U理論・デザイン思考・KJ法に通底する原則とは何か

世間には、新たな視点・アイデアを得て、イノベーションを引き起こすための様々な方法・テクニックが紹介されています。

古くからあるものだとKJ法、最近ではU理論やデザイン思考が比較的広く興味を持たれているようです。

こうしたテクニックを使ったことのある方は、一定数いらっしゃると思うのですが、実際やってみると、良いアイデアが得られたり、得られなかったり、、、というのが実情ではないでしょうか。

実は、上で例示したような、新たな視点・アイデアを得るためのテクニックには、通底する原理原則・共通点があります。

この原理原則・共通点は何なのか?を把握しておくことは、こうしたワークの効果を十分に引き出すだけでなく、より簡略化した手法で同じような効果を得ることにも役立ちます。

今日はそんなお話です。

新たな視点・アイデアを得るためのテクニックに共通する機能は?

U理論・デザイン思考・KJ法等のテクニックに共通しているのは、これらが、

「思考の発散を通じて、創造性を喚起するようなプレッシャーを人為的に生み出し、半ば強制的に新たな視点やアイデアが得られるような思考の収束(再構成)を促す機能」を持っていることです。

具体的な情報を大量に並べ、俯瞰した時に混乱(複雑さ)・葛藤と直面することによるプレッシャーを感じるような状況を作るのが発散。
それを俯瞰して、抽象度の高い新たな視点を得ることで、新しいアイデアを創出するのが収束です。

U理論における発散と収束

現状を詳細に観察(センシング)することは、自分が認識する具体的・顕在的な情報量を増やします(発散)。

プレゼンシングは、新たな視点が現れる(収束)のための待機時間。

そして、クリエイティングは、収束の結果得られた新たな視点・アイデアをもとに、アイデアを形にしていくプロセスです。

デザイン思考における発散と収束

デザイン思考では、考える場に、人のニーズや、技術的実現可能性、経済性など、多様な要素を持ち込み、情報を大量に並べます(発散)。

そこから収束を起こし、全く新しいアイデアを得ようとします。新しいアイデアは、ラピッドプロトタイピングなどのプロセスに乗せられます。

KJ法における発散と収束

KJ法は、一見無秩序なデータを大量に並べます(発散)。

そして、それらを俯瞰した上で、抽象的なカテゴリー化や、全体像の把握を促します(収束)。

このように、各テクニックを観察してみると、そこには何らかの形で発散・収束という要素が入っていることが分かります。

発散→収束を通じて新たなアイデアを得るのに必要不可欠なこととは?

このように、一定以上の知名度を得ることが出来た、アイデア創出技法には、発散・収束という要素が入っていることが非常に多いです。

でも、実際にこれらのテクニックを行っても、大した成果が得られないことも現実には起こります。

というのも、発散・収束というプロセスを経て、新しい視点やアイデアを得るためには、絶対に必要なことが一つ存在するのです。

それは、身体的にプレッシャーを感じるレベルまで、具体的な情報を並べる(発散する)ことです。

大量の情報を並べると、
・混乱(全体の把握が困難・煩雑になる)
・葛藤(対立するアイデアや利害の衝突などで、問題が複雑化する)
が顕在化しやすくなります。

そして、混乱や葛藤の程度が、脳の処理能力が及ばないレベルに達すると、人の身体は緊張や動揺を引き起こします。時として、その緊張や動揺が、かなり苦しいレベルになったりすることもあります。その苦しさがどの程度かは、例えばクリエイティブな仕事をしている人が、なかなか良いアイデアが結実せずに頭を抱えているシーンなどを想像して頂くと分かりやすいかもしれません。

この緊張や動揺は、別の角度から見るなら、心身が「ややこしくて、処理が面倒でしょうがない。何か別の視点を見つけないと、ヤッテラレマセン!」という状態になったことを示しているとも言えるものです。

こうした状態を人為的にでも作ることは、なかば強制的に、心身に新たな視点やアイデアを生み出すように促すことになります。その結果として、実際に新たな視点やアイデアが得られる可能性が高まるわけです。

そして、新しい視点やアイデアが出た時には、身体の緊張が抜けたり、スッキリした体感が得られたりします。いわゆるA-ha体験ですね。新しいものが生まれたことは、身体で分かります。

多くの場合、この体感はなかなかに気持ち良いものですし、特に強烈な難問に答えが出た時には「わーかーっーたーぞーーーー!!!」と、ものすごい喜びが出てくることもあったりします。心身にプレッシャーをかけた後にはご褒美がちゃんとあるわけです。

困らなければ知恵は出ない


困らなければ知恵は出ない、という言葉があります。

新しい視点や優れたアイデアは、既存の視点やアイデアではヤッテラレナイ、ということを身体で感じないと、なかなか出てこないもの、とも言えるでしょう。

だったら、ヤッテラレナイ状況を人為的に作って、なかば強制的に心身が新たなものを創出せざるを得ない状況を作ってやればいいよね!

