石井栄造

石井栄造

最近の記事

感情史はトレンド

ユネスコの無形文化遺産に和食が登録されて以後も「今の食生活を続けると。。」という恐怖マーケティングはなくならない。各時代、食生活、食品市場に独特の感情・気分の流れがある。それを筆者の記憶で振り返る。 <食糧難から解放され不足分を補う商品> 食糧難の時代の体験はないが子供の頃の食生活は貧しかった。当時、政府の目標も庶民の要求もとりあえず腹いっぱい食わせろだった。 筆者が調査会社で食品市場にかかわった当初は「タンパク質が足りない」「ビタミンが足りない」という感情訴求がされ、「マミ

    • 利他の心

      マーケティングは経済学の合理的経済人を典型的消費者像として流用している。 合理的経済人は利己的に行動する特徴を持つ。我々は、消費者も利己的に行動すると考えて分析している。 <利己的経済人、利己的消費行動> 経済行動の全ての分野で、常に自己の利益・利得を最大化することを唯一の目的に、情報収集、比較・検討、意思決定・行動する利己的な人が合理的経済人である。消費行動では広く情報収集し、ブランドを比較検討し、価格とのバランスが最も良いブランドを選択し、購入する利己的行動をする。これを

      • 「大企業」は感情語

        情動マーケティングと感情マーケティングの区別がはっきりしない状態だが、今回は感情マーケティングについて。 消費者の「大企業」に対する感情の変遷と現在を分析的に述べる。 残念だがエビデンスは私の体験のみ。 <大企業は戦後生み出された> 戦前・戦中は大企業という呼び方は消費者の中になかったようである。 終戦までは、私企業より強大な軍隊や官僚機構が経済を支配し、消費者行動も規定するマーケティング以前の社会である。 敗戦によってこれらの頚城が外れ、ソ連でなくアメリカ支配下に入ったため

        • 恐怖マーケティング

          前回、情動マーケティングを「幸福」を起点とし「幸福感」を到達点とする作用のスパイラルと規定した。 これは正しい。だが、マーケティングの即物的期待値である売上、利益の最大化への貢献が低いのも事実である。 <幸福情動は新たな行動を起動させるより、それまでの状態を維持させる方向に働きやすい> ここ数日、自分のX(Twitter)でCS調査と売上の関係が話題になった。 顧客満足調査で高得点のブランドはそれに満足し、幸福感を感じているユーザーが多いのだから、次回のブランド選択時も同じブ

        感情史はトレンド

          「幸福」情動起点のマーケティング

          認知と消費者行動の分析だけでなく情動・感情と消費者行動の関係を分析したい。 情動マーケティングは「幸福」情動を起点とし「幸福感」を到達点とする運動の繰り返しである。 <認知から行動が起動されるだけでなく、情動が行動を起動し、認知に至るルートもある> ブランド知名(知っているブランド)やブランドイメージ(好きなブランドとその理由)の調査は生活者の認知を測定している。 購入意向さえ、行動そのものではなく、「こうするだろう、してもいい」との現時点の認知状況からの将来の行動予測を聞い

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          「幸福」情動起点のマーケティング

          感情マーケティング

          AIDMAにしろAISASにしろ消費者行動モデルのゴールはAction(購入)である。モデルのほとんどはAttentionからActionまで線形を想定している。 <購入行動の感情> フラッと入ったコンビニの棚で「見たこともない」新製品に目が止まり買ってしまうと言うことは確かにありうることだが、通常、マーケティングは「知られてないものは買われない」を前提としている。 製品・ブランド名を認知し、興味関心を持ってネット検索したりして、欲しい気持ちが高まり、店かネットで買う、買って

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          感情マーケティング

          脳に働く乳酸菌

          夏が暑いので少し荒唐無稽なことを。自分は、普段は人の作ったコンセプトやストーリーを消費者の口を借りて評価・批判しているわけだが、今回はどこから依頼されてもないのに標題のテーマでストーリーを作る。 <乳酸菌飲料のコンセプト史> 乳酸菌飲料のパイオニアはヤクルトで間違いない。 シロタ株の開発から研究を継続して乳酸菌飲料のトップブランドとして君臨し続けている。 乳酸菌飲料のストーリーは「腸内菌叢を整え活性化させる」ことで下痢や便秘対策として始まった。その後、腸内菌叢の研究が進んで、

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          関与度と情報感度

          マーケティングリサーチにあたって、製品ジャンルごとに違う対象者のジャンル関与度とジャンル情報感度を探ることは大切である。 関与度と情報感度はジャンルごと、対象者ごとに分散している。 <関与度と情報感度> 価値判断はともかく、我々の生活のほぼすべての分野で商品化が進んでいると言える。 つまり、生活全般がマーケティング、マーケティングリサーチの対象になり得る世界が現れている。 実際のリサーチ企画では対象分野を限定し定義してからスタートする。 例えばビールの調査であれば「家庭で消費

