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霧の街に目覚めて

日の出の時刻を過ぎたけれども、まだ空は白く、太陽の姿は見えない。
「foggy」「mystical」という言葉が出てくる。

オランダにいたときの感覚を思い出す。

以前暮らしていたハーグは本当に雨が多かった。
秋も冬も春も雨が降る。しかも暗い。
最初の年は雨が多いことがそんなに気にならなかったけれど(きっとビザの申請手続きなどいろいろやることがあってそれどころではなかったのだろう)、次の年から「よく雨が降るなあ」と思うようになった。

それでも決まった時間に外出や出勤をしないといけないということがなかったので嫌な感じはしなかった。ハーグの家は天井が高くてリビング・寝室・書斎と十分な広さがあったので1日外に出なくても気持ちよく過ごすことができた。

今滞在しているエッサウィラの部屋は東京で最後に暮らしていた部屋に似ている。

東京で暮らしていた部屋は西側の壁一面の壁の半分より上が窓になっていて、よくそこから夕焼けを眺めていた。南側にもバルコニーのついた窓があったので朝も明るくなる部屋の中で目覚ましなしで目が覚めた。あの部屋はどうなっているのだろう。

この、「湿気っぽい感じ」を感じるのは久しぶりだ。
最初に滞在したトルコのイズミルでも、次に滞在したイスタンブールでも、そしてギリシャのレロスでもモロッコのマラケシュでも、雨はほとんど降らなかった。(全部で一日二日降っただろうかという感じだ)湿気が少なくて、暑い中で汗さえもあっという間に乾いてしまうような場所にここ3ヶ月は滞在していた。

こうして思い出しながら、それらがもう「過ぎ去った時間」なのだということがわいてきた。

どこの暮らしも、楽しくて、美しい時間だった。
おそらくこの先の人生においてもう二度と訪れない場所もあるだろう。
人間に記憶というものがなかったら、今感じているこのあたたかいような寂しいような感覚を感じることもないのだろうか。

同じように見える毎日の目覚めも、一度きりのもので二度と訪れることはないのだ。

明日はエッサウィラの中で別の場所に移る。この、海や街を見渡せるバルコニーでくつろぐのは今日が最後だ。数日という時間は本当にあっという間で、これからもそんな風に毎日が過ぎていくのだろう。2021.10.11 Mon 8:15 Morocco Essaouira

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