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小説:深遠の杜

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神社に住む、鬼の子と人の子の姉妹の物語。一つひとつが独立した短編です。
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深遠の杜:八岐大蛇

深遠の杜:八岐大蛇

「一昨年も去年も飢饉だった、また今年も飢饉になると? おばあ、いい加減にしてくれよ」

村一番の長老で、「おばあ」と呼ばれる占い師。
おばあの占いの結果に、村の長である男がため息をついた。

「嘘ではない。水害の星が出ておる。川は氾濫し、田は駄目になる」
「川の氾濫? あの川が氾濫なんてするのか?」
「昔は大きな氾濫があった。すっかり忘れ去られてしもうた。忘れられた頃に、災害は繰り返されるものよ」

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深遠の杜:棚機

深遠の杜:棚機

「お姉ちゃん!」

岩屋の戸を開けた日和。

中では朔夜が布を織っていた。

「あら、お疲れ様。大変だったでしょう?」
「ううん、お姉ちゃんこそ。……あれ」
「あぁ、お客様よ」

ちらと岩屋の奥を見た朔夜。

朔夜と同じく布を織っているのは織姫。

彦星が、そんな織姫を見てにやけていた。

「織姫様と……彦星様」
「何で間がある? 俺がいるのそんなに嫌か?」
「日和、ごめんなさいね」

申し訳なさ

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深遠の杜:闇の声

深遠の杜:闇の声

お姉ちゃん、と私を呼ぶ声が好きだ。
純粋無垢でまっすぐな瞳も、安心しきっている笑顔も、妹のすべてが好きだ。

でも、私は妹とは根本的なものが違う。

『朔夜』

夜風にあたるために、外へ出たところだった。
私以外には誰もいないはずの闇から声が聞こえる。

「また来たの?」
『何度だって来るさ。朔夜が俺たちの里へ来るまでな」
「何度来ても同じよ。私はここを離れるつもりはない」

空気が揺れている。

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