石井栄造

石井栄造

最近の記事

アナロジカル・アブダクション

社会科学系でここ数年、アナロジカル・アブダクションという思考法が盛り上がっているという噂を聞いて少し調べた。 まず、アブダクションは演繹・帰納という思考法に次ぐ第3の思考法という位置づけになる。 <演繹の復習> マーケティングの世界で演繹という思考法が使われるのは稀であろう。 演繹の例は「三角形の内閣の和は180度である(証明済みの定理)。この図形は三角形である(個別の事例)。この図形の内角の和は180度である(結論)」で示されるように飛躍もこじつけもなく結論にいたる思考法で

    • 読書メモ

      ネットワークアプローチはアナロジカル・アブダクションを使う 演繹、帰納に次ぐ第3の思考法。 あるドメインの知識をもとに、類推(アナロジー)を使って別ドメインの理解に役立てる方法論。鳥の群れの群れる仕組みの分析からうつ病の症状の関連性を分析する。 アブダクション、アナロジカルシンキングとも言う。 ネットワークモデルとは、多変量確率分布をネットワークという形で描写した統計構造のことを指す。ノードは変数を表し、ノード間のリンクは変数間の統計的関連を表す。 ここでの変数は抽象的実態

      • DAMAの遷移

        DAMAも他の消費者行動モデルと同様に線形に遷移する。遷移の中に多くのループがあるのが特徴である。 M:Memoryは習慣性依存症の様相を持ち、この特徴が最終的購入意思決定に大きく作用する。 <DAMAモデルの遷移は短い。逆伝播もある> AIDMAは、大量の広告宣伝、プロモーションで存在に気づかせ(Attention)、興味関心をもたせ(Interest)、欲しい(Desire)と思わせるまで繰り返し広告して、記憶に刻みつけ(Memory)て最終的に買わせる(Action)と

        • 注意機構と記憶

          記述的消費者行動モデルはAttentionで始まってActionで終わるモデルが多い。 Actionは購入でシンプルだが、Attentionは発見、気づき、知る、など感覚情報と注意、注目など認知機構にまたがる複雑性がある。 <注意機構にはボトムアップとトップダウンの2つがある> ふらっとコンビニに入って棚を見ていたら「オッこれ見たことないやつだな」と新製品を見つけるのはボトムアップ注意機構で、喉が乾いたので炭酸飲料を探しにコンビニに入っていつものcokeを見つけるのはトップダ

        アナロジカル・アブダクション

          記憶のダイナミックス性

          前回、習慣性依存症:正のアディクション概念から、新製品ではない既存品の消費者行動モデルDAMAを提案した。 今回は、DAMAモデルのM:Memoryの特徴について述べる。 <消費者行動モデルの記憶:Memoryとは> 富澤先生によるとAIDMAはいつ誰が言い出したかわからない謎の名称らしく、起源がはっきりたどれるのはAIDAらしい。*富澤のnote参照https://note.com/tomizawa/ AIDAにM:Memoryが挟まれた経緯について、エビデンスはないが、テ

          記憶のダイナミックス性

          DAMAサイクル

          以前、依存症(アディクション)をヘビーユーザー、ロイヤルユーザーのユーザーセグメントとの関係で取り上げた。 これを一歩進めて、既存ブランドのブランディングは習慣性依存症:正のアディクションである「DAMAサイクル」で達成されるとの仮説を提案する。 <精神疾患ではない「正のアディクション」を想定する> 水原一平さんのギャンブル依存症は精神疾患と言える。 アディクション(依存症)の定義「身体や心によくない、社会的に問題であるとわかっていながら使用・摂取を止められない行動」にピッタ

          感情史はトレンド

          ユネスコの無形文化遺産に和食が登録されて以後も「今の食生活を続けると。。」という恐怖マーケティングはなくならない。各時代、食生活、食品市場に独特の感情・気分の流れがある。それを筆者の記憶で振り返る。 <食糧難から解放され不足分を補う商品> 食糧難の時代の体験はないが子供の頃の食生活は貧しかった。当時、政府の目標も庶民の要求もとりあえず腹いっぱい食わせろだった。 筆者が調査会社で食品市場にかかわった当初は「タンパク質が足りない」「ビタミンが足りない」という感情訴求がされ、「マミ

          感情史はトレンド

          利他の心

          マーケティングは経済学の合理的経済人を典型的消費者像として流用している。 合理的経済人は利己的に行動する特徴を持つ。我々は、消費者も利己的に行動すると考えて分析している。 <利己的経済人、利己的消費行動> 経済行動の全ての分野で、常に自己の利益・利得を最大化することを唯一の目的に、情報収集、比較・検討、意思決定・行動する利己的な人が合理的経済人である。消費行動では広く情報収集し、ブランドを比較検討し、価格とのバランスが最も良いブランドを選択し、購入する利己的行動をする。これを

