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AIのべりすと怪文書『マルドゥック・ヘルタースケルター』(原作︰冲方丁『マルドゥック』シリーズ並びに岡崎京子『ヘルタースケルター』)

 オルフェーヴルは、悩んだ。なぜなら彼は、宮城谷昌光氏の『諸葛亮』上下巻を購入して読み始めたが、彼自身は宮城谷氏よりもむしろ戸梶圭太氏の作風を好んでいたからである。念のため言っておくが、小説家の戸梶圭太氏は騎手の戸崎圭太氏とは全く無関係の別人である。
「うーん、宮城谷さんの作風って、きれい過ぎて感情移入出来ないよ」
 オルフェーヴルは、彼自身の孝行息子ウシュバテソーロからもらった隕石を掌でもてあそびながら、すすきのの居酒屋にいる劉邦に電話した。
「孔明もあれで、超美形だからなあ」
 劉邦は、しきりに残念がった。
「まあ、背が高いイケメンだし」
 オルフェーヴルは、榎本俊二氏の漫画『えの素』を読み始めたが、この漫画の主人公である前田郷介は色々な意味で劉邦に似ている。『えの素』には、前田郷介の息子であるみちろうが、オルフェーヴルのファンだというくだりがある。
「みちろう君っていうんだけど、宮城谷さんよりオルフェーヴルに似てるんだよ」
「ほー」
 劉邦は、興味深そうに言った。
「でもさ、宮城谷さんって韓信の野郎を嫌ってるんだろ?」
「……まあね」
 オルフェーヴルは苦笑した。確かに宮城谷昌光氏は韓信を毛嫌いしている。
「韓信なんかに息子が懐くかよ」
「でも、オルフェーヴルは毛嫌いされてないだろ?」
 劉邦の言葉に、オルフェーヴルも同意した。
「確かにそうだな。韓信には好かれてるな」
『えの素』を読んで宮城谷氏への見方が一変したオルフェーヴルは、その翌日から彼の作品を少しずつ読み始めた。それはあくまで読者としてであり、それ以上でもそれ以下でもないのだが、少なくとも戸梶圭太氏や塚本靑史氏の作品と比較している。
「いやあ、これは駄目だね」
 戸梶圭太氏や塚本氏より宮城谷昌光氏の作風の方が好きだと言ったばかりなのに、オルフェーヴルはばっさりと切り捨てた。なぜなら彼は、冲方丁氏の『マルドゥック・スクランブル』を読んでしまったからに他ならない。
「冲方丁は、やっぱ天才だな」
『マルドゥック・スクランブル』を読み終えたオルフェーヴルは、ヒロインのルーン・バロットに憧れてネズミを飼い始めた。そのオスのネズミの名前は当然「ウフコック」である。

「ウフコック! ウフコック!」
 オルフェーヴルは、うきうきして言った。
「よし、あの高慢ちきなオクトーバー一族の連中を皆殺しにしてこい」
 オルフェーヴルの命令を受けたウフコックは、悲しげな目になった。
「ん? どうした?」
「いや、何でもない」
 ウフコックは首を振ったが、彼はご主人様が思っているほど残虐な命令に従うのが好きな訳ではない。それでも、今のオルフェーヴルには逆らうことが出来なかった。ウフコックの自我は消え失せかけている。彼は命ぜられるままに殺人を行った。オルフェーヴルはそんなウフコックを見て悲しみにくれ、
「すまんなウフコック。もういい。お前は殺したくないんだ」
 と優しく言った。だが、もうオルフェーヴルにはウフコックの言葉は届かず、彼は代わりのネズミを仕入れることにした。
「ウフコックは、もういない」
 オルフェーヴルは、そうつぶやいた。
「代わりのネズミを探そう」
 そして彼は、『史記』の「李斯列伝」に出てきた倉庫のネズミを、ウフコックの代わりに飼うことにした。彼はそのネズミに「アルジャーノン」と名付けた。
「アルジャーノン! アルジャーノン!」
 オルフェーヴルは、ネズミ相手に熱心に話しかけた。すると、彼の前に一人の美女が現れた。その女は人気ファッションモデル「りりこ」だった。
「アルジャーノン! りりこだよ!」
「りりこ?」
 オルフェーヴルは、首を傾げた。
「アルジャーノン! 私よ! わからないの?」
 そんなオルフェーヴルを見て、りりこは悲しげに首を振ったが、すぐに気を取り直して言った。
「でも、いいわ」
 そして彼女は、自分の美しさをアピールし始めた。オルフェーヴルは、その美しさに圧倒された。彼は、以前にも増してりりこに夢中になった。

