【音楽レビュー】『生活のニュース』Cody・Lee(李) 往来する日常のきらめき
おはようございます、八月一日です。
今日noteで初めて音楽レビュー記事を書くわけなんですが、今年メジャーデビューを果たしためちゃめちゃ勢いのある若手バンド、Cody・Lee(李)の『生活のニュース』を題材にしたいと思います。
Cody・Lee(李)は5月に2nd『心拍数とラヴレター、それと優しさ』をリリースしていて、どうして今1stの話をするのか、と思われる方もいるでしょう。
これが理由です。
『生活のニュース』は僕が今年1聴いているアルバムなんです。なぜ僕はこの1stをリピってしまうのか。
その訳をレビューしつつ語っていきたいと思います。
僕とCody・Lee(李)の出会い
彼らが知名度を大きく上げた原因のひとつに、『我爱你』のyoutubeでのバズがあります。
銅鑼やシンセのフレーズから漂う中華風の世界観とMVで海外からも人気を集めました(英語のコメントも多く見られます)。
僕もこの時に数回聴いてはいたんですが、アルバムを聴くところまでには至らず通り過ぎてしまいました。今から大体1年ちょっと前ぐらいだったと思います。
そして今年の3月頃、Apple Musicにて再会。なんとなく聴いてみたところ、一気に惹き込まれました。
『生活のニュース』アルバムレビュー
このアルバムの魅力を端的にまとめると、
現実に即した詞がもたらす日常感
音楽、本、映画の作品名の引用の小粋さ
故郷と都会(東京)をめぐる楽曲たちの幅の広い共感性とアルバムの一貫性
主にこの3つに分類できるかな、と個人的に思っています。
今回のはこの3つを中心に1曲ずつレビューしていきます、Cody・Lee(李)入門にぜひご利用ください!
まず1曲目、I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)。
1曲目から抜群の情景描写とノスタルジアに満ちたフレーズの数々。ボーカルの高橋響さんの素直になり過ぎない歌唱(特にフォールが最高です)のあたたかみも加わって、柔らかいイメージが構築されています。
「桜」「理髪店」「古本屋」「布団」「トラ猫のジョン」など、全体的にオールドで柔らかなワードチョイスがされています。有り体に言うなら「地元感」というべきでしょうか。
続く2番Aメロでは、少しでも大人になれたかな、と歌い、次いでお酒の出てくるフレーズが入っています。
精神的な「大人」というニュアンスに対応して、雨が降った時の地面の匂いを意味する「ぺトリコール」というワードが使われていますね。これは5曲目『drizzle』でも出てきていて、他にも曲を跨いで使われているワードがいくつかあり、アルバムの一貫性を強めているように思います。
また、Three days of peace and musicというのは映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』の原題らしいんですが、こういった作品名を曲中にしれっと織り交ぜることでストーリーのリアルさ、生活感が感じられる仕上がりになっています。これもこのアルバムの曲全体に言えることですね。
ラスサビ後の一節。「待ち侘びた春の色」はおそらく大人になることであるように思います。
「僕らには少し早かった だから今日で最後」というのはいろいろ解釈ができますが、大人関連で「大人ぶること」であったり「大人として暮らすこと」なのかな、と個人的に思っています。
最後の「ホッキョクグマ」というポップなワードがなんとも愛おしく思えます。直前のフレーズで流れる暗いクリシェ[ⅵm Ⅴ#aug V Ⅳ#m7♭5 みたいコードだったと思います]の重さを終わりまで引きずらせない効果がありますね。この暗いクリシェもめちゃくちゃ出てきます。2nd収録の『悶々』なんかは特にこのコード進行のイメージが強いですね。
しれっと5分超なのにそれを感じさせない軽快さも流石です。
2曲目の『春』は上京ソング。ここからの楽曲は東京が舞台になっていて、1曲目の「地元感」との対比も鮮やかです。
この曲はサウンド自体は1曲目のあたたかさを受け継いでいるようですが、「東京」がいいアクセントになっています。
もう1人のボーカル、尾崎リノさんがフィーチャーされる歌い出し。「君と出会った季節を追いかけた」にあるように、過去に向けられた視線がひっかかります。
Bメロではニルヴァーナに絡めた歌詞が展開されています。OLEO D'ORって調べてみたらどうやらシャンプーの商品名みたいです。この調べないとわからないくらいの個人性、生活感がたまりませんよね。
少し飛んでラスサビの歌詞。1番、2番と打って変わってかなり歪んだギターがバッキングを務めます。1曲目の1番Aメロを思い出させるフレーズが「夢」として出てくる構造もおもしろいです。
続いて3曲目の『我爱你』。
9月1日時点で675万再生を記録している代表曲。ネオシティポップ的なサウンドに違和感なく中華風の世界観を導入した気持ちのいいナンバーです。
ですが、異国情緒的なものだけがこの楽曲の魅力ではありません。僕が話したいのは、このアルバムに通底している個人性の素敵さなんです。
どうでしょうか?
