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ご報告とお礼 ICFのPCCを取得した私は、コーチングをやめます

今年の春から申請の準備を進めていたICF(国際コーチング連盟)のPCC(プロフェッショナル認定コーチ)資格を無事取得しました。

「今年の春から」と書きましたが、コーチングを学び実践し始めてからで数えると丸9年という時間が経とうとしています。

PCCは「実践豊かなコーチ」であることを認める資格ですが、PCCを取得するためには

・ICFに認定されたトレーニングを125時間以上受けていること
・25人以上、500時間以上コーチングセッションを実施していること
・10時間以上、メンターコーチからコーチングを受けていること

などの条件が必要であり、さらに実際のコーチングセッションの録音を提出する実技試験と、ICFのコア・コンピテンシー(行動基準)や倫理規程に関するWeb試験に合格する必要があります。

ICFはコーチングの世界的な水準を定める団体で、2020年11月現在、世界中に約38,000人の会員がいます。

そのうちMCC(マスター認定コーチ)という、2,500時間以上の実践などが申請条件となっている資格を取得している人は約1,300人(日本では43人)、PCC(プロフェッショナル認定コーチ)を取得している人は約13,000人(日本では268人)ほどです。

PCCを取得するのは簡単な道のりではありませんが、コーチングを本業にして実践を積み重ねていけば3年から5年くらいでチャレンジできるようになる資格でもあります。(資格制度が始まってからの時間を考えるとおそらく継続する方が難しいのではとも思います)

特に私の場合、コーチの資格を取った後、コーチ・エィというコーチングファームに所属していたためコーチングが日々の仕事そのものであり、真面目に続けていれば何年も前に資格を取得することができていたかもしれません。

しかし、私は本当に大好きで天職だと思っていたコーチという仕事を6年前に一度辞めました。

コーチングを学び、実践する中で「コーチとして関わる相手だけでなくその先にいる人たちが、本来持っている力や個性を発揮して生き生きと仕事をしていく」という様子に感動し「これを仕事にしたい!」「もっと深めて実践したい!」とキラキラと目を輝かせて飛び込んだコーチの仕事でしたが、組織開発の道具としてコーチングを活用する中で、組織という場所、そしてコーチングという道具が本当に人を幸せにするのかが分からなくなってしまいました。

今思えば当時の私には、物事のほんの一部の側面しか見えていなくて、同時に東京という場所で生きていくことそのものに精一杯だったのだと思います。

そして2014年11月、私は「そうちゃんが世界一のコーチになることが僕の夢だから」と、福岡を出て東京に行くことを後押ししてくれた夫と離婚し、翌月にコーチングファームを辞めました。

クリスマスと年末年始をあたたかいところで気分転換をしながら過ごそうとフィリピンのセブ島の英語学校に留学しましたが、レッスン後の筋トレに精を出しすぎたためか肺炎になり1ヶ月の留学期間の後半はずっと入院していました。

そのときにお見舞いにきてくれた先生たちが「私たちは物をあげることはできないけど」と、高熱で動けない私の着替えを手伝ってくれたときに「大切なものは何かを手に入れることではないんだ」ということに気づきました。

(トップの写真はセブで綴っていた言葉の一つです)

セブから戻って数ヶ月後、ヴィパッサナー瞑想に参加し、十日間、誰とも話さず目も合わせず、一日十時間以上瞑想をし、千葉の山奥から帰ってきて渋谷駅に降り立ったときに、雑踏の中にある静けさに気づきました。

駅前のコンビニに寄っても「ここに今私が欲しいものはない」と思える自分に気づきました。

その後、仲間と起業をしたものの数ヶ月で会社をたたむことになり、人の事業を手伝っても上手くいかないということが続き、自分が繰り返し同じテーマの課題に直面しているということに気づきました。

自分の心にとって何が本当に大切かということに気づいていなければ、そしてそれを大切にしていなければどこかで「人生と引き換えにしている」という感覚が生まれてしまうのだということに気づきました。