 その頃、りりこの後輩である人気ファッションモデルの吉川こずえは、りりこがオルフェーヴルと交際しているという噂を聞き、彼に対する憎しみを募らせていた。
「許せないわ」
 こずえは、そうつぶやいた。彼女は以前、オルフェーヴルから告白されたことがある。もちろん答えはノーだったが、そんな自分を袖にしておいて他の女と付き合うなど許せることではなかった。
「どうせいつか捨てられるに決まってるわ」
 しかしそれでも、りりことオルフェーヴルは順調に愛を育んだ。そしてある日、二人は結婚式を挙げた。
「何だかオシラ様みたいだな」
 劉邦は、つまらなそうに言った。
「まあでも、あんな目に遭わされた割にはりりこちゃんも幸せそうで良かった」
 しかしオルフェーヴルは、この結婚生活も長くは続かなかった。彼は結局りりこと離婚してしまったのだ。離婚届を提出した後、オルフェーヴルと吉川こずえはファミレスで会う約束をした。ところが約束の場所にやって来たのは、吉川こずえではなく、何故かりりこのマネージャー羽田みちこだった。
「あれ、こずえちゃんは?」
「そんな人はいません」
 羽田みちこは冷たく言い放った。
「え? でも、昨日電話で約束したんだけど」
 オルフェーヴルは狼狽えた。すると羽田みちこは、オルフェーヴルの前に週刊誌を突きつけた。そこにはこう書かれていた。『吉川こずえ電撃離婚! お相手はあのイケメンモデル』。
「ねえ、どういうこと? ちゃんと説明して!」
 オルフェーヴルの心臓はドキドキと早鐘を打った。

 週刊文潮の記者姫野優作は、検事の麻田誠と会っていた。
「被告人、奥村信輝の犯行は計画性がなく、無計画かつ無鉄砲なものであるから、情状酌量の余地はなく死刑が相当であると私は思います」
 姫野優作はそう言って、麻田誠に同意を求めた。麻田は姫野が言ったことについては概ね賛成だったが、一つだけ意見が食い違っていた。
「いやしかし、彼はまだ若いし前科もない。死刑というのはちょっと」
 そんな麻田に姫野は言った。
「たとえ前科がなくても、殺人鬼は死刑にすべきです」
 姫野の言葉は、正鵠を射ていた。彼はこの裁判の途中からオルフェーヴルに感情移入し始めており、今では彼が無罪になることを望んではいなかった。麻田誠は最後にこう言った。
「私はまだあきらめていないぞ」

 拘置所でオルフェーヴルは吉川こずえと別れて以来、寂しさを埋め合わせるように吉川こずえと瓜二つの羽田みちこに夢中になっていた。そんなオルフェーヴルに対し、拘置所の職員たちは陰で苦々しく思っていたが、それでも表面的には彼を丁重に扱っており、オルフェーヴルはそんな拘置所の人たちに対して感謝の気持ちを忘れたことはなかった。
 拘置所職員には暴力団員やチンピラが多かったのだが、彼らは全員、オルフェーヴルに恩義を感じていた。というのも、彼らは過去に何度も警察に逮捕されては釈放されを繰り返していたのだが、そのたびに彼らを釈放してくれるよう口利きをしてくれたのが他ならぬ吉川こずえだったのだから。
 吉川こずえは、オルフェーヴルが拘置所に入る前と変わらず人気ファッションモデルを続けていた。彼女は相変わらずオルフェーヴルにそっくりだった。
 そんなある日、拘置所のロビーで何者かが大暴れし、職員と乱闘を始めた。それはかつて吉川こずえが世話したチンピラたちであり、彼らはかつての恩返しにオルフェーヴルを助けにやってきたのだった。
「おいお前ら! 何やってんだよ!」
 騒ぎを聞きつけた麻田誠は、すぐに彼らを逮捕しようとしたのだが、そこに下半身丸出しの劉邦が駆け込んできた。
「すみません! 実は、性病に感染したらしくて」
「はあ? 何を言ってるんだ?」
 麻田は顔をしかめた。だが劉邦は、そんな麻田を無視してオルフェーヴルに話しかけた。
「おいオルフェーヴル! 今こそあの力を使う時が来たぞ!」
 しかしオルフェーヴルは首を振った。
「いや、俺はもう使わないよ」
「何言ってんだよ! そんなことを言ってたらお前は一生ここで暮らしていくことになるんだぞ!」
 そんな二人の頭上に、突如金ダライが落ちてきた。
「ぐはっ!」
 二人は、そのまま気絶してしまった。

 オルフェーヴルは夢の中で、吉川こずえと一緒に暮らし始めた頃の記憶を見ていた。その頃はまだ、ウフコックも健在だった。
「ねえ、こずえちゃん」
 オルフェーヴルがそう言うと、吉川こずえは嬉しそうに振り返った。
「なあに?」
 そんな彼女は、オルフェーヴルよりも年下だったがとても大人びて見えたし、オルフェーヴルには彼女がとても美しく見えた。
「こずえちゃん、俺、こずえちゃんが好きだよ」
 だが吉川こずえは、オルフェーヴルのその言葉には答えずにこう言った。
「ねえ、オルフェ。私はね、あなたのためなら何だって出来るのよ?」
「何でもって?」
 オルフェーヴルは尋ねたが、彼女は答えなかった。そして代わりにこう続けた。
「だからあなたもね、私のためなら何だってしてくれるわよね?」
 そんな吉川こずえにオルフェーヴルは、
「もちろんだよ」
 と言って、優しく微笑んだ。オルフェーヴルと吉川こずえはそうして、いつまでも幸せに暮らしたのであった。