          「大企業」は感情語

          情動マーケティングと感情マーケティングの区別がはっきりしない状態だが、今回は感情マーケティングについて。 消費者の「大企業」に対する感情の変遷と現在を分析的に述べる。 残念だがエビデンスは私の体験のみ。 <大企業は戦後生み出された> 戦前・戦中は大企業という呼び方は消費者の中になかったようである。 終戦までは、私企業より強大な軍隊や官僚機構が経済を支配し、消費者行動も規定するマーケティング以前の社会である。 敗戦によってこれらの頚城が外れ、ソ連でなくアメリカ支配下に入ったため

          「大企業」は感情語

          恐怖マーケティング

          前回、情動マーケティングを「幸福」を起点とし「幸福感」を到達点とする作用のスパイラルと規定した。 これは正しい。だが、マーケティングの即物的期待値である売上、利益の最大化への貢献が低いのも事実である。 <幸福情動は新たな行動を起動させるより、それまでの状態を維持させる方向に働きやすい> ここ数日、自分のX(Twitter)でCS調査と売上の関係が話題になった。 顧客満足調査で高得点のブランドはそれに満足し、幸福感を感じているユーザーが多いのだから、次回のブランド選択時も同じブ

          恐怖マーケティング

          「幸福」情動起点のマーケティング

          認知と消費者行動の分析だけでなく情動・感情と消費者行動の関係を分析したい。 情動マーケティングは「幸福」情動を起点とし「幸福感」を到達点とする運動の繰り返しである。 <認知から行動が起動されるだけでなく、情動が行動を起動し、認知に至るルートもある> ブランド知名(知っているブランド)やブランドイメージ(好きなブランドとその理由)の調査は生活者の認知を測定している。 購入意向さえ、行動そのものではなく、「こうするだろう、してもいい」との現時点の認知状況からの将来の行動予測を聞い

          ¥300

          「幸福」情動起点のマーケティング

          感情マーケティング

          AIDMAにしろAISASにしろ消費者行動モデルのゴールはAction(購入)である。モデルのほとんどはAttentionからActionまで線形を想定している。 <購入行動の感情> フラッと入ったコンビニの棚で「見たこともない」新製品に目が止まり買ってしまうと言うことは確かにありうることだが、通常、マーケティングは「知られてないものは買われない」を前提としている。 製品・ブランド名を認知し、興味関心を持ってネット検索したりして、欲しい気持ちが高まり、店かネットで買う、買って

          ¥300

          感情マーケティング

          脳に働く乳酸菌

          夏が暑いので少し荒唐無稽なことを。自分は、普段は人の作ったコンセプトやストーリーを消費者の口を借りて評価・批判しているわけだが、今回はどこから依頼されてもないのに標題のテーマでストーリーを作る。 <乳酸菌飲料のコンセプト史> 乳酸菌飲料のパイオニアはヤクルトで間違いない。 シロタ株の開発から研究を継続して乳酸菌飲料のトップブランドとして君臨し続けている。 乳酸菌飲料のストーリーは「腸内菌叢を整え活性化させる」ことで下痢や便秘対策として始まった。その後、腸内菌叢の研究が進んで、

          ¥300

          脳に働く乳酸菌

          ¥300

          関与度と情報感度

          マーケティングリサーチにあたって、製品ジャンルごとに違う対象者のジャンル関与度とジャンル情報感度を探ることは大切である。 関与度と情報感度はジャンルごと、対象者ごとに分散している。 <関与度と情報感度> 価値判断はともかく、我々の生活のほぼすべての分野で商品化が進んでいると言える。 つまり、生活全般がマーケティング、マーケティングリサーチの対象になり得る世界が現れている。 実際のリサーチ企画では対象分野を限定し定義してからスタートする。 例えばビールの調査であれば「家庭で消費

          ¥300

          関与度と情報感度

          ¥300

          定性調査のイノベーション

          定性調査つまり、インタビュー、行動観察の方法論にイノベーションは起きていない。 それどころか、確立された方法論もあるのかないのかはっきりしない。 そこで、定性調査の本質とは何かを考えつつ、方法論の革新をめざす。 もちろん、マーケティング施策への適応を前提に空理空論を回避する。 <定性調査カレッジ夏期講座開催> 日時:2024年8月19日(月)10:00から17:00 場所:青山近辺の会議室 受講料:33000円(2人目からは22000円) 問い合わせ・申込み:auraebis

          定性調査のイノベーション

          コンセプトシート

          FGIなど調査で使うコンセプトシートは社内向けコンセプトをアレンジ、編集したものになる。社内コンセプトをそのまま調査で使うと混乱を招き、正当なコンセプトチェックはできなくなる。 通常は製品コンセプト開発の前に戦略シート的なものがある。コンセプト開発はその戦略に沿って行われる。製品コンセプトをトップを含めたプロジェクトメンバーの意思統一と速やかな実行のために作成される。プロジェクタ進むと想定ターゲットにコンセプト評価をしてもらう調査が実施される。 このコンセプト受容性調査にかけ

          コンセプトシート