ミックスってどうやったらいいの⑧

今回は2MIXにおけるTIPSをご紹介します。
(半分くらいはマスタリングにも相当する内容です)

まずは、パラミックスの終わっている
各トラックをDAW上ですべてバウンス
(オーディオ化・WAV化)してください。

これによりPC側の負担がほぼ0になり
以降の作業が格段にやりやすくなります。
さらにミックスダウンの出力時間も
大幅に短縮することができますので、
必ず実施するようにしましょう。

バウンスが終わりましたら、
最初に“仮”でインサートしていた
マスタートラックのプラグイン
(リミッター・マキシマイザー等)を
この段階でバイパス・削除します。

これで下準備は完了。

お次は、前回の記事でも登場しました
“VUメーター(ヘッドルーム12db設定)”を
キック/バスドラムに差しましょう。

そしてソロ再生をおこない、
VUメーターの針が-10dBuに触れるくらいになるまで
トラックゲインを調整します。

※VUメーターを持っていない場合は
 ピークメーター-12dbが目安です。

このとき、もしパラミックス時と比べて
ニュアンス変わりすぎかも?と感じたら
それはバウンス前のINレベルが適切でない
(音量が小さすぎる)という判断になります。

その際はいったんバウンスしたWAVを
MIDIデータに戻しまして、
「ミックスってどうやったらいいの②」で紹介した
音量調整のフェーズに立ち返ります。

音源側ないし、プラグイン内にて
大元のINの信号を上げましょう。
ちなみにプラグイン内で信号を上げるなら、
フェーダーとは別口でトラック音量を操作可能な
“トリム”と呼ばれるタイプのプラグインが
この作業に適していますので、ご参考までに。
(Studio Oneなら“Mixtool”が該当)

なお、INのレベルを変えますと当然
パラミックス時にインサートしていた
各種エフェクトの掛かりかたも
変化することになりますので、
改めて設定を見直してください。

以上の作業が完了しましたら
再びバウンスをおこない、無事VUの針が
-10dBuに触れるくらいになっているか
確認しましょう。

次に、ベーストラックでも
キックと同様の手順を踏みます。
まずマスタートラックにVUを差し、
キック+ベースを同時再生しましょう。

下記が目安の音量です。

VUメーター  =-7dBu
ピークメーター=-10db

問題なければ、次にスネアのミュートを解除。
スネアは上記のキック+ベース音量のピークに
影響を与えないくらいが理想です。

もしスネアを鳴らしたことで
メーターが-7dBu(-10db)を越えてしまったら、
スネア単体のゲインを下げるか
パラ段階のコンプ設定などを見直して対応します。

次はメロディトラックも同時再生します。
下記が目安の音量。

VUメーター  =-5dBu~-3dBu
ピークメーター=-8db~-6.5db

少し幅があるのは、楽曲の静かな部分と
盛り上がる部分でピークが異なるからですね。
サビが-3dBu(-6.5db)になる目安です。

さて、このあとは他のトラックも
順次解禁してゆく流れになります。
最終的に、すべてのトラックを同時再生した際は

VUメーター  =~ 0dBu
ピークメーター=~ -3db

が目安の音量となりますのでご参考ください。

ちなみに、上記の一連の作業は
“ゲインステージング”と呼ばれるものの一環です。

作業完了後、もし一部のトラックが埋もれて
聞こえづらくなってしまった場合は、
バウンス後のWAVに追加でエフェクトを差すのもアリです。
ただ、可能であればバウンス前に戻って微調整したほうが
やはりクオリティは高くなることが多いです。

さて、実はこれで2MIXの8割は完了しました。
ここからは“全体の処理”をおこなった後
マスタリングの本番へ入るかたちになりますが……
先に謝罪させていただきます。ごめんなさい。

といいますのも、これ以降のフェーズは
ある特定のプラグインを持っていないと
処理を真似ることができないから、ですね。

一応、どのような効果を付与しているのか
中身の部分も解説していきますけれども、
プラグインを持っていない場合は
再現性に欠ける情報かと存じますので
あらかじめご了承いただければ幸いです。

では最初に、
マスタートラックのVUメーターの後ろに
『Shadow Hills Mastering Compressor』
を差しましょう。

※このプラグインは検索の仕方によって
 超高額なプライスが出てきたりしますが
 PluginBoutiqueとかなら1万円台で買えるものです。
 (まあ、高いものと比べると一部の機能が
  ついてなかったりするみたいですが……
  当記事ではそれらの機能を使いませんので
  特に支障ございません。ご安心ください)

名前にマスタリングとついておりますが、
ここではあくまで「2MIXの仕上げ」を
目的として使用します。

まず最上段の左右にあるツマミ――
オプトコンプの機能ですが、これは
「プラグイン側が想定している効き方」
で固定されているため、使いません。
そばにあるレバーにて
オプト・ディスクリート・アウトと
選べるようになっていますので
ディスクリートを選んで
スレッショルドだけ2に変更しましたら
あとは初期設定のまま放置してください。

で、左下にあるディスクリートコンプが
今回の処理で使うメインの機能です。

このコンプ項目ではゲイン・スレッショルド
レシオ・アタック・リカバーの制御ができます。

処理する2MIX音源によって
最適な設定は異なりますが、
基本的にゲイン・アタック・リカバーは
デフォルト設定で問題ありません。

いっぽうレシオは2に変更して
弱く掛かるようにします。
スレッショルドに関しては
上部のリダクションメーターが
少し動く程度(-1に触れるくらい)を
目安に調整してみてください。