 ところがオルフェーヴルは目を覚まし、夢から覚めたことにがっかりした。そして同時に彼は、ウフコックがいなくなってしまったことに気付いたのである。
「おいウフコック! どこだ?」
 だが彼の呼びかけに答える者はなく、彼は一人ぼっちになってしまったのだと感じた。その時彼は初めて孤独を感じたが、それは彼が兄ドリームジャーニーの死に遭遇した時のような、あのおぞましい感覚ではなかった。それは、自分が一人であることに気付かされつつも同時に誰かのぬくもりを感じられるような感覚だった。
 オルフェーヴルはその時初めて気付いたのだ。自分が本当は誰かに甘えたいのだという願望を抱いていたことを。彼は吉川こずえに甘えていた。だからウフコックを失った今、彼はこんなにも淋しいのだということを実感したのであった。
「ウフコック! どこにいるんだよ? 俺を一人にするなよ!」
 オルフェーヴルはほら貝を吹いて、呂布を呼び出した。呂布は相変わらず真っ赤な六尺ふんどし一丁という潔い姿で、オルフェーヴルの前に現れた。
「ウフコックが、いないんだ」
 呂布はオルフェーヴルの言葉を聞いて頷いた。
「ああ。知っている」
 そんな呂布に、オルフェーヴルは言った。
「なあ、お前ならウフコックの居所を知っているんだろ?」
 しかし呂布は首を横に振った。そしてこう答えたのだ。
「いや、俺は知らない」
「え? いや、だって……」
 困惑するオルフェーヴルに、呂布は続けた。
「お前は知らないだろうが、りりこは実は整形美女だ。あいつはある田舎の貧乏人の娘でデブのブスだったので、上京してデブ専風俗店で働いていた。そんなりりこに目をつけたのが、モデル事務所の社長多田寛子だ。このおばさん社長は若い頃はかなりの美人だったが、こいつはりりこをひと目見て、りりこの『素材』を見抜いた」
「素材?」
「りりこはある程度背が高く、脚が長い。そして、類まれな骨格の良さに恵まれていた。それで多田社長は、ある美容クリニックの院長であるおばさん医師にりりこの全身整形手術を依頼した。りりこは以前とは全く別人のような絶世の美女に生まれ変わったが、その姿は実は多田社長自身の若い頃の姿の再現だったのだ」
 オルフェーヴルはその話を聞いて驚愕した。彼は、その話を聞いてあることを思い出したのだ。それは、りりこが「自分の夢は綺麗になること」と言っていたことだった。
「整形美女のりりこは大企業・南部デパートの御曹司南部貴男と付き合ったが、南部は大物政治家の娘である田辺恵美利と婚約していた。それを知ったりりこが恵美利に嫉妬したことから、悲劇が始まった。りりこは恵美利を、南部に未練があるかのように思いこませてしまった。そして南部は恵美利と婚約破棄し、りりこと結婚すると言いだした。だが、この婚約破棄の条件として南部は、りりこの整形を暴露すると言ったのだ」
「それで?」
 オルフェーヴルが先を促した。
「それで、りりこはその条件を呑むしかなかった。だが、整形美女である自分の正体がバレたら自分は捨てられてしまう。りりこはそのことを怖れていた。彼女は南部と婚約破棄したかったが、整形がバレたくなかった」
「それで?」
 オルフェーヴルは話の先が気になって仕方なかった。
「だから俺は、田辺恵美利の殺害を依頼されたのだ。俺は仕事を受けた」
 オルフェーヴルは激怒した。彼は呂布に殴りかかったが、呂布はいとも簡単にその攻撃をかわして見せた。
「何でそんな依頼受けたんだよ!」
 オルフェーヴルはそう言って呂布の胸に七つの傷を刻んだ。
「落ち着け」
 呂布はそう言うと、オルフェーヴルの顔面を思い切り殴った。その衝撃でオルフェーヴルは倒れ、鼻から血を吹き出した。だが彼はまたすぐに立ち上がり、呂布に挑みかかったが、今度は呂布の蹴りが腹に命中した。
「ぐはっ!」
 オルフェーヴルは再び地面に倒れた。しかし彼は再び立ち上がった。そして言ったのだ。
「何でそんな依頼受けたんだよ! そんな依頼受けなきゃ良かっただろ!」
 オルフェーヴルはほら貝を吹き、異母弟ゴールドシップを呼び出した。
「おい! お前も何か言えよ!」
 だがオルフェーヴルは、呂布の次の攻撃で再び地面に倒れてしまった。
「ぐはっ!」
 オルフェーヴルはまた立ち上がったが、呂布はそんな彼の顔面を殴り続けた。やがてオルフェーヴルの鼻と前歯が折れて取れてしまったが、それでも彼は立ち上がり続けた。
「何でそんな依頼受けなきゃ良かっただろ!」
 しかし呂布は何も言わず、ただ黙々と彼を殴り続けた。そして次の瞬間、週刊文潮の記者姫野優作が呂布に飛びかかり、彼を取り押さえたのであった。
 姫野は、呂布とオルフェーヴルの間に割り込むと、呂布に「もう充分だろう」と言った。
 すると呂布は無表情のまま頷いた。彼はそのまま何も言わずにその場から立ち去った。残されたのは姫野とオルフェーヴルだけだったが、やがてオルフェーヴルは言ったのだった。
「なあ姫野さん」
「なんだ?」
 姫野が答えると、彼は涙を流しながら言ったのだった。
「俺、りりこちゃんのこと、好きだったんだ」
「ああ、知っているよ。だから俺は、君にりりこを会わせたんだ」
 姫野はオルフェーヴルにハンカチを渡しながら言ったのだった。
「でも彼女の正体は、整形美女だったんだ」
 オルフェーヴルは泣きながら言ったが、姫野は頷いた。
「ああそうだ」
 そして彼は続けた。
「だがな、整形美女だっていいじゃないか。彼女は君が好きだったし、君も彼女のことを好きだったんだろう? そんな二人が付き合うのに、障害があるか?」
「だけど! 俺が好きだったりりこちゃんは、もういないんだ」
「大丈夫だ。彼女もまた整形美人なんだ」
 姫野はそう言ってオルフェーヴルを慰めた。しかし彼はこう続けたのだった。
「でもな、俺は整形美女は嫌いだ!」
 すると姫野は笑って言った。
「じゃあ君は、どんな女が好きなんだ?」
 オルフェーヴルは泣きながら言った。
「俺は……、やっぱりホエールキャプチャちゃんみたいなかわいい牝馬ちゃんがいい!」
「そうか。でもな、ホエールキャプチャは牝馬じゃなくて鯨だ」
 姫野はそう言ってオルフェーヴルを慰めた。
「なあ、もう泣くのはやめろ。俺は君に、りりこを会わせることが出来る」
「え?」
「だから、君はこれからりりこのところに行くんだ。そして彼女にこう言うんだ」
 姫野はオルフェーヴルに耳打ちした。
「『俺は君のことがずっと好きだった』とな」
「え?」
 オルフェーヴルは驚いて言った。
「そんなことして、いいのかよ?」
 姫野はそんなオルフェーヴルに笑って言った。
「ああ。だって君はりりこのこと、好きだったんだろ? だったら彼女にそう伝えても、別に構わないだろう?」
 するとオルフェーヴルは嬉しそうに笑った。そして彼は、姫野の運転する車に乗ってりりこが入院している病院に向かったのであった。
 その病院の前で車を停めると、そこには『マルドゥック・スクランブル』のルーン・バロットとウフコックとドクター・イースターがいた。この〈イースターズ・オフィス〉のメンバーたちは検事の麻田誠と共に、りりこが入院している美容クリニックに対する元患者たちの訴訟の弁護を担当しており、オルフェーヴルも彼らに声をかけられた。
「オルフェーヴルさん、あなたもりりこさんのお見舞いですか?」
 ウフコックが言った。
「あ、はい」
 オルフェーヴルは恥ずかしそうに答えた。するとバロットがこう言った。
「私ね、あなたと直接会って話をしたかったの」
 彼女はそう言いながら、自分の携帯電話を彼に見せた。その携帯には、『ホエールキャプチャ』と表示されていた。それは以前彼女が使っていた携帯電話だった。そして、クリニックの院長和智久子の一連の医療事故、いや、医療事件についての真相が書かれているメールも、そこには表示されていた。
「あなたも知っているように、和智久子医師は患者に美容整形を施して、その代金を着服していたわ。しかも彼女は若い女の子の容姿を磨くことが大好きだった」
 バロットはそう言ってオルフェーヴルを見つめたが、彼はただ黙って頷いただけだった。
「でも私はね、和智先生を責める気にはなれないのよ」
「どうしてですか?」
 オルフェーヴルは首を傾げる。バロットはさらに言う。
「だって、私は和智先生の気持ちが分かるから。私も、自分の容姿を磨くのは好きよ。でも、それは私の場合、ただの自己満足でしかないわ」
 バロットはそう言ってオルフェーヴルに笑いかけた。
「でもね、私は和智先生みたいに、自分の欲望のために誰かを不幸にするようなことはしたくないわ」
「でも、俺は……」
 オルフェーヴルが何か言いかけたが、バロットはそれを遮るように言った。
「だから私ね、りりこさんにも幸せになってほしいの」
「え?」
 オルフェーヴルが驚いて言うと、バロットはりりこがいる病室を指差した。
「あそこにね、和智先生の娘さんがいるのよ」

