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祝宴狂想曲(3)誰が為に鐘は鳴る、きくえの為。

みなさま、こんにちは。50手前にして東京から小さな離島に嫁入りした、じじょうくみこでございます。

 
いやはや、コロナ自粛が解除されてからというもの、ものすごいスピードでいろいろなことが動くようになったもので、思うように時間をつくることができずにおります。毎日更新のつもりが、このていたらく。しばらくマイペース更新がつづくかと思いますが、よろしくおつきあいいただけるとうれしゅうございます。


そんなわけで、前回のつづきです。5年前になりますが、今でも黒歴史として語り継がれるお話でございます。


カモメ


東京での祝宴に参加できなかったかわりに、10月にわたしの地元でじじょう家の祝宴が開催される運びとなりました。当初は10人ほどでこぢんまりと、レストランでささやかな食事会を…という話だったはずが、幹事を申し出た地元在住のわが姉きくえが想像を絶するマイペースを発動、そのくせ強固に「ウエディングドレスを着ろ」と言いだして、遠く離れたシマ島からドレス探しに奔走するハメになったところまでお話いたしました。

地元にフォト婚(貸衣装を着てプロのカメラマンに写真を撮ってもらうウエディングプラン)をやっているドレスショップが見つかり、そこでなんとか手を打ってもらおうと画策したものの、それを聞いた母上が「食事会でドレスを着ないのなら、もう着なくていい!」とおかんむり。

母上のご立腹ポイントは「ドレス姿をゲストのみんなにお披露目できない」という点でありました。「だからスタジオにみんなを呼んで写真を撮れば、ドレスも見せられるし記念になっていいじゃない」と必死に説得するのですが、聞く耳持たずの状態…。どうしたものかと頭を抱えていると、姉きくえから電話。


「追加料金2万円払えば、フォト婚で着たドレスを食事会に着ていけるってよー♪( ´θ`)ノ」


そうかそうかやっぱり着なきゃダメですか。てか食事会でドレスを着るならフォト婚しなくてもいいじゃないかという気がしなくもないですが、フォト婚→そのまま食事会が予算的・立地的にベストということになり、もう時間もないのでそこでお願いすることになったのです。

残された問題は「どんなドレスを着るか」、でございます。

ドレスショップがあるのは、シマ島から遠く離れたわたしの地元。当然ながら、試着には行けません。若くて華奢な女子ならそれでもどうにかなるでしょうが、なにしろ当方48歳(当時)。タテにもヨコにも大きいオバチャンが着こなせるドレスは少ない、ということは東京で嫌というほど味わった身でございます。

ましてや地方都市では東京のようにアラフィフで挙式するケースは少ないでしょうし、実際そのショップのサイトを見ても20代がターゲットなのは明らかでありました。

なにはともあれ、ショップに電話をして相談してみることにしました。電話口に出たのは、おっとりした口調の男性。

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「あの、わたし離れた場所に住んでいるので試着に行けないのですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、当日でも大丈夫ですようー。ただ当日はバタバタするので、事前にドレスを決めていただいて当日はヘアメイクにすぐ入れる状態にしていただきたいんですがあー」
「食事会の2日前に帰りますので、そのときに試着にうかがうのはどうですか?」
「ああ、大丈夫ですようー」
「ドレスって直前だと貸し出していて少ないですか?」
「そうですねえー、貸衣装屋は貸し出すのが商売なのでえー」
「ですよねー」
「10月は結婚式が多いですしねー」
「ですよねー」
「あのう、わたしいま48歳でして」
「あ、はあー」
「ガタイも大きいので、着られるドレスも限られると思うんですよ」
「あ、はあー」
「それに少人数の食事会なので、できるだけ大げさにならない、コンパクトなドレスがいいんですが…」
「あ、はあー、まあドレスって大げさなデザインが普通ですからねえー」
「ですよねー」
「ですねー」
「とりあえず試着してみて、万が一厳しい場合は写真だけっていうのでもいいんでしょうかー」
「あ、はいー大丈夫ですよー。サイズはご用意がありますのでえー、アレでしたらお食事会の最初だけドレスでお披露目されて、途中でワンピースなどにお着替えになるのもよいかとー」
「あ、はあー、ふむー」

なんとも頼りなげな担当さん、オバチャンがドレスを着るということがどういうことなのか本当にわかっているのかはなはだ疑問ですが、とにかく食事会の2日前に試着をして、大丈夫なドレスが見つかれば食事会まで着ていく、ムリな場合は頼む!写真だけで勘弁してください!と母上に泣きついて、しぶしぶ了承を得ました。一か八かのドレス選び、はてさて鬼が出るか蛇が出るか…。

左4c

嫌な予感しかしない


ドレスのことを考えるだけでも心臓ばくばくですが、さらに悩ましいのが姉きくえからの連絡でした。

「あのさ、食事会の途中なんかやる?」
「ん? なんかって?」
「いや、ただ食べるだけだと間が持たないかなーと思って」
「いやいや、食事会ってただ食べるのが普通じゃないかと…。みんな久しぶりだし、人数少ないから喋っているだけでけっこう時間たっちゃうと思うよ?」
「んーでもほら、ケーキカットとかキャンドルサービスとか手紙読んだりとか」
「……姉ちゃんそれ食事会じゃなくて披露宴ですから…」
「仕切る自信ない。なんかやってよ」
「なんかって…。わかったよケーキ切るよ切りまくってやるよ! レストランの人に用意できるか聞いてみてよ」
「えー」
「えーじゃなくて」
「歌とか歌う? 手紙読む?」
「頼むからそれやめて…。花束贈呈ならいいよ、こっちで用意するよ。それでも間が持たないっていうなら、シマ島の紹介ビデオか写真か準備するから、もしプロジェクターを借りられるかどうか聞いてみて。ムリならアルバムを持っていくから」
「えー」
「えーじゃなくて。てかそういう披露宴ぽい感じにするなら、引き出物を用意しなくちゃいけなくなるよ?」
「あー」
「いろいろ面倒になるよ? それでもいいなら構わないけど」
「うー」
「だったらシンプルな食事会にして、会費制にすればいいんじゃないの? そしたらみなさんの負担も少なくなるし」
「んー」
「ドレスもいいんじゃないの」
「それは着てよ」
「えー」
「おばちゃんが留袖を着るってはりきってるんだよねー」
「へ?」
「お母さんもわたしも一緒に貸衣装屋でレンタルしようと思ってー」
「ほ?」
「やっぱりなんかやってよー」
「…………」

東京のときもそうでしたが、なぜ祝宴というものはどんどん話が大きくなっていくのか。不安しかない食事会の日は、10日後に迫っておりました…。

(つづく)

Illustrated by カピバラ舎

*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。

*上記サイトで月1連載を更新しました。よろしければ、そちらもぜひ。「ハイパー棟梁は、行方不明。」


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