アレンジの話⑤

前回までの記事でメロディとベースが確定しました。
普通はここからコード(和音)を決めていくと思います。

しかし、本技法ではその手順を踏みません。理由は
「対旋律・オブリガートが動きづらくなるから」です。

確かにコードが決まれば楽曲の雰囲気と流れが明確化し、
その後の作業が楽になるのは間違いありません。
が、その代償として主旋律以外の“印象的なフレーズ”を
随所に散りばめるのが難しくなるのです。
なぜなら“印象的なフレーズ”というのは
制約の少ない、自由な状態でこそ生まれやすいものだから。

※一般的で当たり障りのないサウンドを作りたい場合
 この辺りはまったく考慮しなくて大丈夫な内容です。
 以下、話半分でお読みください。

もうちょっと具体的に説明しますと、
メロディとベース以外の音って
「コードやスケールから外れた音」も含めて
吟味されるべきなのですね。

別にこれは音楽理論に対するアンチテーゼとかではなくて、
人の心に刺さる音って相対的に“尖っている”ことが多いのです。
で、一番わかりやすい尖りかたの例が
上述の「コードやスケールから外れた音」が入っていること。

人の耳って、先にコードを決めてしまうと
それ以降、そこにある世界観を前提として
編曲を進めてしまうものなんですよ。

よってメロディとベースしか確定していない
(=ギリギリ和音が成立していない)現段階でしか
他パートが自由に動けるタイミングって存在しないのです。
以上が本技法において先にコードを決めない理由。

さて、お次は“印象的なフレーズ”について掘り下げましょう。
お察しの通り、その正体こそが対旋律・オブリガートです。
(広義ではリフも含まれるかと思います)
彼らはメロディを引き立てるという重要な役割も兼ねており、
楽曲中に存在しているかどうかで
編曲のクオリティが大きく左右されます。
必ず吟味するようにしましょう。

この際のTIPSを挙げるなら、

1 パン設定L80・R80のトラックをそれぞれ作っておく
2 小節の出だしはメロディ・ベースと同じ音程を避ける
3 他の音が動いていない時は代わりに動く
4 ハモリと差別化するための音価(音の長さ)を意識する
5 常に“もうひとつのメロディ”を探る気持ちで
6 別の楽曲のフレーズを忍ばせる
7 何度も繰り返し聴いて吟味する

1はメロディとベースがセンター固定になっている前提です。
左右にパンを振ったトラックをそれぞれ用意し、
その中で対旋律・オブリガートの吟味をおこないます。
中央の音と分離しているためより自由な感覚で書けますし、
独立したフレーズを発想するのに役立ちます。
なお同時進行は避けて、まずは左、次は右と
順番に違うもの(パート)を書いてゆくようにしましょう。
ちなみにそれぞれのトラックで書く音程は1音のみです。
つまりこの段階を終えたら、メロディ・ベースと合わせて
4つの音、4つのパートが出来上がるかたちになりますね。

2は、実行すると必然的に楽曲中で
トライアド以上の和音が発生します。
でも、あくまでコードは確定させません。
小節の出だし以外は他の音と所々ユニゾンしてもいいですし
積極的にセブンス以降の音を通るのもアリ。
もちろん「コードやスケールから外れた音」も模索します。
結果として、内部的には(理論的には)分数コードや
ポリコード的なものが構築されてゆくかもしれませんが
それはあとで分析したときに把握できればよいので、
編曲中に意識する必要はありません。とことん感覚優先です。

3はベースアレンジのTIPSにて紹介したのと同じことなので割愛。
他が2分音符・全音符のときに果敢に動くイメージです。

4と5は表裏一体ですね。
“印象的なフレーズ”になるためにはハモリ(副旋律)でなく
オブリガート(対旋律)でなくてはならない、ということです。
ところでメロディが4分音符より短い音価で動いているところって、
3の観点でいくとかなり書きづらいですよね。
しかし、逆にそういう場面では対旋律側が
長めの音価を奏でてあげればいいのです。
そうすれば文字どおり“対”のような構成が生まれ、
お互いが上手く噛み合ったサウンドに近づけます。

6はアレンジのコンセプトにもよりますが、
例えば現在、とあるゲームの楽曲をアレンジ中だとして、
そのゲームで使われている別の楽曲から
サビのメロディを抜き出し、溶け込ませるといった手法です。
もしそれぞれの楽曲で調やコード進行が乖離しているなら
自然に溶け込ませるためには相応の知識が要求されますが
ここを感覚だけでいけちゃう人は、そっちのほうが最終的に
良い仕上がりになったりもします。

7は、コードが確定していない以上
この技法は編曲中 聴いているサウンドに対して
明確な音楽理論を適用することができない(感覚優先である)ため
その日のコンデイションなどによっては
すごいヘンテコなフレーズが生まれることもあります。
そういうのは日々作業してゆくなかで、
繰り返し聴きながら修正を加えるほかありません。
反面、もし素敵なフレーズが生まれてくれたときは、
そのフレーズを他の小節にも引用してみたり
音程や音価を調整してブラッシュアップを図ってみたり……
せっかくの武器をより“印象的なフレーズ”にできるよう、
修正ではなく研ぎ澄ませることに集中してください。

ただし、本技法においても
対旋律・オブリガートを書き終えたあと最終的には
コードが確定するタイミングがやってきます。
その際は理論的に「ここがおかしい」と
セルフで指摘できるようになりますので、
“感覚に頼らない微調整”も加えたうえで
楽曲を完成させてくださいね。

さて、次回の記事ではここからさらに
充実したアレンジをするためにはどうしたら良いのか。
そのTIPSを書いてゆく予定です。


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