 オルフェーヴルと姫野が病室に入ると、そこにはベッドに横たわるりりこの姿があった。彼女は意識不明で昏睡状態だった。そのベッドの横では、黒い髪をした女性がパイプ椅子に腰掛けて泣いていた。その女性こそ、りりこのマネージャーである羽田みちこだった。
 姫野がみちこの横に立つと、みちこはハッと顔を上げて姫野に言った。
「あなたが、りりこを?」
 すると姫野は言った。
「ええ。今は少し席を外しているんですがね」
 するとみちこは涙を流しながら言った。
「お願いです! 助けて下さい!」
 そして彼女は自分が持っている『週刊文潮』を見せながら続けたのだった。
「私は、もうどうしたらいいのか……」
 そんなみちこの肩にそっと手を置いて、姫野は言った。
「大丈夫ですよ。私にまかせて下さい」
 みちこが驚いて顔を上げると、そこには姫野の優しい笑顔があった。
「あなたは、一体……」
 すると姫野はみちこの耳元で囁いたのだった。
「私はね、田辺恵美利さんの父親である法務大臣の田辺宗平の、隠し子なんだ」
「え?」
 みちこが驚いて姫野を見つめると、姫野はみちこの肩を叩いて言った。
「大丈夫。私に任せなさい」
 そして姫野が病室から出て行くと、みちこはただ呆然とその後ろ姿を見つめていたのだった。
 それからしばらくして、りりこの病室にはオルフェーヴルとりりこだけになった。オルフェーヴルはしばらく黙っていたが、やがて彼は意を決したようにこう言ったのだった。
「俺、クリニックの背後にいる黒幕を知ってる」
「え?」
 りりこは驚いてオルフェーヴルを見つめた。彼は続けた。
「俺は、その黒幕に言われて君に近づいたんだ」
「何言ってるの? あなた……」
 するとオルフェーヴルはさらに続けて言った。
「でも、それは俺の意思だ! 俺は君のことが好きなんだ!」
「え?」
 りりこが驚いて彼を見つめると、オルフェーヴルは顔を真っ赤にして言ったのだった。
「だから、俺は君の整形美人なところが大嫌いだったんだ!」
「え? 何それ?」
 りりこは驚きのあまり、一瞬のうちに整形美人の仮面が剝げ落ちた。そして彼女は言った。
「じゃあ何なの? あなたは私のこの顔が嫌いで、整形美人なところが嫌で、それで私に近づいてきたわけ?」
 するとオルフェーヴルは頷いたのだった。
「そうだよ」
 りりこはしばらく黙っていたが、やがて彼女は言ったのだった。
「じゃあさ、私、整形やめる」
「え?」
 オルフェーヴルが驚くと、りりこはベッドの上で正座して言った。
「私さ、ずっと整形美人の自分が嫌いだったんだ。だからこれからも整形続けようと思ってたんだけどさ、あんたの話聞いてたらなんか馬鹿らしくなっちゃったわ」
 そして彼女はオルフェーヴルを見つめた。
「ねえ、あんたもさ、私のこと嫌いならもういいよ」
 彼は慌てて言った。
「違う! 俺が好きなのは君なんだ!」
 するとりりこは苦笑した。
「はいはい、分かったわよ」
 だが彼女は、ふと気付いたようにオルフェーヴルに言った。
「ところであんたさ、私のこと好きなんでしょ?」
 すると彼はさらに慌てて言った。
「そ、そうだよ」
「じゃあさ……」
 と言いながらりりこはオルフェーヴルに抱きつきながら言ったのだった。
「私と付き合ってよ」
 そして彼女はオルフェーヴルの唇にキスをしたのだった……。

