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フジ子・ヘミング                  「魂のことば」を読んで

フジ子・ヘミングの名前は知っていました。
有名なピアニストだから。

彼女のコンサートに行こうと思ったのも、ただそれだけの理由。
特にクラシックが好きなわけでもないし。
途中で寝てしまうかも、なんて思いながら行ったコンサート。

ところが、何曲目かを聞いていた時、はらはらと涙がこぼれてきました。
なぜだろう、泣けてきて涙が止まりません。
休憩時間には慌ててトイレに駆け込みました。
涙で顔がぐちゃぐちゃだったから。

それでも、後半の曲を聴いているとやはりまた涙がこぼれてきました。
彼女の弾くピアノが、きれいで、やさしくて、温かくて、
その音色に包まれていると、なんだかもういろんなことが大丈夫に思えてくるような、不思議な感覚でした。

一曲終わるごとに見せる彼女のほっとしたような、安堵とも満足ともつかない表情がとても素敵で、その表情にも魅せられてしまいました。

帰りの地下鉄では、彼女について少しでも知りたいと、スマホにかじりつき
そうして出会ったうちの一冊がこれです。

彼女の人生は波乱万丈です。その人生自体が壮大なドラマのよう。
ロシア系スウェーデン人の父と日本人の母の間に生まれたフジ子。
幼いころからピアノの才能を認められていました。
しかし18歳で国籍を失っていたために希望していたヨーロッパへの留学ができず、29歳でやっと難民としてドイツ留学を果たすも、貧しく苦しい生活を送ることになります。
そして、そこでやっとリサイタルのチャンスをつかんだ矢先、彼女は風邪で聴力を失ってしまうのです。
全てを失った彼女は失意の中、ストックホルムで耳の治療に専念する傍ら、音楽教師の仕事をし、ヨーロッパでほそぼそと演奏活動を続けます。
そんな彼女に転機が訪れたのは、彼女が母の死後日本に戻ってから。
母校である東京藝術大学などでコンサートをおこなったのが、テレビのドキュメント番組に取り上げられて話題になり、彼女のデビューCDは異例の売り上げを記録します。
そして、それがニューヨーク・カーネギーホールでのコンサートを始め、その後のフジ子の世界的な活躍につながり、今へと続いているのです。

彼女のそういった波乱万丈の人生については知識として知っていましたが、「本当にただ知っていただけなのだな」ということを、彼女の生の演奏を
聴いて身に染みて思いました。

本を読んで、彼女の言葉に触れて、彼女のピアノがなぜあんなにも心に響いたのか、ストンと腑に落ちた気がします。

彼女のピアノを聴いているとき、「一度は彼女から去って行った音楽の神様を、彼女は自分で呼び戻したのだ。」そう感じました。

そこに至るまでのひとつひとつの出来事の重み、そこで彼女が感じたこと、そういったものが、彼女のピアノを特別なものにしているのだと思います。

そんな彼女が紡いだ言葉だからこそ、温かく、時に厳しく、読んでいる人を励ましてくれます。

疲れた時やちょっと元気がないときに、適当にページを開いてみるのもいいかもしれません。
きっと自分を励ましたり、癒したりしてくれる言葉に出会えると思います。

●フジ子の絵が好きな方は、「ほんの少し、勇気をあげる」や「あなたに届
 けば」もお勧めです。
 ヨーロッパの絵本や雑誌を彷彿とさせるおしゃれな絵と、フジ子の言葉の
 両方が楽しめます。


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