石井栄造

石井栄造

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インフルエンサーよりシステム3

ダニエル・カーネマンのシステム1、2を「記号創発システム論」でシステム0とシステム3にまで発展させた。 マーケティングに即してシステム0を外部環境、システム3を外部(市場)のトレンド、ブームと読み替えて考える。 <システム0はインフラ> カーネマンのシステム1、2は個人の意思決定での二重過程理論であり、心理学である。消費者行動論も心理学を起点にして、市場にまで広げることで心理学からマーケティング論になっている。 B2Cのマーケティングで考えると、市場(社会システム)は外部であ

    • カーネマンのシステム3

      ダニエル・カーネマンは人の意思決定に2つのタイプがあり、素早い意思決定をシステム1とし、熟考する遅い意思決定をシステム2とした。そこに最近、AIロボティクスの世界から、1と2だけでなく、システム0、システム3もあるとの仮説が提案された。(『記号創発システム論』 谷口忠大 編 ) <システム1、システム2のおさらい> カーネマンの定義にこだわらず(というかはっきりと定義していない)システム1の意思決定の特徴をみると「直感的、感覚的で早い」意思決定になる。意思決定に感情・情動のウ

      • 読書メモ4

        『記号創発システム論』 谷口忠大 編 認知システムの動態=AIやロボットが自らの知覚に接地させながら言語を学習する。←これは個人、個体の動態 集団の中で言語がどう形成され、どのように意味や使用が変わって行くかという動態。つまり、社会システムにおける動態。そのアプローチとして、マルチエージェント強化学習MARL、繰り返し学習モデルILM、創発コミュニケーション、記号創発システムの確率的生成モデルの4つがある。 確率的生成モデルに基づく個体のエージェントの内的表象形成のモデル

        • 発話・パロールの創造性

          ヒトは火を扱う、言語を駆使することで他の生物種に対する優位を獲得したことは間違いない。 言語の起源については歌(うなり)や踊り(ダンス)、ジェスチャー、毛づくろい・噂話などいろいろな説が提案されている。最近、LLMによって言語(文章)生成能力がヒト固有でなく、単なる統計的確率で置き換えられるというショッキングなできごとがあり、それまでの有力理論の生成文法論(チョムスキー)も影が薄くなった。 言語使用をドライブしたのはコミュニケーション機能なのはまちがいない。発話・発声、つまり

          モデレーションの身体性

          モデレーターの身体性を考えた。市場調査だけでなくコンピュータの普及で調査主体の「身体性」が抜け落ちる現象がある。 効率化はよいことだが、定性(インタビュー)ではデータ収集においてモデレーターの「身体性」が重要な役割をはたしている。 <統計は人類には早すぎる> データサイエンスや統計学のアカデミアの人が時々、「人類は統計を理解してないし、理解できないのでは」とつぶやくが、自分のような一般人でもなんとなく理解できる。市場調査ではあまり使わないが「帰無仮説」という概念がある。仕組み

          モデレーションの身体性

          読書メモ

          『文化はいかに情動をつくるのか』以下引用 アメリカでは、人々はできる限りお互いを褒め合い、認め合う。この態度も、誰も他の人々より快適に感じたり巧妙に立ち回ったりすべきではないと考えるオランダ人とはきわめて異なる。 オランダでは、誰よりもよく振る舞うことも悪く振る舞うこともあってはならない。私の母は、衆目を集めかねない私の行為を見れば「普通にしててもじゅうぶん目立っているのに」と諭したものだ。誰も目立ってはならなかったのだ。私が成長期のころ、私のことをかわいいと思うか母にたず

          メタファープロービング

          モデレーションテクニックのうち、究極と言えるのがプロービングである。 プロービングはテーマを「深堀りして」、認知内容を「聞き出す」方法であり、定性調査・マーケティングインタビューの目的そのものに迫る方法である。 <深堀りと引っ掻き回し> どれくらいの人が買ったのかの%を確定するのが定量調査、買った理由(何故)を明らかにするのが定性調査という荒っぽい区分けを信じるとインタビューで「なぜこれを買った」「なぜ気に入った」というようなストレートなプロービングが行われる。 「なぜこれを

          メタファープロービング

          アナロジカル・アブダクション

          社会科学系でここ数年、アナロジカル・アブダクションという思考法が盛り上がっているという噂を聞いて少し調べた。 まず、アブダクションは演繹・帰納という思考法に次ぐ第3の思考法という位置づけになる。 <演繹の復習> マーケティングの世界で演繹という思考法が使われるのは稀であろう。 演繹の例は「三角形の内閣の和は180度である(証明済みの定理)。この図形は三角形である(個別の事例)。この図形の内角の和は180度である(結論)」で示されるように飛躍もこじつけもなく結論にいたる思考法で