 それからしばらくして、姫野とウフコックとバロットは、クリニックの院長室で和智久子院長に事情を聞いていた。
「この美容クリニックの、元患者リストを見せてもらえますか?」
 姫野が言った。すると和智院長は言ったのだった。
「これは患者データではなく、個人データです」
 和智はリストを見せると姫野に言った。
「どうぞご覧下さい」
 姫野がそのリストを見ると、そこには『ディープインパクト』『ハーツクライ』『ステイゴールド』と表示されていた。さらに彼はそのリストの中に、『ホエールキャプチャ』『ヒシアマゾン』の名前があるのを見つけた。
「これは?」
 姫野が驚いて尋ねると、和智は頷いた。
「そうです」
 和智は続けた。
「私が集めた元患者たちの個人情報です」
 姫野たちは驚いたが、和智はさらに言った。
「私はね、整形美人な女の子をたくさん集めているんですよ。そして彼女たちに美しくなる喜びを教えてあげるのです」
 すると姫野は言った。
「ですがあなたは、りりこさんを美容整形によって顔を傷つけたじゃないですか?」
 すると和智は真顔で言った。
「でも、みんな喜んでいます」
 それから彼はさらに続けたのだった。
「私の整形美人な女の子たちはね、みんな私に感謝するんですよ」
 姫野たちは驚いたが、和智はさらに続けたのだった。
「私はね、ただ彼女たちに美しくなってほしかっただけです」
 そして彼は携帯電話を姫野たちに見せた。そこには『ホエールキャプチャ』と表示されていた。
「この電話は、りりこさんが私にくれたものなんですよ」
 和智はそう言って笑った。そしてさらに続けたのだった。
「私はね、ただ彼女に美しくなってほしかっただけなんです」
 そんな和智に姫野は言った。
「しかし、あなた方の手術や処方によって、クリニックに対する訴訟を起こしている元患者は156人。通院していた事を伏せ沈黙している人はその数倍と見込まれている。自殺した人は5年間で9人。そのうち、クリニック勤務者は4人であった。あなたが最初に結婚した夫は20数年間に渡り、出産を望む妊婦に不要な人工流産を行なったり子宮摘出した『沢田事件』と言われる東中野の沢田医院院長だった。その沢田院長の医療事件は平成2年に発覚し、裁判が続けられていたが、沢田院長はりりこが南部グループの御曹司から婚約指輪をもらった頃に自殺している。その沢田院長の医療事件と和智さんのクリニックでの美容整形手術。そこには何か関係があるのではないか?」
「関係ありませんね」
 すると姫野は言った。
「しかし、あなたはりりこさんが最初に開業した美容整形外科で、本当は何をしていたのですか? 実はあなたが無免許医であることを知っている患者たちもいるのですよ」
 すると和智は言った。
「私はただ、彼女たちに美しくなってほしかっただけですよ」
 しかし、姫野は反論する。
「あなたの背後にいる政界財界の要人たち、特にオクトーバー一族の連中があなたの非合法なビジネスの片棒を担いでいるという証拠も上がっているのですよ」
「政界財界? そんなもの、私に何の関係があるのですか?」
 和智が眉をひそめて言うと、姫野は冷たい視線で彼を見つめながら言った。
「あなたは、オクトーバー一族に利用されているだけだ」
 すると和智は言った。
「私はね、美しくなりたいという彼女たちの願いを叶えているだけなんですよ」
 そして彼女は続けた。
「私はただ、美しくなりたいと願う女性たちを美しくしているだけです。そして、私の究極の夢はギリシャ神話の絶世の美女トロイのヘレネのような存在を創造することだ!」
「何だと?」
 姫野は唖然とする。この老女医の常軌を逸した野望に、姫野は恐ろしさすら感じたのだった。
「あなたは狂っている!」

