全部好き、じゃない

わが町の夏フェスが先週から始まった。今週末まで続く。

正直言って、今年のメンツは個人的にちょっと残念だった。ラインナップが発表になる前日に通し券が販売になり、その日に買うと少し安くなるのでもう買っておいた。で、翌日に出演アーティスト見たら「えーそうかー…」みたいな感じ。

娘の方ががぜんやる気まんまんで、月〜金のバレーボールの集中講座と週末のサッカーの大会にめげず、友だちと一緒に金・土・日と連続で観に行ったので、まあ買っておいて元は取れたように思う。若者は元気だ、とはいえ連日夜中の1時に寝て7時に起きて一日中スポーツをしてライブに行くのを繰り返していたから、さすがに3日目にはへとへとになっていたが。

初日金曜のトリがWeezerで、娘と見に行こうかちょっと迷ったけど、別にすごく好きでもないしそれよりも家でゆっくりしたい気持ちが勝ってしまい、結局行かなかった。いやはやほんと、年齢のせいか、人混みに揉まれて不快な思いをするとか、終わった後すぐ帰れないとか、トイレに行くの大変だし絶対汚いし、そもそもどこに車停めんの、みたいなもろもろに対する耐性がとても低くなっている。行かない理由がいくつも上がってきて、それを蹴散らすだけの行きたい!という強い思いがないんだよな。強い思い、ひとつあれば充分なんだけど。休みを取って遠征してれば意気込みが違うだろうが、普通に仕事してる毎日の生活に、夏フェスのテンションを組み込むのが難しい。好きなアーティストならもっとやる気が出るとは思うが。

今回、Andy Shaufが来るはずだったのだが、以前からの背中の痛みが悪化したという理由でキャンセルになってしまった。彼は5年くらい前にもこの夏フェスに来て、余白の印象的なゆっくりとした演奏がとてもよかったので、ぜひまた見たかったけど仕方ない。体を休めて少しでも治して、秋の来日は無事に果たしてほしい。

この夏、唯一わたしが見たいのはAlvvaysとThe Smileで、どちらも金曜日だ。サイズでいうと2番目と3番目のステージになる。娘は友だちとメインステージのPitbullを見に行くらしいので、別行動になるだろうからひとりでゆっくり見よう。トムヨークがメインステージではない、というのに驚くが、自分の意識と客層とのズレの証拠なのかもしれない。

10日間、毎日複数のステージでいくつものライブがあるというのに、自分が見に行こうと本心で思うのは結局たった2組だ。わたしは本当に音楽が好きなのだろうか。「音楽好き」って呼ばれる資格あんのかなと思ってしまう。資格っていうのもいかにも外部から与えられるものって感じでなんか嫌だな。まあそんな資格は自分にはないんだろうし、別にいりませんとも思う。

わたしは世の中全部の音楽を好きだとは言えない。音楽ならなんでも好き、というのからほど遠い所にいて、これは好き、あれは嫌い、とひとりしかめ面で選別作業をしている気がする。自分のお皿から嫌いなグリンピースをつまんでよけているがきんちょと同じだ。しかも食べる分よりつまんでよける分の方が多いようにすら感じる。だから本質的には「音楽好き」じゃないのかもしれない。わたしには好きな音楽と嫌いな音楽がある。好きなものは多くないけど、真摯に誠実に好きでいたいとは思っている。あとは自分にとって何が音楽なのか、というところの話になるのかもしれない。

本質的に好き、その集合体を好きと言えるのってなんだろうと考えると、花はまあどれも好きかもしれない。

なでしこ
デルフィニウム
ダリア

これらの花を守るため、わたしはなめくじやかたつむりを見つけ次第スコップやはさみで日々ぶっ潰して/ぶった斬っている。気持ち悪かったのは最初だけ、今は正義の名の下にそうした殺生を平然とできるようになった。

花の中にはきれいじゃないもの、匂いのすごいものなどあるけれど、花そのものは理屈や好き嫌いを超えてどれも素直な興味を持って眺められると思う。少なくとも音楽よりはよっぽど寛容に、花なら何でも、カテゴリ全体としての花を好いていると言えよう。


そんな音楽に非寛容な自分が、最近聴いていいなと思った音楽。

20分越えのシングル。この曲は去年の彼らのライブで聴いたのを覚えている。いくつかの展開をあえて分割せず、この一曲にこめて投げかけてきたか。なんとなく音楽劇みたいな、絵本を音楽にのせて読んでいるような感じがする。 

なんせ長い曲なので、すぐに手が出ずに聴けるタイミングを待っていたのだけど、ある日の夜に車を運転している時にかけた。暑さがおさまった気持ちのよい夜で、ぽつぽつと家が点在する畑の中の田舎道を、60km/hの気持ちよい速度で走っていた。夏の夜の空気はとても深い紺色で透きとおっていて、この音に包まれながらひとり夜の中をすべるように進む。浮かんでいるようにすら感じるほどのトリップ感がふうっとせまってきて、どこから来てどこに行くのか、そういう前後感覚がすうっと消えていき、この曲は今ここで自分に降りて来ている、というほとんど宗教的な感覚を強く持った。

その体験があまりに強烈だったので、2回目にまた車で聴いた時はそれを超えるものでは到底なかったし、そもそも家で座ってじっと聴くような曲でもないように思う。だからこの曲はもう聴かないかもしれない。でももう受け取るものは全て受け取ったような気がする。何百回と繰り返しても何も受け取るものがない音楽もあるが、この曲は2回(ライブ+音源初聴)で全てを与えてくれたので、そういうことなんだろう。

K-LONE、今いちばん好きなアーティストのひとりかもしれない。シンプルさも複雑さもある。フロア向きのトラックも家でしっぽり聴くのによさそうなものもあるけど、なんかこの人の作る音の響きにはほっこりさせられる。すごく楽しくもなるし、しんみりしたりもする。批評でもなんでもない個人の感想でしかないけど、自分が音楽を聴く上でこれほど大事なものはないと思っている。それを感じるというのが原点で、そこからいろんな解説や分析をレビューで読んだりするのはもちろんおもしろい。でもそれはなんか表層意識のことなんだよな。その音が自分の中でどんな風に響いて、自分の感情がどんな風に動かされるのかというのは、ほんとに理屈じゃない部分だし、言葉にするのも難しいけど、そこに触れられたいからわたしは音楽を聴くんだよな、ということを考えさせられたアルバム。

DJ Pythonもやることなすこと好きだと感じる。この人の音は繊細でほわっと明るい。Ela Minusと組んだ前作のEPもよかったけど、今回はAna Roxanneとの共作で、今のところ3曲だけ聴けるけどすでにかなりよくて、全曲リリースになるのが楽しみだ。Ana Roxanneがボーカルを取っていて、autotuneらしき加工をされてコントロールされたやつもあるのだけど、素のままの揺らぎのあるボーカルがまたいい。タイトルというかユニット名のとおり、自然の美しさみたいなものをとても感じる。

と書いていたら、半日もしないうちに全曲聴けるようになっていた。今聴いている。よい。とてもとてもデリケートな心の中のものが音になっていて、それを怖がらずに外に向けてそっと開くことのできる作り手たちの強さを感じる。


今日はこれでやめておいて、明日のAlvvaysとThe Smileのライブはまた日をあらためて書こう。最終日の日曜にGreen Dayが来るが、行くかどうか迷っている。

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