「サラエヴォの銃声」
原題:Smrt u Sarajevu
監督:ダニス・タノビッチ
製作国:フランス・ボスニア・ヘルツェゴビナ
制作年・上映時間:2016年 85min
キャスト:スネジャナ・ビドビッチ、イズディン・バイロビッチ、ヴェドラナ・セクサン、ムハメド・ハジョヴィッチ
今回に限ったことではないのでそう驚きはしないのだが、女性は私を含め3人。こうした社会派映画は不人気なことが残念。
サラエヴォ事件の詳細は知らずとも大概の人が世界史の中で第一次世界大戦の引き金になった暗殺事件と学んでいる。ユーラシア大陸東の果てに住む私たちの中では「オーストリア皇太子夫妻が青年に暗殺されそれが第一次世界大戦へ繋がる」程度の一行の歴史だ。
今回、改めて観終わった後に復習すると暗殺者は19歳のセルビア人ガブリロ・プリンツィプ。映画の中で何度もこの名が出るが私は彼の名までは知らなかった。民族の縺れの中で彼を見ると大方の歴史(強者の歴史)では暗殺者と見られ、セルヴィア国復活を願う人々からは英雄視されている面もある。*2014年に彼の銅像が立てられ賛否両論となっている。
100年前の話だけではなく、少し前もセルヴィア包囲網の言葉が残るように悲惨な内戦が此の地にはあった。
民族間の感情には正論が存在しない為にこの映画の中ジャーナリストと論客の間で「過去」を論じ合いながらも「現在」に発展し収拾できない激高の場面がある。国を構成する一国民の前に「民族」が立ちはだかる。
群像劇である映画ではホテルを舞台に同時進行でメタファになっている「一発の銃声」に向かって夫々の話が集約していく。ホテルを舞台にしながらもその舞台の多くはホテル屋上か宿泊者からは見えない舞台裏である従業員ロッカールーム、地下ランドリーエリア、厨房だ。それは舞台劇のようでもあった。
華やかなホテルの舞台裏で繰り広げられる「夫々の事情」。一見、昔とは無縁に進んでいるかのようで巧みに織り成していく個々の話は淀むことなく(観客側すると)銃声に向かって流れ落ちていくようだった。
セルヴィアの人々が抱えている歴史問題について全く興味がない場合、この映画の緊張感伴う面白さは少なくなるかもしれない。カメラワークも良く、無駄のない展開は中だるみする間を与えない。
VIP扱いの彼の台詞はかなり長いが覚えておいて欲しい、固い映画ながらも成熟したユーモアは存在している。
冒頭のロケシーンを除くと最後までホテルから出ることはなく、現在5つ星のホテルヨーロッパの外観は見られない。
これから観に行く予定の方はサラエヴォ事件ではなくセルヴィアの歴史について復習をお薦めする。
★★★★