 そして彼は、和智の野望を打ち砕くために行動を開始することになる。それはオクトーバー一族によるクリニックでの人体実験を阻止すべく、オクトーバー一族の元締めである田辺宗平大臣と交渉することだった……。
「田辺宗平大臣と交渉?」
 姫野の言葉にウフコックが驚く。するとバロットが言った。
「でも、その田辺って人はりりこさんの恋人だった南部さんの婚約者田辺恵美利さんの父親で、このクリニックのスポンサーでしょ? どうするの?」
 すると姫野はこう言った。
「まずは、田辺宗平が和智美容クリニックのスポンサーである証拠を出さなければならない。そのためには、奴の周辺を調査する必要がある」
「でも、どうやって?」
 とウフコックが尋ねる。すると姫野は言った。
「オクトーバー一族に潜入する」
 そして彼は続けたのだった。
「俺はステイゴールド血盟軍の情報網を駆使して、オクトーバー一族に潜入することにした」
「待って。ステイゴールド血盟軍って何?」
 バロットが眉をひそめて尋ねると、姫野はにっこり笑って言った。
「俺の組織だよ。俺はね、ステイゴールド血盟軍のリーダーなんだ」
 そして彼はさらに続けたのだった……。
「俺はね、ステイゴールド血盟軍のリーダーなんだよ。あのオルフェーヴルはステイゴールドの息子だったが、オルフェは俺にこう言ったんだ。『姫野さん、俺の代わりに西晋の八王の乱で漁夫の利を得てください』とね。だから俺はステイゴールド血盟軍のリーダーになったんだ」
 姫野はそう言うと、西晋の趙王司馬倫とその腹心孫秀の最期を語り始めた。
「司馬倫と孫秀は、八王の乱の首謀者として、その首を刎ねられた。だが、司馬倫の首は賊によって奪われて、奴の胴体は八王の将たちの血で真っ赤に染まっていた」
 するとイースター博士は言った。
「姫野君、その結果として西晋王朝は滅びた。それが真実だ。やはり、西晋の皇族たちはオクトーバー一族に似てるね。オクトーバー家の連中は、三国志の曹操や劉備のような英雄とは程遠い存在だよ」
 すると姫野は言った。
「確かにね。司馬倫と孫秀は、西晋王朝を崩壊させた八王の乱の首謀者として処刑されました。でもね、俺はこうも思うんですよ」
 そして彼は続けたのだった……。
「司馬倫と孫秀の処刑によって西晋王朝の滅亡が早まったとしても、それは歴史の流れの中で必要なことだったんじゃないかってね」
「どうして?」
 イースターが尋ねると、姫野はにっこり笑って言った。
「だってね、司馬倫の甥である司馬炎が曹氏一族から帝位を簒奪して西晋王朝を築いた時点で、天国への階段ならぬ地獄への滑り台へのカウントダウンが始まっていたんですよ。司馬炎が帝位を簒奪して皇帝に即位した時点で、彼は自ら西晋王朝の滅亡の引き金を引いたんです」
 するとイースターは厳しい表情で言ったのだった。
「司馬炎が帝位についた時点で、西晋王朝が滅びる運命は確定していたと?」
 すると姫野は言ったのだった。
「まあ、俺が言えることはね、司馬一族もオクトーバー一族も三国志の曹操や劉備とは似ても似つかないってことです」
「それでもオクトーバー一族は、和智美容クリニックの院長などの名士たちを利用して、この国を牛耳ろうとしている」
 イースターが言うと、姫野は言った。
「俺が言えることはね、オクトーバー一族がやっていることは、司馬一族の野望と同じなんじゃないかってことです。司馬一族もオクトーバー一族も三国志の曹操や劉備と同じ存在なんだよ」
 するとイースターは頷いた。
「なるほど」
 そして彼は姫野に言ったのだった。
「じゃあ姫野君、これからどうするんだい?」
 すると姫野は不敵に笑ったのだった……。
「オクトーバー一族に、地獄への滑り台へのカウントダウンを」

