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大好きな人にお別れを

一週間ほど前にピーターさんがこの家を去った。

静かになった家は金木犀の香りで満ちている。

この感覚を共有したいと思うけれど、
朝起きて二階から降りてきたときに金木犀の甘い香りに包まれ生まれる
何とも言えない感覚を、言葉では到底伝えることができないとも思う。


一緒に暮らし始めた頃から、「1年に1ヶ月くらいは別々の時間を持てるといいよね」ということを話していた。

実際に今年の2月、日本にやってくる前にピーターさんはタイのチャーン島でわたしはインドネシアのバリ島で一ヶ月間別々の時間を過ごした。


ピーターさんは以前働いていた香港で1週間ほど過ごし、それからオランダに向かう。

わたしも1ヶ月後くらいにオランダに向かうことになるだろう。
(もしかしたら別の国で合流するということになるかもしれない)


一人の時間は気楽だ。

やりたいことに没頭できるし、自分のリズムで生活できる。

6月の終わりには10日間ほど石垣島で一人の時間を持ったのだが、戻ってきたら、もともとお互い7時にセットしてあったアラームが、わたしは6時に、ピーターさんは8時になっていた。

無理をしているわけではないけれど、一緒にいると無意識のうちに「あいだを取っている」ことも多いのだろう。

わたしにとっては、仕事以外の時間、誰とも話さず静かに過ごせるというのも心地いい。

大切な人の話をしっかり聞きたい。

だからこそ、自分の心の声を聞いたり、自分だけの時間を持つことがわたしには必要なのだ。


一緒にいない時間があるからこそ、「この人のことを知らない」と思える。
一緒にいない時間があるからこそ、一人で見た景色を知りたいと思う。
伝えたいと思う。


またすぐに会えると分かっていても、別れの瞬間は少し寂しい。

ひとりの静かな時間をしばらく過ごすことができる喜びがあるけれど、同時にどんなに美しい瞬間もその瞬間をともに味わう人はいないのだと思うと、やっぱり少し寂しい。

だけど、離れることがなければこの感覚を味わうこともないのだと思うと、この寂しささえも愛おしい。

大好きだからこそ、一緒にいるし
大好きだからこそ、ひとりでいる。

これからもきっとわたしたちはそうやって過ごしていくのだろう。

「いってらっしゃい」

それは、また会える未来をお互いに信じているからこその別れだ。


大好きな人を「いってらっしゃい」と送り出す。

大好きな人を残して「行ってきます」と、旅に出る。

そんなことができるようになって、
そこにあるいろいろな気持ちの全てをそのまま受け止められるようになって、ようやく少し、大人になったような気がしている。


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