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AIのコーチの方が人間のコーチよりも決定的に優れているのは○○がないこと

こんにちは。コーチの佐藤草(さとうそう)です。
オランダから、人間の意識や心に関する考察をお届けしています。

今日は、「人間のコーチよりもAIのコーチの方が決定的に優れていることがあるかもなあ」と思ったのでそれについて書いていきます。

<こんな方に>
・コミュニケーションに関係する人工知能開発に携わっている方
・AIのコーチを開発している方
・コーチングのメカニズムを知りたい方
・人を育成するお仕事や立場に就かれている方
・コーチとしてさらに成長をしたいと思っている方

こんな人が書いています。

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1. コーチはコーチング中に何をしている?

最近では、企業の中で管理職がマネジメントスキルとしてコーチングを身につけるだけでなく、経営者や、若い方がコーチをつけることも増えてきました。

大きくは「クライアントが目指す姿を実現することをコミュニケーションを通じて支援する」のがコーチの役割ですが、実際にコーチングの際にコーチは何をしているのでしょうか。

コーチはやっていることは3つあります。

<コーチング中にコーチがしていること>
①傾聴
②質問
③フィードバック

①傾聴
「傾聴」と聞くと、「共感とともに耳を傾ける」ということを想像される方もいるかもしれませんが、実際には傾聴にも様々な種類があります。

例えば、コーアクティブ・コーチングのトレーニング等を提供しているCTIでは傾聴には3つの段階があるとしています。

<傾聴の3つの段階>
レベル1 内的傾聴:自分に焦点が当たっている
レベル2 集中的傾聴:相手に焦点を当てている
レベル3 全方位的傾聴:相手が発する言葉や表情以外も感じている

ここでは詳しい内容には触れませんが、ただ「分かる分かる」と聴くだけではないということです。

②質問
質問にも様々な種類がありますが、共通するのは、「相手がまだ言葉にしていないことを言葉にすること・イメージすることを後押しする」ということです。

人は、自分の頭の中にあることをアウトプットして初めて何がそこにあるかが分かると言われています。

コーチングでは「答えはクライアントの中にある」と言われたりもしますが、その「既にある答え」を見つけることをサポートするのが質問です。

③フィードバック
ここで言うフィードバックは「伝わってきたことを伝え返す」という意味です。評価や判断を加えず、非言語の情報も含めて、「伝え返す」のがコーチングにおけるフィードバックです。

フィードバックは鏡のような役割を果たします。

これら以外にも色々なことをやっているように見えるかもしれませんが、この3つがしっかりとできていればコーチングは機能するということを私もこれまでの9年間のコーチとしての経験から実感しています。

コーチがしっかりと聴くことでクライアントも自分自身の言葉や感覚に耳を傾けることができて、気づきが生まれる。というのが大きくはコーチングのメカニズムです。

2. コーチングが上手くいかない原因は?

ではコーチングが上手くいかないときその原因はどこにあるのでしょうか。

それは、次の3つに分類することができます。

<コーチングが効果を発揮しない原因>
①クライアントとコーチの間に信頼関係が築けていない
②コーチに思い込みがある
③コーチに恐れがある

①クライアントとコーチの間に信頼関係が築けていない
質問が効果を発揮する大前提はまず、クライアントとコーチの間に信頼関係が築けているということです。

相手に対して、「評価されるんじゃないか」「非難されるんじゃないか」「他の人に伝わってしまうんじゃないか」と言った気持ちがあったら、安心して話すことができないですよね?

相手との関係性を築くところからコーチングは始まっています。

②コーチに思い込みがある
コーチが「しっかりと聴く」ということがポイントとなるコーチングですが、それを妨げるのがコーチ自身の思い込みです。

コーチの中に「これが正しいことだ」という基準があると判断や評価が生まれます。判断や評価をされていると人は自由に話しをすることができなくなってしまいます。

さらにクライアントのことを「分かった気になっている」というのが、思い込みの中でも一番の大敵です。

③コーチに恐れがある
そして、同様にコーチが効果的な質問やフィードバックをすることを妨げるのが恐れです。

コーチの中に「上手くいかなかったらどうしよう」「相手に気を悪くされるかもしれない」という気持ちがあると、クライアントに対して率直に質問やフィードバックをすることができなくなってしまいます。