Cody・Lee(李)のこの曲は聴いたことあるよ、という方も多いと思いますが、この曲の雰囲気だけで聴き流してしまうと、歌詞をうまく汲み取れないこともあるかと思います。
ここの歌詞....
デートしてません?
僕もついこの前まで気付きませんでした...中華風のMVに惑わされていた同志の皆さん、もう一段上の『我爱你』の旨みを一緒に楽しみましょう。
あくまでこの歌は個人的なものだ、ということを念頭に置いて、サビを聴いてみます。
サビ前半は海外の都市名の羅列で、国際的な定まらなさが感じられて面白いです。
そして後半。東京の地名が羅列される構図は、広いカテゴリから狭いカテゴリへの視点の移動が行われています。
よく歌詞の技法で取り上げられるのは、日常の出来事をより広い括りであてはめる、いわゆる「一般化」がありますが、この曲で使われている技法は一般化とは真逆のものになっていて、個人性を強調する役割があると思います。
そしてサビ最後の一節。
バイトなんかもうしてらんない!!!!!
このワンフレーズこそがCody・Lee(李)の描く個人性の極致のように思います。この「広(世界の都市など)→狭(主人公)」の視点の往来が最高に魅力的なんです!
そしてこの曲のラストのフレーズ、これもトレンドという世界の流れに対する自分(もしくは僕と君の二人)という「広→狭」の構図と受け取れる、しかも意思性の強い一言でインパクトがありますよね。
4曲目の『キャスパー』はゆったりしたトラックもの風の楽曲。細めなシンセのフレーズが心地良いです。suchmosばかり聴いていた中学生の頃は「シンセのフレーズ細すぎてグルーヴをダメにしてるだろ」とか思ってました。すみません。
Aメロでは「ふたり」の関係性が間接的に描写されています。フィッシュマンズの『いかれたBABY』の引用も見られますね。
主人公の女々しさと音楽を絡めたBメロ。ここでも「キリンジ」を出すことで現実味を加える技が光ります。
5曲目の『drizzle』もミディアムテンポのナンバー。男女ツインボーカルの鮮やかさが映えます。
尾崎さんのセリフで掛け合いを演出しつつ、ぺトリコールという言葉の再登場。最後の一節はきのこ帝国のアルバム『フェイクワールドワンダーランド』と、同じくきのこ帝国の楽曲『国道スロープ』からの引用ですね。
高橋さんと尾崎さんのオクターブ差のメロディでエモーショナルに進行するサビ。おそらくキリンジの楽曲『雨は毛布のように』の引用がされていますね。
ラスサビでは歪んだギターが激情的に鳴っていて、構成のメリハリが効いています。
「霧雨」を意味するタイトル『drizzle』に、サビで何度も''Everything gonna be alright''と歌われるこの楽曲。聴き手によってその後の解釈が分かれる終わり方のようにも感じられました。
6曲目は『東京』。全てのバンドが一度だけ使える切り札タイトルこと東京ですが、彼らの東京はどことなく冷たさを感じるミディアムナンバーです。
大学生活での君と僕の様子を動きのない表現で描写していて、今までの曲とは少し毛色が違うように感じます。
ひたすら描かれる「動きのない日常」。
普通の日常、『20歳そこらの一般の恋愛観』など極端に普遍的な詞だからこそ際立つ冷淡さが逆にリアルさを引き出しています。
フジファブリック「茜色の夕日」からの引用やBメロでの三拍子へのシフトといった小技たちにもギミックが聴いていて聴き飽きません。
