秋斗秀菓

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透明人間の町

映画館は好きだ。 互いに見ることも見られることもなく、しかし、存在をぼんやりと感じ取れる。 同じ理由で夜も良い。 ただし、すれ違う人の存在だけがそこにあり、人格や刺激のやりとりはないものに限る。たとえ人ならざるものであったとしても、そのルールの上であれば、僕は喜んで受け入れるだろう。 エンドロールが終わり、辺りが明るくなる。 映画館を出た後、適当なカフェに立ち寄ってコーヒーを飲みながら映画の半券を手帳に貼る。 これは子供の頃からの習慣だ。別に確固たる信念があるわけではない

    • 人工感情

      第1話 Run歯車はその目に涙を浮かべたり、泣き叫んだりしない。恐らく苦悩を抱えることもない。乾いた段ボールや緩衝材の擦れる音がガサガサと話しかけてくるこの職場で、ゴウゴウと鳴る機械の一部に俺はなりたかった。小さな倉庫に置かれた荷物を淡々と箱に詰めて送り出すこの仕事は、感情を消したい俺に向いていた。 15年前の2047年、俺が11歳のとき、「大脳辺縁系の機能障害を抱えた患者に対する医療を目的とした大発明」として、とある発表があった。それは人間の感情が生成されるプロセスを機械

      • 僕がよく知る嘘について

        シズククイナは春の始めに見られる深緑色をした鳥である。その鳴き声は、ピアノの鍵盤に落ちた雫が音を奏でるように美しく、姿を現す時期とあわせて雪解けを知らせるようであることから別名"雪解け鳥"とも呼ばれる。 僕はその晩、借りているアパートから徒歩数十分の旅館に宿泊していた。その日は満月で、月の光を薄い雲が散乱し、月の周囲は極彩色に染められていた。 今は何時だろう。喉の渇きで目が覚め、軋む薄暗い廊下を共用の洗面台まで歩いて行くと、そこには人影があった。 「こんばんは。よく来た

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