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輿

友人と外で遊ぶ。
楽しいが、立っているのがしんどくなってくる。
いますぐ座りたい。いやそれでは足りない、いますぐ横になりたい。

そんなとき、口からついつい
「ハアハア…こ…輿じゃ、輿をもてぃ……」
などと零れ出る。

友人達は、「そんなものはない」「貴族か?」「この山道はかつての天皇ですら徒歩で超えられたところだが?お前は…なんだ?」などと口々に言う。

突拍子もない発言だから、冗談としか思えないだろうーーーだが、これは私にとって冗談でもなんでもない。
「身体は限界だが、心はここに居たい。両立を可能にする手段が欲しい」という切実な魂の叫びである。

しかし、そこに輿はない。私のために働いてくれる人足もいない。
また、たとえ偶然両方がそこに揃っていたとしても、金銭的事情から利用することはないだろう。

すべての願いを叶える幻想としての輿。
それを頭の片隅に住まわせながら、今日も私は立ち、歩く。

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