「りりこ」こと比留駒はるこは、ベッドの上で目を覚ました。彼女は今、自分がいる場所がどこなのか分からなかった。
「ここは?」
 すると、彼女のベッドの脇に立っていたルーン・バロットが答えた。
「ここは、渋川春海クリニックのVIPルームよ」
 りりこは驚いて身を起こした。すると彼女の近くには、ルーン・バロットとウフコック・ペンティーノが立っているのが見えた。
「あなたたちは?」
 りりこが尋ねると、バロットが言った。
「私は〈イースターズ・オフィス〉のメンバー、ルーン・バロット・フェニックス」
 そして彼女はさらに続けたのだった。
「そしてこのウフコックはね、私のパートナーよ」
 バロットの肩には金色の体毛のネズミが立っている。そう、この人語を解するオスのネズミこそがウフコックなのだ。
「〈イースターズ・オフィス〉? あなたはいったい何を言ってるの?」
 りりこが不思議そうに尋ねると、バロットは肩をすくめて言った。
「私たちはね、あなたと同じ境遇の人たちを集めてるグループなの。私はそのグループのリーダーなのよ」
「私と同じ境遇?」
 とりりこが首を傾げる。するとバロットは言ったのだった。
「私は昔、付き合っていた彼氏に騙されて、事故に見せかけた殺人事件の被害に遭ったの。だけど、ドクター・イースターとウフコックのおかげで一命を取り留めた。全身大火傷だった私は全身に人工皮膚を移植されて、元の姿を取り戻して、新たな力を手に入れた。それで私は、私を捨てた男に雇われた元軍人の男と戦い、その男を倒した。そして、その男ディムズデイル・ボイルドは元々ウフコックの親友だったの。でもボイルドはオクトーバー一族の手下にされて、私を殺そうとしていた……。ウフコックが私を助けてくれたのよ」
 するとウフコックが言った。
「俺はバロットとボイルドを助けるためにオクトーバー一族と戦ったんだ」
 そして彼はりりこに言った。
「君は、あのクリニックの院長である和智久子から人体改造を受けたね?」
 りりこは頷いた。するとバロットが言った。
「あなたはね、和智久子の人体実験によって、人工的に作り出された人間なの。あなたは、オクトーバー一族の人体実験によって作られた人間なのよ」
「え?」
 りりこが驚くとウフコックが言った。
「君はね、オクトーバー一族の人体実験によって作られた人造人間だ」
 そしてウフコックは続けたのだった。
「君はね、オクトーバー一族の手で作られた人造人間だ。君の体は、あのクリニックで受けた手術で完全に作り替えられている。君は、オクトーバー一族の手で作られた人造人間なんだ」
「人造人間?」
 りりこが言うと、バロットが言った。
「あなたはね、和智久子の人体実験によって、人工的に作り出された存在なのよ」
 するとりりこは立ち上がって言った。
「そんなはずないわ! 私は人間だもの! そんなはずはないわ!」
 ウフコックは言った。
「君が普通の人間として生まれたという記憶はね、全てオクトーバー一族の手で作られたものだ。君はね、和智久子の人体実験によって作り出された人造人間なんだ」
「私は人間だわ!」
 りりこが叫ぶとウフコックは言った。
「君はオクトーバー一族によって作られた人造人間だ。そして、オクトーバー一族はね、君の体を改造して、その能力を使って何か悪事を働こうとしているんだ」
 するとバロットが言った。
「あなたの体はね、ボイルドの恋人だったナタリア・ネイルズという女性の体内にあったのと同じウィルスで作り変えられているの」
 そして彼女はさらに言った。
「オクトーバー一族があなたを利用するのは、この国を乗っ取るための道具としてなのよ」

