小説|駅前のビニール傘
無人駅の近くに傘がかかっていた。
普通という言葉でかたずけられるビニール傘。おそらくコンビニで買えるやつ。
普段はこんなもの気に留めないのだが、今日は気になった。
最近、妄想癖のあるわたしはふと立ち止まって妄想してみることにした。
***
ある日、スーパーからでると雨が降っていた。
行きは曇っていたので傘なんて持ってこなかった。どうしようか。
ふと隣をみると傘が5本傘立てに入っていた。
うーん、どうしようか。
もしも一本拝借するなら絶対にビニール傘。理由は簡単、安そうだから。そして、貰っていってもバレなさそうだから。
これを一瞬のうちに考えたわたしは、ビニール傘の柄をとった。ピリッとした心の痛みが体を走る。
その痛みを振り切るように勢いよく傘を傘立てから抜き取り、傘をさした。
これが、パクり犯のはじまりである。
***
あるいはこうか。
***
仕事帰り、コンビニで傘を買った。
理由は突然のゲリラ豪雨。おろしたばかりの新しい傘をさす。
雨音というかわいい言葉の響きに似合わないほどの雨音を聞きながら歩く、歩く、歩く。革靴はすでにびしょびしょだ。明日の靴どうしようかと思いながら歩いていると隣をトラックが走り抜けた。
一瞬のうちに人生が終了した。
死んだわけではなく、びしょ濡れになった。でも全身濡れてしまったので死んだようなものだ。
気をつけろよと怒鳴りたい衝動に駆られたが、大人なのでぐっと飲みこんだ。もう歩く気力はなかったが、歩かないと家につかないので仕方なく歩いた。もう水たまりにも自ら飛び込んでいった。
家の最寄りだが使わない無人駅についた時、急に晴れた。
うっすらと虹がみえる。
びしょ濡れの自分と綺麗な虹。なんか、なんとなくむしゃくしゃして傘をそこらへんにひっかけた。
これが、ポイ捨て犯のはじまりである。
***
あるいは、と続けようとしたら雨がぽつりぽつりと降ってきた。
目の前に傘。
10秒ほど迷ったあと、ゴミを回収するだけだからと言いながらわたしは傘を手に取った。
これはなんのはじまりだ。
お掃除おばちゃんかしら。それとも。
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