というのが、上に述べたような各種ワークに共通した発想なんですね。

なので、この種のテクニックを使う時には、身体でプレッシャーをある程度感じるレベルまで、具体的な情報を並べまくる(発散)ことが重要なんです。

逆に、情報を並べたつもりでいても、身体的にプレッシャーをさほど感じない場合は、心身が「今の視点のままでOKじゃん」と判断しているようなもの。そういう状況から何か優れたものが生まれる可能性が低いことは、これをお読みの皆様にも想像に難くないことと思います。

ベースとなるのは「統合思考」


具体的な情報を並べて(発散)、混乱・葛藤した状況を作る。
それを俯瞰してよく感じる。
そこから新しい視点・アイデアを得ようとする(収束)。

このような思考様式のことを、統合思考(Integrative Thinking)と呼びます。グラハム・ダグラス氏、ロジャー・マーティン氏などが提唱してきた方法です。

U理論・デザイン思考・KJ法といった手法は、それぞれ独自の工夫はあるものの、すべて統合思考を促すための技法という点では共通している、と解釈することもできます。
※実際、デザイン思考を提唱したIDEOのティム・ブラウン氏も、TEDで行ったスピーチの中で、「デザイン思考は、統合思考がベースになっている」と明言しています。

まとめるならば、

新しい視点やアイデアを得て、イノベーションを引き起こそうとする時には、統合思考を促すべく、関連する情報を大量に並べて自らの心身にプレッシャーをかけることがとにかく重要であり、U理論・デザイン思考・KJ法などのワークも、統合思考が促されない限りは上手く行くことはない、、、と言えるでしょう。

統合思考を引き起こす、シンプルな方法


紙(できればA4サイズ以上)とペンがあれば、具体的な情報を大量に並べ、心身にプレッシャーをかけることを通じて、統合思考を引き起こすことがある程度可能になります。

それなりに慣れとコツが必要な方法ですが、やり方を一応書いておきます。

私自身も、問題解決の時に多用している方法ですので、興味がある方は試してみてください。実際やってみると、けっこうハードな圧がかかることもありますが(笑)、練習して使いこなせるようになると、問題解決力・意思決定力などが明確に上がりますよ。
※そこそこエネルギーを使う場合があるので、疲れている時は避けたほうが良いです。また、最初のうちは、一日一回を上限としましょう。
※現在精神疾患の治療中の方は、行わないでください(心身への負荷が強い場合があるため)

やり方:

1.取り組みたい問題を一つピックアップする(最初は小さな問題から練習すると良いです)

2.その問題に関して、知っていること、感じていることなどを、できる限りすべて書き出す。PCやスマホを使わず、手書きで行うことを強くおすすめします。

3.身体に緊張・動揺等が出てきたら、その緊張・動揺を積極的に感じてあげながら、一度紙から離れ、歩き回ったり、身体をうごかしたりして、身体のリラックスを促しましょう。緊張をほどいてリラックスする過程で、思考の整理整頓が進みます。

4.問題に関して、新たに言語化されたものが出てきたら、紙に書き足しましょう。

5.3.4.を繰り返す。この段階は、時間がかかることもあるので、行き詰まりを感じる場合には、一旦寝かせて翌日以降にもう一度取り組む、などの工夫をすることも有効です。

6.新しい視点・アイデアが出る。本当に新しい視点やアイデアが出た時には、身体の緊張が明確に軽くなる、スッキリした体感が得られたりします。これらの感覚があるかどうか?を、終わりで良いかどうかの指標にすると良いです。身体の緊張・動揺・モヤモヤ感などが残っている場合は、3~4を繰り返しましょう。

また、この方法を行う際には、以下のような点に気を配ると良いでしょう。これらを守ることは、自分にプレッシャーをかけ、新しいものを生み出すために非常に有効です。

・精神的切断を行わない。自分に都合の悪いことや見たくないことも、積極的に書きだすように努めること。
・一見重要でないように思えることも書き出すようにすること
(既存の視点では重要でないことが、新しい視点が見つかった後ではじめて非常に重要だったと分かることは良くあります)
・身体感覚に意識を積極的に向けましょう。身体に緊張や動揺が出たら、それを感じながら、積極的に身体を動かしてリラックスを促しましょう。緊張・リラックスの繰り返しが、良いアイデアを生み出すには非常に有効です。
・アイデアが出た時には、本当に緊張がほどけているか?スッキリ感があるか?モヤモヤ感が残っていないか?などを身体で繊細にチェックしてあげましょう。こうすることで、アイデアが中途半端なものに終わる危険性を下げることができます。
・非常に複雑な問題に取り組む場合は、1~6までの行程全体を複数回繰り返し、複数の新たな視点・アイデアが必要になることもあります。こういう時は、時間・日数をある程度かけて取り組むと良いでしょう。

最後に:イノベーション系のワークを、「ごっこ遊び」にしてはならない

ここまで、様々なアイデア創出法に通じる原則としての統合思考や、心身にプレッシャーをかけることについて書いてきましたが、いかがだったでしょうか。ここまで読んでくれたあなたにとって、得るものがあってくれると嬉しいです。

最後に、余談となりますが、、、

日本でも、上に述べたようなイノベーションを呼び込むためのワークは、多数紹介されていますが、これらワークを「イノベーションごっこ」と揶揄する方々も一部にいらっしゃるようです。

だいぶ皮肉が入った表現ですが、こうした批判は、ある意味当然のことのようにも思います。

というのも、実際、こうしたワークを経験したけれど、大したことは起こらずに終わった、、、という人は一定数いらっしゃるようなのですね。

そういう状況が何故生まれるのか?と思いを巡らせてみると、様々なワークを教えている方々の中に、新たなものを生み出すのに必要なものは何かをあまり深く理解していない人も少なからず存在する、という要因も大きく関わっているようなのです。

具体的なことを挙げるとカドが立つのでここでは避けますが、イノベーションごっこ、という単語が出るのは当然だよね、と思う程度には、教える側の問題というのは深刻だなあと思っています。

コツが分かると、これらのワークは非常に有用なものであるだけに、非常に残念な現象が起こっているように感じます。ですので、こうした状況は早く改善されて欲しいと思います。この記事が、少しでもそのプラスになってくれることを願っています。

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