 民自党政権は、オクトーバー一族の当主であるノーマ・オクトーバーの傀儡だった。彼女は、彼女の父親である故グッドフェロウ・オクトーバーが殺害された事件を機に政権を奪取した。そして民自党はオクトーバー一族の支配下に置かれた。しかし、民自党の実権を掌握したノーマ・オクトーバーは、八王の乱と呼ばれる国内の内乱を鎮圧し、さらに南部軍閥の反乱を鎮圧するためにクーデターを起こしたのだった。
 週刊文潮の記者姫野優作は、オクトーバー一族に潜入し、オクトーバー一族と民自党政権がどのような関係にあるのか調べていた。彼はステイゴールド血盟軍と取引して、オクトーバー一族の元締めである田辺宗平大臣と接触することができた。
 だが姫野は、ステイゴールド血盟軍が田辺宗平大臣の〈後ろ盾〉として存在することを知らなかった……。
「私はね、ステイゴールド血盟軍のリーダーなんだよ」
 姫野はそう言ったのだった……。

「りりこ」こと比留駒はるこは、ノーマ・オクトーバーと対峙している。彼女は全ての黒幕であるノーマを倒すために、ステイゴールド血盟軍を裏切ったのだ。
 そして今、目の前には仮面のような顔をした金髪緑眼の女がいる。ノーマ・オクトーバー、彼女はオクトーバー一族の現当主であり、八王の乱で民自党政権を崩壊させた女傑なのだ。
「お前が全ての元凶」
 りりこは懐から拳銃を取り出した。そしてノーマ・オクトーバーに向けて言ったのだった。
「お前を倒して、私は自由になる」
 するとノーマが言った。
「あなたこそ元凶よ」
 そして彼女は続けたのだった……。
「あなたがいなければ、私は八王の乱を起こさずに済んだのよ!」
 りりこが拳銃の引き金を引くと、乾いた銃声が部屋中に響き渡った……。

「りりこ!」
 姫野優作は麻田誠と共に、りりこが収容されている特別拘置所を訪れた。彼はステイゴールド血盟軍のリーダーである姫野に、オクトーバー一族との取引を提案しにきたのだった。
「ノーマ・オクトーバーは死んだ。彼女は、董卓軍によって暗殺されたんだ」
 姫野の言葉に、誠は動揺した。
「何だって?」
 そして彼は言った。
「董卓軍は、オクトーバー一族の血盟軍の部隊だ。オクトーバー一族は、董卓軍を使ってノーマを暗殺したんだ」
「じゃあ、ノーマ・オクトーバーが死んで、オクトーバー一族は壊滅したのか?」
「いや、そうじゃない。確かにオクトーバー一族はノーマ・オクトーバーが死んで解散した。でも、それと同時に新たな血盟軍が結成されたんだ」
「新たな血盟軍?」
 姫野は言ったのだった。
「それがステイゴールド血盟軍だ」
 そして彼は続けたのだった。
「ステイゴールド血盟軍はね、民自党政権と取引して、八王の乱の首謀者であるノーマ・オクトーバーを暗殺した。そして民自党政権は、ステイゴールド血盟軍との約束通り、ノーマ・オクトーバーを暗殺した人物として田辺宗平大臣を指名したんだ」
 誠は驚いた。
「それは本当なのか?」
 姫野は頷いた。
「間違いないよ。俺はね、ステイゴールド血盟軍のエージェントと接触したんだ」
 そして彼は言ったのだった。
「これで分かっただろ? オクトーバー一族が八王の乱の首謀者であるノーマ・オクトーバーを暗殺した。そして民自党政権と取引して、ノーマ・オクトーバーを暗殺した田辺宗平大臣を血盟軍のエージェントに指名したんだ。これでステイゴールド血盟軍が八王の乱の首謀者であるノーマ・オクトーバーと、その一族を殺したことになる」
 すると誠が言った。
「じゃあ、ステイゴールド血盟軍のリーダーは誰なんだ?」
 姫野は言った。
「この記事を読んでいるあなただ」

『マルドゥック・ヘルタースケルター』(完結)

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