          アナロジカル・アブダクション

          読書メモ

          ネットワークアプローチはアナロジカル・アブダクションを使う 演繹、帰納に次ぐ第3の思考法。 あるドメインの知識をもとに、類推(アナロジー)を使って別ドメインの理解に役立てる方法論。鳥の群れの群れる仕組みの分析からうつ病の症状の関連性を分析する。 アブダクション、アナロジカルシンキングとも言う。 ネットワークモデルとは、多変量確率分布をネットワークという形で描写した統計構造のことを指す。ノードは変数を表し、ノード間のリンクは変数間の統計的関連を表す。 ここでの変数は抽象的実態

          DAMAの遷移

          DAMAも他の消費者行動モデルと同様に線形に遷移する。遷移の中に多くのループがあるのが特徴である。 M:Memoryは習慣性依存症の様相を持ち、この特徴が最終的購入意思決定に大きく作用する。 <DAMAモデルの遷移は短い。逆伝播もある> AIDMAは、大量の広告宣伝、プロモーションで存在に気づかせ(Attention)、興味関心をもたせ(Interest)、欲しい(Desire)と思わせるまで繰り返し広告して、記憶に刻みつけ(Memory)て最終的に買わせる(Action)と

          注意機構と記憶

          記述的消費者行動モデルはAttentionで始まってActionで終わるモデルが多い。 Actionは購入でシンプルだが、Attentionは発見、気づき、知る、など感覚情報と注意、注目など認知機構にまたがる複雑性がある。 <注意機構にはボトムアップとトップダウンの2つがある> ふらっとコンビニに入って棚を見ていたら「オッこれ見たことないやつだな」と新製品を見つけるのはボトムアップ注意機構で、喉が乾いたので炭酸飲料を探しにコンビニに入っていつものcokeを見つけるのはトップダ

          注意機構と記憶

          記憶のダイナミックス性

          前回、習慣性依存症:正のアディクション概念から、新製品ではない既存品の消費者行動モデルDAMAを提案した。 今回は、DAMAモデルのM:Memoryの特徴について述べる。 <消費者行動モデルの記憶:Memoryとは> 富澤先生によるとAIDMAはいつ誰が言い出したかわからない謎の名称らしく、起源がはっきりたどれるのはAIDAらしい。*富澤のnote参照https://note.com/tomizawa/ AIDAにM:Memoryが挟まれた経緯について、エビデンスはないが、テ

          記憶のダイナミックス性

          DAMAサイクル

          以前、依存症(アディクション)をヘビーユーザー、ロイヤルユーザーのユーザーセグメントとの関係で取り上げた。 これを一歩進めて、既存ブランドのブランディングは習慣性依存症:正のアディクションである「DAMAサイクル」で達成されるとの仮説を提案する。 <精神疾患ではない「正のアディクション」を想定する> 水原一平さんのギャンブル依存症は精神疾患と言える。 アディクション(依存症)の定義「身体や心によくない、社会的に問題であるとわかっていながら使用・摂取を止められない行動」にピッタ

          感情史はトレンド

          ユネスコの無形文化遺産に和食が登録されて以後も「今の食生活を続けると。。」という恐怖マーケティングはなくならない。各時代、食生活、食品市場に独特の感情・気分の流れがある。それを筆者の記憶で振り返る。 <食糧難から解放され不足分を補う商品> 食糧難の時代の体験はないが子供の頃の食生活は貧しかった。当時、政府の目標も庶民の要求もとりあえず腹いっぱい食わせろだった。 筆者が調査会社で食品市場にかかわった当初は「タンパク質が足りない」「ビタミンが足りない」という感情訴求がされ、「マミ

          感情史はトレンド

          利他の心

          マーケティングは経済学の合理的経済人を典型的消費者像として流用している。 合理的経済人は利己的に行動する特徴を持つ。我々は、消費者も利己的に行動すると考えて分析している。 <利己的経済人、利己的消費行動> 経済行動の全ての分野で、常に自己の利益・利得を最大化することを唯一の目的に、情報収集、比較・検討、意思決定・行動する利己的な人が合理的経済人である。消費行動では広く情報収集し、ブランドを比較検討し、価格とのバランスが最も良いブランドを選択し、購入する利己的行動をする。これを

          「大企業」は感情語

          情動マーケティングと感情マーケティングの区別がはっきりしない状態だが、今回は感情マーケティングについて。 消費者の「大企業」に対する感情の変遷と現在を分析的に述べる。 残念だがエビデンスは私の体験のみ。 <大企業は戦後生み出された> 戦前・戦中は大企業という呼び方は消費者の中になかったようである。 終戦までは、私企業より強大な軍隊や官僚機構が経済を支配し、消費者行動も規定するマーケティング以前の社会である。 敗戦によってこれらの頚城が外れ、ソ連でなくアメリカ支配下に入ったため

          「大企業」は感情語