはりある。当たり前すぎるし、腹痛が痛いみたいな変な日本語になってるけど、例えば猫が隣にきてゴロゴロ喉を鳴らしながらうたたねしているようなことは、バーチャルじゃなくてすごく実在的だ。意味も思想も相互理解もへったくれもなく、そばにいることは問答無用の説得力と安心感がある。そういう実在感を、自分がやって来た場所に対して失いつつあるわけで、これが昔の自分が決めたこととセットで、しかも時間差でやってくる現象なのはじゅうぶん分かっているけど、頭で分かっていたら何も感じなくて済むわけでもない。

The Caretakerの1stを聴きながらこんなことをぐだぐだ書いていたら、なんかしんみりとしてきたが、ともあれ日本にいる間は楽しもう。いくつか予定を立てていて、とても楽しみだ。誘いたいと思う人が日本にいて、そういう人たちが年末年始の忙しい中でもわたしに会おうとしてくれることが。


年末だから、いろんなところでいろんな人が今年のベストリリースを挙げていて、興味深く読む。今年はけっこうみんな違うアルバムをそれぞれ自由によかったと言っているような気がして、そのばらけ具合がいいと思った。

別にはすに構えているわけではないのだけど、なぜか単に自分もそれについて書こうという気にならない。それどころか大昔に耳にしていた邦楽でかっこいいやつを集めたくなり、プレイリストにしたらものすごい満足感を味わえた。そのアーティストが好きというより、その曲だけが何十年たっても忘れられないみたいなやつ、ものすごく久々に聴いてみたらもだえるように良い。わたし個人の基準で、海外でも評価の高いアーティストは省き、ある種の「邦楽臭」がぷんぷんするものだけを独断と偏見で選んでみた。

バービーボーイズ 「勇み足サミー」

これギターが最初から最後まですごくかっこいい。ハイトーンの男性voとハスキーな女性voというのもいいし、彼のサックスと彼女のダンスもいかしている。メロディが歌いすぎていなくて、コードも少しずらしてあるのがとてもクールだ。

TMネットワーク 「STILL LOVE HER (失われた風景)」

世代的に、夕方の再放送のシティハンターのエンディング曲というイメージが強いけど、素直にいい歌だなあとしみじみ思う。宇都宮隆の言葉の発音の仕方って、80年代から90年代っぽい独特のなにかがあるな。

大沢誉志幸 「そして僕は途方に暮れる」

これもいい。イントロ聴くだけで切なくなる。ひとつ残らず君を悲しませないものを君の世界のすべてにすればいい。

久保田利伸 「Missing」

歌うますぎるのに、技巧的じゃなくて聴く人の気持ちを揺さぶってくる。レコーディング音源よりかなりテンポ落として大事に歌ってる感じ。うまくサムネイルに表示されないが、松田聖子が泣いているこの映像、これ「夜のヒットスタジオ」だと思うけど、確かに1番のサビに入ってすぐ、後ろで泣いていて、その後もずっと涙を拭っている。こんなの目の前で聴いたら、つらい恋愛をしてる人はやはりぐっときてしまうのでは。この曲にはいくつかのバージョンがあるけれど、一番最初の頃のが好き。かなり濃ゆいのにセロリスティックのようなさわやかさもあるのが本当に不思議だ。

相川七瀬 「China Rose」

相川七瀬がデビューして人気が出始めた頃、自分は大学生で割と冷ややかに見ていたのだけど、この曲だけは他の彼女の歌とは違うなとずっと感じていて、今聴いてもやはり名曲だと思う。相川七瀬のちょっとヤンキーぽい強がりな感じ、それでいて脆さというか少女性のある尖った声質、ホーンセクションのばっちり効いたロッカバラードで歌われる一途な恋の終わり。MVの中で初老の白人ウエイターが銀盆だか鏡だかを持って階段を上がるのをスローで何度もカットインするのとかは妙に時代を感じるけど(外国人を用いたビジュアルイメージという点で)、曲そのものは王道のロックで色褪せないなと思う。

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