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6.Catelo de Sao Jorge サン・ジョルジュ城

Ⅰ:◇ 行きの坂道風景
 サン・ジョルジェ城は市内を見下ろす小高い丘にある。市内のどの場所からもその姿が見られるのだが、実際其処へ行こうとすると果たして今歩いている道が正しいのか不安になるような細い道を辿る。
 道幅も本当に狭く、階段が多い風景は、ポルトガルと云われて思い描く正にその絵だった。ツアーではなく個人旅行の良さはこうした時に発揮される。迷いながら歩く道は決して合理的な最短距離のルートではない。しかし、そこには暮らす人々の生活が垣間見える。下の写真は迷いながら択んだ道のスタート地点。頂上を目指す始点は徒歩か車かでも変わるように、既にこの時点で迷いの中だ。これと解るような観光案内指示を見つけられないまま歩きながら「ま、上へ上ろう」と動き出す。曲がった先の上り階段にカメラと地図を手にした観光客の姿が見えたのを幸いに、彼らも間違う可能性はあると覚悟の上で同じルートを択んだ。同士が居るのは少しばかり心強い。

 朝の光が狭い建物の間に射し込み手すりが反射する傍らをパートナーは先へ先へと振り返らず歩を進める。私は風景を記憶に刻む一方で今回は写真も自ら撮ることにした為、どうしても遅れてしまう。よく写真を撮ることに気を取られアングルから外れた風景を見損ねていると云われるがそれは一概に云えないだろう。目的地へ向かう気持ちが強すぎると、風景の中で立ち止まって仰ぎ見たり、振り返ることもない。下の写真はお店の看板らしく段ボールで作った人形に余り布で服を作っており、そのヘタウマ加減に微笑んでしまいカシャ。

 建物に挟まれた狭い道は城まで続いていく。建物で視界を遮られ目指す城は中々見えないが、決められた到着時間などない私たちはサン・ジョルジェ城が在るだろう方向へとゆっくり散策を楽しんだ。道中も観光だった。

 此処に住む方々は観光客に慣れているとみえ、テラスから顔を出していた夫人が下からの写真撮影に応え納まるポーズを取っていた。見上げると細い青空が眩しかった。

 国民性と片付けるのではつまらないことの一つ、滞在中お洗濯物の干し方が気になってしようがなかった。パートナーは君が指導に行けば、と笑うが衣服の形を整えず、繊維の目を伸ばすなどなく(本人はされているかもしれないが私にはそう見えた)只ワイヤーにかけるいい加減さ。下着も隠すなどない大らかな干し方。そのワイヤーも左右にピンと張られてはいないのだ。そもそも殆ど家にバルコニー、テラスはなく窓にワイヤーが張られているだけ。今度は私が彼に「物干し竿の営業支店を創設しては」と提案。この風景はポルトガルの随所で見られたところをみると、乾燥機で乾かすよりは自然を択ぶお国なのだろう。国旗のようにはためく洗われたお洗濯も風景の一部で見苦しくはなかったことは記さねば失礼になる。プライバシーの関係で写真は撮らず、ご紹介は出来ない。

 生活感溢れるが、芸術的側面もあり奥が深い。日本の規格化された玄関扉とは違い、リスボアに限らずポルトガル各地で見かける扉は同じ物がなく各家個性に溢れている。玄関扉だけの写真集もきっとあるに違いない。
 この通りに惹かれたのか、写真家が関わったのだろうと察せられる、住んでいる方々を撮った写真が家々の壁に飾られていた。テラスや大きな窓類が存在せず中の生活様子を窺い知ることができないにも拘わらずこの一枚の写真が多くを語っていた。

 この細い路地を抜けた時に一台の車とすれ違う。車の行き先は今抜けたばかりの細い道しかなく、振り返ったところCMさながらに普通車が其処へ吸い込まれていった。現在一方通行が多い所に住み道の狭さには慣れてはいるが、ここまで歩行者とも共有できない、且つ、前方見通しも悪い、且つ、ミラーがない難易度の高い細い道を走行することは、慣れるまでは勇気が必要そうだと感心して通り過ぎた車を見送る。
 坂道は勾配を緩めず続くが、こうした細い道が広くなり始めると夫々の地点から上ってきた人らが集まり始め観光ルートと合流する。私たちが通った道は車が通行するにあたっては車幅制限があるため多くの人数で動く観光客のメインではなかったことが、入口付近の人の多さに改めて解る。城付近は当然頂上であるから駐車余裕はないにも拘わらず車での来訪者も多く、またこの急斜面を自転車で訪れる者あり。

 一際目立ったのはレンタルセグウェイの人らだった。レンタルセグウェイは、この後行く先々で見かけることになる。自転車とバイクの中間のような乗り物だ。日本で一番人々の目に触れたのは少し古くなるが2005年小泉前首相の官邸で乗られていた姿だろう。急坂が多きリスボアでは自転車より当然楽であり、車の様に慣れない場所で駐車スペースを探す手間もなく便利そうに見えた。でも、両手がふさがり写真も瞬間では撮ることが出来ず、途中人との交わりもなく、前々と進む乗り物では振り返ることもままならない。私は仮令坂道が多いこのリスボアでも楽しそうではあるがその利便性はおそらく選択しない。

 城入口付近にはお土産品屋さんが集まっており、後は人の流れに入って門をくぐるとサン・ジョルジェ城だ。門をくぐってすぐ、人が並んでいることに疑問を抱きながらもトイレ待ちの列だろうかと彼と話しながら立ち止まらず上って行く。入場チェックの為に設けられたゲートまで来て、通り過ぎたあの列がチケット購入場所だと解る。明らかに此処が入場チケット売場だと示すサインは今回も無い。幸い、ゲート横にクレジットカードで購入できる「人が並んでいない」ブースがあったので引き返さずに果敢にも購入を試みるが。残念なことに何故か最終画面でカードを読み込んでくれない。私たちが指示を見落としているのかと諦め、来た道を引き返し仕方なく「列に並び」チケットを購入する。後で他の人も発券出来ない様子を見て私たちの語学力不足が原因ではなかったことに安堵する。まだ旅行は始まったばかり、言葉の壁に気落ちするわけにはいかない。

 


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