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アウディが呼び起こす、雪道の記憶
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Audi S4 B5 2000
20世紀の話だ。
北海道出身の父はよく私を車に乗せ、スキーに連れて行った。
父の実家からスキー場のあるルスツまでの50kmの間で、子に冬の運転の仕方を教えた。
革張りのベンツだったと思うが、
行きの雪景色の峠では 後輪を滑らせてみせ、
パワースライドとカウンターステアとは何なのかを説明した。
子どもの私はその異次元の動きに目を輝かせた。
帰りの峠には他にも車がいて、派手な走りはしてくれないだろうとおとなしくなる私に、
父は 前を走る車種と挙動から、
雪に慣れたドライバーかどうか観察するように言った。
前車がスリップして事故を起こしたら、
自分はそれより速度を落とすのだそうだ。
助けなくていいんだ、と思った。
帰りつくと、言い忘れていた、と急に真顔になった。
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山は動物が出る。
だけどそれを避けようとハンドルを切ってはいけない。
完全に制御を失えば、その先には木や崖。オダブツだ。
獣にぶつかったら車は壊れるが、諦めろ。
いつか、車に乗るようになったら、雪道ではブレーキだけでなんとかすることを忘れるな。
ひどい人だ。
家族スキーで暴走し
事故を目撃したら通り過ぎ、
鹿が飛び出たら轢いてしまえ。
だが、父が亡くなってもなお私がその教訓を覚えており
命を落としていないので、
実践的で効果の高い教育だったといえる。
そのように育った私が ひどい人になったかどうかは、これを読む皆様に決めていただくことだ。
いささか不安なので、稲川がひどい人ではないと思う人はスキを押してほしい。
すっかり車と運転に興味をもった私だったが、
20世紀末も近づくころ、
"インゴルシュタットの最新兵器"
と評されるモデルがアウディからリリースされていたことに気がつくのは、
ずっと後のことである。
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(文・稲川大資)
こちらの記事は オート・ブルー・ユニオン のインスタグラム掲載記事を加筆修正したものを掲載しております。
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