言霊(ことだま)の国から来た男 #6
第6話 言霊の幸ふ(さきわう)国
――言霊の幸ふ国
日本では古来より、言葉には魂が宿ると考えられてきた。その精神性は、万葉集においてすでに見られる。
神代より 言い伝て来らく そらみつ 倭国は 皇神の厳しき国 言霊の幸はふ国と語り継ぎ 言い継かひけり 今の世の 人もことごと 目の当たりに 見たり知りたり(山上憶良)
藤田健一は、その歌を思い出していた。万葉集や日本書紀など、神話の時代まで含めて日本の歴史を詳しく学んだ政治家は、稀だろうと自負していた。だが、その知識がこんな異世界で役立つことになろうとは!
竜殺しの称号を得た総理大臣藤田は、アリアネス王国の英雄となった。その後、マーカスたちのいくつかの任務に同行するなかで、自分の仮説が正しいことを少しずつ立証していった。
内閣総理大臣として、日本の自衛権に関連する言葉は、言霊となってこの世界では具現化される。魔法の力が溢れるこの異世界では、それ自体は受け入れられやすいものだった。
言霊が力を持つには、いくつかの前提がある。まず、日本の法体系に則っていること。「防御系の言霊」はいつでも使えるものの、「反撃系の言霊」には制約がある。先制攻撃は不可能だ。それに、存立危機事態要件が関与するのか、藤田の身の危険が大きくなれば成るほど、「反撃系の言霊」の威力が上がる。
集団的自衛権の行使についても、確認した。藤田自身が攻撃されていなくても、マーカスたちの危機に彼の反撃能力は発動する。
異世界の戦闘において、「先制攻撃ができない」ということは大きな制約であり、聖騎士グロリアをしばしばいらつかせたが、それでも藤田は仲間たちの厚い信頼を勝ち得ていった。
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