右下のツマミや中央部のパネルは
ノータッチでOKです。

このプラグインは聴覚上の効果が
結構わかりづらいかもしれません。
でもバイパスON・OFFを比較したとき
「あ、確かに変わってる!」と
まとまりが良くなったのを
体感することはできると思います。

実はそれもそのはずでして、
Shadow Hillsを差したあとの
マスタートラック音量は

VUメーター  =~ -3dBu
ピークメーター=-6.0db~-3.5db

と、このように下がっています。
つまりヘッドルームを確保しつつ
全体的なサウンドの調和を担ってくれる。
なのにニュアンスが崩れることもない……
そんな都合の良いプラグインなんですよね。

もしここで上記のマスタートラック音量に
なっていない場合は、スレッショルドを調整してください。

お次はShadow Hillsの後ろに
『Laidback Limiter』を差します。

これはマルチバンドタイプのリミッターで
帯域ごとのダイナミクスをコントロールしつつ
“クリッパー”の恩恵を受ける目的で使います。

クリッパーとは何ぞや?を語ると
非常に長くなってしまいますので、
今は「サウンドにパンチを与えるもの」と
解釈していただければ問題ありません。

このプラグインの使い方ですが、まず現時点で
1.超低音域 2.低音域 3.中音域 4.高音域のなかで
「ちょっと浮いてるなぁ」と感じる帯域があれば
そこを相対的にちょっとだけ弱める処理を、
逆に「ちょっと埋もれてるなぁ」と感じる帯域は
強めるような処理をしていきます。

たとえば 2.低音域 が浮いていて
4.高音域 が埋もれている場合は
各CLIPノブのすぐ上にあるGainを
それぞれ-1.5db、+1.5dbするとかですね。

そしてゲインのバランスが整いましたら
CLIPノブやアタックなどの設定もしていきます。
ここに関しては汎用の処理方法がございませんので、
帯域ごとのソロ試聴機能なども活用しつつ
ご自身の音源とマッチするよう調整してください。

ただし、CLIPノブは30%を超えますと
チリチリとしたノイズ成分が大きくなります。
少しくらいのノイズであれば
音楽的な成分の範疇なので無問題なんですが、
上げすぎはサウンドが破綻するので要注意。
~20%を目安に設定し、
全体的にメリハリが出ていればOKです。

右側の各項目につきましては
Multibandが100%、
アタック・リリースはAutoに設定。
Transients・Kneeは
自分が良いと思う数値に設定しましょう。

で、Boostは+3.5db~+4.0dbにし、
Ceilingを-0.1dbにしたら完了。
処理後のマスタートラック音量目安は

VUメーター  =+1dBuに振り切るくらい
ピークメーター=-1db

です。

ここまでの処理で、2MIX音源は

・全帯域の有機的な結合(まとまり感の向上)
・サビの迫力を上げつつ、他の部分の表現力を強化
・トランジェント(アタック感)の最適化

上記3つの点でブラッシュアップされています。

そして最後に登場するプラグインは
Tokyo Dawn Labsの
『Slick EQ Mastering』です。

これも名前にマスタリングとついていますが
やはり「2MIXの仕上げ」を目的に使います。

まずは画面中央上部のSmart Opsをクリックして、
左側に出るINPUTの横、“RE-LEARN”ボタンを押します。
※このとき楽曲のサビを再生するようにしてください。

解析が終わりましたら
REFERENCE横にある空のボックスをクリック。
そしてご自身が持っているリファレンス音源のなかで
今回の2MIX音源に最適だと思うものを選択して
読み込ませてください。

参考までに、私がよく使うリファレンスですが……
実は定番モノを完全に無視しておりまして

髭男dismの『Cry Baby』、
どうぶつビスケッツ×PPPの『ようこそジャパリパークへ』、
ゲーム メルルのアトリエのBGM『わたしの目線で見えるもの』

上記の3つを使い分けることがほとんどです。
(こうして見るとなかなかオタクでカオスなラインナップ)

どう使い分けているかといいますと

・現代サウンドの水準(インパクト)を得たいとき
・時代に左右されぬクリアなサウンドにしたいとき
・素材の味を活かした“心地よさ”を追求するとき

上から順にこんな感じでしょうか。
まあ、リファレンスは
相対的な良し悪しが把握できていれば
趣味全開でもいいんですよ(楽観)

閑話休題。

その後、OPERATION項目にて
“Match Reference”をおこない、
APPLYを押しましょう。これだけで
自動的に理想的なEQをしてくれます。

もし微調整したい場合は
元の画面に各種ツマミがありますので
ゆっくり吟味してみてください。

なお左下にある「LF MONO」や
その上の「LF EXCITE」「LOW CUT」なども
適宜併用するとベターです。

LF MONOは非常に低い帯域のモノラル化、
LF EXCITEは指定帯域のサチュレーション、
LOW CUTは超低音域のブラッシュアップに使えます。
右側のHF系も対象が高音域になるだけで
使い方はまったく同じです。

また中央にある「Brightness」「Hardness」
「EL Curve」も、オン・オフで比較して
より好ましい音作りのオトモにしてください。

そして処理後のマスタートラック音量目安は

VUメーター  =0dBu
ピークメーター=-1db

です。

Slick EQ Masteringを使う上で重要なのは
かけたときに「あ~いい感じだなぁ」と
この段階ですでに自画自賛できるような音に
仕上がっているかどうか、です。

まだマスタリング前なので音圧は上げ切っていませんが、
「正直このままでも良いかも?」と思えるくらい
自分好みのサウンドが仕上がっているのが理想。

……というわけで、今回はここまで。
次回はマスタリング本番の工程に移ります。

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