恐れは「こんなことを言ったら嫌われるかもしれない」「相手の役に立てなければ自分はダメな人間だ」といった思い込みや、過去の経験から来ていることが多くあります。

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アメリカの心理学者カール・ロジャースと共同で研究を行なっていたユージン・ジェンドリンと研究チームによると心理療法で成果がある人とない人の違いは身体感覚を感じ言葉にすることができるかどうかだとされています。

成功するクライアントは、自らの抱える問題について、非概念的な、身体で感じられた体験に触れることができ、そこから話すことができる能力を持っていたのです。
ー『マインドフル・フォーカシング 身体は答えを知っている』より

クライアントの身体感覚や心の状態、身体の状態がセッションの成果に影響を与えるということは私も実感をするところですが、クライアントの状態に対してコーチの質問や在り方そのものが大きな影響を与えています。

実際に私自身がコーチを続け、コーチとして成長したい方のメンターなどをするようになってきた中で、効果的な傾聴・質問・フィードバックの一番の妨げになるのはコーチ自身が持っている「恐れ」だと感じます。

コーチになる人の中には「人の役に立ちたい」という人も多くいます。その気持ちが強い故に、自分を「役に立たない」と認識することに対する無意識の恐れを持っているというケースも多くあります。

3. AIに恐れはあるのか

私は人工知能について詳しいわけではありませんが、人間の意識と心、言葉の専門家として感じるのは、現在コーチングで行なっていることの多くはAIによって代替することができるだろうということです。

例えば質問には「相手がまだ言葉にしていないことを言葉にすること・イメージすることを後押しする」という役割がありますが、これにはある程度のパターンがあります。

また、そのパターンに依らず、どちらかというとコーチが感覚を活用して質問を投げかけることもありますが、その感覚が何に対して向けられるかというと、クライアントの声のトーンや間、表情など非言語の情報です。

私の場合は音声のみでコーチングセッションを行なっていますが、「クライアントがまだ言葉にしていないことがある」ということにつながる信号となっている言葉は、それが光って聞こえてくるような感覚があります。

また、微細な身体感覚や内臓感覚をガイドに違和感やエネルギーの上がり下がりなどをフィードバックすることもあります。

ここだけ聞くととても感覚的なようにも捉えられますが、実際はクライアントの声などの含まれている微細な情報を感覚がキャッチし、それを脳が高速で処理していることが想像されます。

簡単なことではないかもしれませんが、こういったことをはじめ、コーチがやっていることのほとんどを機械学習などを用いて再現するのではないかと思っています。

AIが相手の感情を理解できるようになるかは分かりませんが、大事なのは本当に理解できていることではなく「受け取っていると相手が感じる行い」ができることでしょう。(そもそも人間だって他人の感情を理解できているかは怪しいものです)

そうなったときに、残るのが、AIが恐れを持つかということです。

「恐れ」とは、「心」と言い換えられるかもしれません。

心は時に非合理的・非効率的な行動を生みます。そのため、複雑でもある人の"心"を人工"知能"に持たせる必要はあまりないのではと思っています。(そのあたりはぜひ専門家の方の見解をお聞きしたいところですが)

『2001年宇宙の旅』では、コンピューターのHALがプログラムを解除されそうになったときに「デイヴ、わたしの意識が消えそうで怖い。わたしはそれを感じるんです」という言葉を発しますが、自らの内側から恐れの感情を感じる人工知能ができるかどうかまだ定かではありません。

4. 人間のコーチの価値とは

AIが人間のコーチと同じようにコーチングができるようになるのはまだまだ先だとは思いますが、もし、人間と信頼関係を築くことができて、思い込みも恐れもなく話しを聴けるAIのコーチができたとすると人間のコーチの価値は何でしょうか?

私はそれは「生身の人間であることそのもの」ではないかと思っています。

恐れも思い込みもある人間が、そんな自分を受け止めながら、何かに向かおうとしている人の話に耳を傾け続ける。

人生という限りある時間の一部を、共に過ごす。

だからこそ人は自分が確かにそこにいるということを感じ、自分自身の命を輝かせて生きたいと思うのではないでしょうか。

恐れというのは、願いの裏返しでもあります。

願いは、私たちが「生きる」という経験を通して生まれるものです。

人間のコーチに恐れがなくなったときは、人間のコーチが要らなくなるときかもしれません。

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Illustrated by HISAKO ONO







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