同窓会スピンオフ・幸せに手を伸ばせない

 事件があってから、俺に連絡を取ってくる友人は減った。友人の多くがあの事件で亡くなってしまったからだ。生き残った奴らのほとんどは宮本早苗の友人だ。早苗が失踪する原因を作った俺に、優しくしてくれという方がわがままだろう。
 早苗はあの日、どうして俺を助けてくれたのだろう。俺が戸田のストラップを壊し、その罪は早苗に着せられた。それがきっかけでいじめがエスカレートし、早苗は失踪した…。失踪や今回の事件の直接の原因はいじめだが、それを誘発したのは俺だ。彼女は俺をものすごく恨んでいたはずだ。俺が早苗の立場なら、例え謝られたとしても許さない。あのまま殺されていたとしても文句は言えない。
『もしかしたら、俺を苦しませるためにわざと助けた?』
 事件から一ヶ月が過ぎ、ショックからほんの少し解放されたとき、そう考えた。いじめっ子や先生は死んで、事件のきっかけを作った俺は生きている。俺も死ぬべきだったんじゃないか、と思うと息苦しくなった。そして、ふと思い当たったのだ。俺に一生罪を背負わせるために、俺を生き残らせたんじゃないかって。死ぬのは一瞬だ。きっと、罪や責任感を覚えたまま生きていく方が苦しいはずだ。だから、俺だけは…。
 事件直後は、友人を失ったショックと早苗を苦しめていたという罪悪感で自殺も考えた。だけど、やっぱり死ぬのは怖くて死ねなかった。もし早苗が俺を苦しめるために助けたのなら、それを受け入れよう。罪悪感を抱えながらも、生きて行こうと強く思った。
 眠れない日々が続いていたが、最近やっと眠れるようになった。途切れ途切れの夢を見るせいで、快眠とまでは言えないが、事件直後に比べればマシだ。夢の中で俺は、真奈に告白していた。告白は成功し、俺と真奈はみんなに冷やかされている。俺は幸せを噛みしめていて…、いつもそこで目が覚める。
 ストラップを壊したのは戸田に振られたのが原因だ。しかし、ストラップを壊されて泣きわめき、周りにつらく当たっている戸田を見て、急激に気持ちは冷めていった。
 戸田を嫌いになった俺が次に好きになったのは、黛真奈だった。気配りができるところと優しい笑顔が好きだったのだ。暇さえあればそっと目で追ってしまっていた。しかし、真奈は矢坂先生のことが好きだったようだ。真奈はいつも優しい顔をしていたが、先生を見るときの顔はなんというか、甘く楽しそうな顔をしていた。きっと俺が真奈を見るときも、同じような顔をしていたに違いない。結局俺は、真奈に告白することも、アピールすることもなく卒業を迎えたのだった。
 携帯を手に取る。真奈と話したい、という思いが沸き上がってきて苦笑いした。自らが企画した同窓会で友人が殺人犯となり、好きだった先生は友人を追いこんだ張本人だとわかった。きっと真奈も辛いだろう。今彼女を慰めれば、もしかしたら…という考えを捨てきれない。でもだめだ。それじゃあまるで、弱みに付け込むみたいだ。早苗が起こした事件を利用する形にもなってしまうし。
 携帯をテーブルに置いた。真奈には連絡をしないことにした。俺は幸せになってはいけない。俺だけ生き残って幸せになるなんて許されないんだ。きっとこれが、早苗が俺に与えた罰なのだろう。

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