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小説の世界が崩される瞬間、あいつの顔は綺麗さっぱり。

小説を読むのが、飲み会の後のラーメンぐらい好きである。

最近はNOTEやブログをちまちま小判鮫の気遣いのように書いているので、少しペースは落ちているが、それでも時間を秘宝のように見つけては読み漁っている。

1人の時に読んでいればいいのだけれど、ついつい続きが気になり、人前で読む時もある。

その時の僕は夢中である。

神経は研ぎ澄まされ、どんな達人でも、中国400年の歴史を背負った人間でも簡単に太刀打ちはできないだろう。

僕は本の世界の中に入る。

すると声が聞こえる。

「なんの本?」

知り合いが話しかけてくるので、僕は何の気なしにタイトルを答える。
まあ、気になるよね、タイトル。
評判の店のサイドメニューぐらい気になるよね。

ちょいと話をして、途切れそうなところを見計らいまた本の世界へと入る。

「本といえばさ」

…そうだね、話しかけた以上は話を続けたいよね。
こちらにも非があるような気がして、僕は話に花を咲かせる花咲か爺さんへと変貌する。

さよなら、本の世界。

とは言え、2人きりの会話は永遠を誓っているわけではないので、そこまで続くものではない。

…本の世界に戻るタイミングだ。
相手もスマホを見出している。
本の世界へカムトゥバック。

「最近物騒だよね」

…そうか、そうだね。
スマホ見たらニュースをまず見るよね。
なんか事件でもあったのかな?

一通り事件の見解をカズレーザーになりきり話す。
駄目だ、あんなに上手く話せない。
僕の髪は金髪でもないし、服は真っ赤でもない。

相手も飽きたのか、僕もそんなに話すこともなくなり沈黙タイム。
もう本はいいか、という諦念も湧いてきたのでいくつか話題を振りまくが、それにもやがて限界はくる。

人は結局一人きり。
みんなと一緒にいても1人の時間を求めてしまうものだ。

さすがにこれは本を読んでもいいだろう、というタイミングを察した僕は、本の世界にリライフ。

すると隣から最後地獄のうめきが聞こえる。

「美味しいもの食べたいね」

ああああああ!

読めないよ!

本を読んでいる人に向かって、なぜ大した話もないのに、ふりかけのように小刻みに話をふりまく?
嫌がらせなの?
そこにはどんな悪意があるの?

相手の顔を見ても、そこに悪意は見当たらあい。
綺麗さっぱり、お風呂上がりのような顔をしている。

僕はそっと本を畳んだ。

「美味しいもの食べたいね!」

力強くそう答えた。

グッバイ本の世界。

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