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          定性調査のイノベーション

          定性調査つまり、インタビュー、行動観察の方法論にイノベーションは起きていない。 それどころか、確立された方法論もあるのかないのかはっきりしない。 そこで、定性調査の本質とは何かを考えつつ、方法論の革新をめざす。 もちろん、マーケティング施策への適応を前提に空理空論を回避する。 <定性調査カレッジ夏期講座開催> 日時:2024年8月19日(月)10:00から17:00 場所:青山近辺の会議室 受講料:33000円(2人目からは22000円) 問い合わせ・申込み:auraebis

          定性調査のイノベーション

          コンセプトシート

          FGIなど調査で使うコンセプトシートは社内向けコンセプトをアレンジ、編集したものになる。社内コンセプトをそのまま調査で使うと混乱を招き、正当なコンセプトチェックはできなくなる。 通常は製品コンセプト開発の前に戦略シート的なものがある。コンセプト開発はその戦略に沿って行われる。製品コンセプトをトップを含めたプロジェクトメンバーの意思統一と速やかな実行のために作成される。プロジェクタ進むと想定ターゲットにコンセプト評価をしてもらう調査が実施される。 このコンセプト受容性調査にかけ

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          コンセプト評価の話法

          グループインタビューのテーマは新製品のコンセプト評価がもっとも多いのではないか。 この世にまだない商品・サービスのコンセプトを文章で表現したものを提示して「買ってみたいか」まで聞き出すのだからある意味無謀な作業である。 <コンセプトシートは無言で呈示する> FGI(グループインタビュー)でコンセプトシートを提示するときは、モデレーターは無言か「どう?」くらいの発言促しに徹する。 間違っても「好きですか?嫌いですか?」などの評価を聞いてはいけない。 黙って提示し、しばらく時間を

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          コンセプト評価の話法

          マーケティングの生態系

          市場をひとつの生態系と考える。それはいくつかの生態系の重なり合いになる。海の生態系と陸の生態系はほぼ分離できるが、平原の生態系と山岳の生態系は重なり合う部分が多い。 生態系のメンバーはドメインを作り、ニッチ戦略を取り、レジリエンスによって進化していく。進化とは生き残り戦略である。 この生態系概念でマーケティング分析を行う。 <生態系と市場> 生態系概念は進化論と親和性が高い。ダーウィン自身は言ってないらしいが「適者生存」という考えがあり、「生き残った者が正しい。変化できた者が

          マーケティングの生態系

          ドメイン知識

          「データサイエンスを現実に適応するとき、ドメイン知識の不足から分析が『絵に描いた餅』になりやすい」というデータサイエンティストの嘆きを聞くことがある。切れる包丁を持っても魚の知識がないと三枚におろすこともできない。 <ドメイン知識って何?> ドメイン知識なしで分析し、提案を出すなどは普通、考えられないが、ネットや機械計測で自動的に大量データが収集されてしまい、そもそもの手法が、与えられたデータの中からある関係性、構造、仮説をみつけようとするものなので、データサイエンティストは

          ドメイン知識

          アイトラの違和感

          マーケティングリサーチでアイトラッキングを体験したリサーチャーは多いはず。 普段の調査では見ることのないヒートマップやゲーズプロットで新鮮な昂奮を味わうが、分析・解釈の段階で詰んでアイトラを放棄する?ことが多い。 <アイトラデータは納得的ではない> アイトラッキングのデータを扱うと、このデータはネットリサーチの集計データのようにそのまま使って分析・解釈するできないことに気づく。 それがわかった後はアイトラには必ずインタビューをセットにするようにしている。アイトラデータを取った

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          アイトラの違和感

          モデレーター話法Ⅱ

          マーケティングインタビューは日常の会話や面談とは違う話法を使う。 日常会話や面談は「質問⇔返答」のスパイラルで成り立つが、モデレーター話法はそれとは違ったダイナミックスを持っている。 一般的なマーケティングインタビューは、認知、行動、評価、信念・習慣を明らかにする。それぞれの項目別にモデレーター話法を述べる。 <認知はマーケティングでは2つの意味内容で使い分けている> 認知というコトバは2つに分けられる。 ひとつは意識・態度に近い使い方で「健康に関する認知」などの使い方をされ

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          モデレーター話法Ⅱ

          自己紹介はいらない

          前回はイントロダクションのやり方を述べた。そのときモデレーターの自己紹介に少しふれた。 今回は対象者の自己紹介を考える。FGIではほぼ自動的に自己紹介をするが、これの期待効果は何か。 <FGIの対象者同士の自己紹介はいらないと言われた> イントロダクションの最後に「皆さん、始めて顔をあわせた方たちですのでお一人づつ簡単な自己紹介をお願いします」と進めるのがFGIの常識、慣習になっている。 一度だけ外資のクライアントから「自己紹介など無駄な時間。自己紹介なしで本題に入れ」と要求

          自己紹介はいらない