静かにただそこにいること。

浮かび上がってくることを言葉にすること。

言葉にならないものを感じること。


そんな時間を大切にしたくて、お茶(煎茶)の道に進みました。


誰もいないお店で朝、掃除をし、支度をする。

湯が沸く音や、そっとお湯のみにつけた口の中でお茶を味わう音、そしてお湯のみから口を離した後に出てくるふうっという息に耳を傾ける。

そんな時間の中で、あたたかくてしずかでやさしい場所では、人の心や言葉が自然とほどけていくのだということを知りました。

人は自分の心の声が聴けたときに、自分との信頼関係をしっかりと結び、持っている力を発揮して生き生きと日々を過ごしていくことができるのだということを知りました。


「自分の心の声を聴く」ということをどうしたら後押しすることができるだろう。

「聴く」という贈り物をどうしたら世界に増やしていくことができるだろう。

ひとりひとりが自分自身の「全体」を発揮していくにはどうしたらいいだろう。


そんなことを考えて、気づけば、またコーチになっていました。


今になってわかるのは「コーチング」というのは本当に幅広くて、コーチにもいろいろな専門性や方向性があるということです。

そこに正しいも間違いも、優劣もない。

大切なのは、コーチ自身が何を信じ、何を大切にしたいと思っているかということ。

コーチングスキルを学び使う人がコーチなのではなく、人の可能性を信じ、成長や挑戦を後押ししたいと思う人はみんなコーチなのだということ。

そんな風に人のことを想う気持ちがあれば、もはや「コーチング」や「コーチ」という言葉さえいらないのだということ。


これまで出会ってきたひとりひとりが、「一人の人間」として私に関わり向きあってくれたように、私もただ「一人の人間」として目の前の一人にまっすぐに向き合いたい。

そこにある言葉と言葉にならないものに静かに耳を澄まし続けたい。

心の中に浮かび上がってきたことを、そっと間に置き続けたい。



コーチになって間もない頃に受けたトレーニングで、海外からやってきた老齢の女性のコーチが言った言葉を今でも覚えています。

「話を聴いてもらうことはギフトで、話をしてもらうこともまたギフトなのです」



コーチングを始めて10年目を迎える前に「プロのコーチである」ということを示す資格を取得することは、昨年の終わり頃からおぼろげながらも一つの目標になっていました。

それは結局のところ「節目」をつくろうとしていたのだと思います。

「コーチングをする」のをやめて、「今ここにともにある」ということを体現していく。ひとりひとりの持っているものを信じる在り方をひたすらに体現していく、そんな節目です。


もちろん、ICFの資格を持っているコーチとして、関わる人が本来持っている力やさらなる可能性を発揮していく関係性を築くことに、これからもまっすぐに取り組んでいきます。

プロとして職責職務を全うするのはもちろんのことで、コーチングについて、学びと実践、自己研鑽を続けていきます。


しかし、それ以上に、私は一人の人間として、関わる人の命が輝くことをともに喜んでいきたいと思っています。

私が本当に興味があるのは「人間」という存在そのものです。

私が本当に大切にしたいのは、今この瞬間をともにしている「あなた」という存在そのものであり、ともに過ごす時間そのものです。


コーチングを公式な仕事として始めてからのセッション時間は1,000時間を超えたところですが、コーチとして正式にご一緒してきた方の数は約80人と、実はあまり多くはありません。(私の場合、同時期にご一緒できるのが20人から25人くらいで、半年から年単位でご一緒することが多いので自然な積み重ねかなとも感じます)

おひとりおひとりのペースに合わせて、本来持っている力を発揮することや本質的な変容に携わっていくということは、コーチングを始めた頃からずっと大切にしてきたことであり、私自身の喜びでもあります。

これからも「あの人とあんな旅をご一緒したなあ」と、その人の人生全体を感じて感動するような時間をともにしていくことを大切にしていけたらと思っています。

ご一緒することができる人の数は限られていますが、その方の人生は唯一のものであるのだと同時にその方の先にたくさんの方の人生があって、一人一人の命が輝くことにつながっているのだと感じています。



そして今の私の目標は「訪ねて来た人と一緒にお茶を飲んでにこにこ話を聴いているおばあちゃんになること」です。


ここまで来るのに遠回りをしたけれど、だからこそ感じられたことや見えた景色があったのだと思います。

これからもたくさん道草を食いながらのんびり進んでいければと思います。


こんな私ですが、これからもあたたかく見守っていただければ幸いです。



これまでご一緒してきた皆さま、お世話になってきたマイコーチたちや先輩コーチたち、コーチ仲間たち、そしてこれまで出会ってきた全ての人たち、もう会うことができない大切な人たち、そして今、このnoteを読んでくださっているあなたに、心から、感謝を込めて。

2020.11.18 Den Haag 佐藤 草

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