折り返しの7曲目。今までの曲はポップでメロウなネオシティポップ系のアプローチが目立ちましたが、急にパンキッシュなロックが登場。
andymori「FOLLOW ME」の一節からギター1本で始まる初めのセクション。
この歌詞にこのアルバムの良さが濃縮されているような印象すら受けるパワーフレーズ。
これが楽曲の展開とともに変化を繰り返して何度も繰り返される、この気持ち良さ。
Cody・Leeの楽曲のカラフルさ、しかし一貫性を崩さない芯の強さを確認できる1曲です。
フジファブリックのストレンジポップを彷彿とさせるクセモノギターロック。
「世界の終わり」という極端すぎる非日常に「洗濯物を干す」という日常を対応させる綺麗さ。
上昇するコードのキメに2番の急なコーラスゾーン、リフのデケデケ感も癖になります。
再びメロウなスロウナンバー。
キーボードの音像とリンクするかのように抽象度と幻想性が高まった詞。
「もう少しだけ星」ってフレーズ、やばくないですか?
「もう少しだけ星を見ていたい」とかが続くと思うんですが、あえて「星」で切ってしまう。
星で切る事で星の持つ「夜」とかのイメージが強まっている気がします。
また、この曲は他楽曲より他作品からの引用が多いですね。
ふたりの関係性を、引用した他作品によって結びつけるという意図があるのかもしれません。
カッティングが気持ちいいダンサブルな1曲。
ポエトリーリーディングとラップの中間風なメロからキャッチーすぎるサビに突入する快楽、これはやめられない。
性のニュアンスも淡白めで適度なアクセントになっています。これくらいが丁度良い。
ラスサビ前の「東京へ」4連発もめちゃくちゃアガります。
デュエット形式のバラード、『winter』。
雪と主人公らを絡めた素直で綺麗な表現に脱帽です。サビでの転調も一気に景色が晴れるような強さがあってグッときます。
今までの楽曲であれば、光る街(東京)と君の住む街の対比がされると思いますが、この歌では「共通点」に着目されていますよね。
「君の住む街にも雪は降っていた」
この一節だけで、今まで主人公が感じてきた「東京と故郷の隔たり」を壊し、距離を超えてふたりが繋がっている感覚を表現する凄さ。
ここにきて再びのパンクチューン!
熱い叫びとパワフルなドラミングが今までの世界観に少年性をプラスしています。
めちゃくちゃ短いですが、インパクトは抜群。
僕が何度もこのアルバムに帰ってきてしまう最大の理由。
ピアノのフレーズにストリングスが加わりパワフルに開幕するイントロ。
1曲目同様にあたたかな情景描写でゆっくりと進行していくAメロ、じわじわと熱が高まってくるBメロ、そしてサビ――――!
サビ、良すぎる。エモすぎる。『winter』最終フレーズの春の予報から桜町での「君」の喪失を回想する流れの圧倒的な綺麗さ。
町の色んな場所で「君」を思い出してしまう、東京から戻ってきた青年の感傷。
ちなみに桜町というのは高橋さんの故郷花巻市に実際にある町だそうです。
「疲れた時に立ち返る場所」としての故郷に、もう会えない君が重なる。
都会と故郷、君と僕、子供から大人....
その中で絡まった複雑な感情が浮き上がり消えるように、静かにストリングスがフェードアウトしていき、完全に無音になったところで僕は何とも言えない気持ちになります。
まだ僕は高校生なのですが、これから故郷を離れるということを経験した後にも新しい感情をもたらしてくれるのかな、と将来を思いつつ....
また再生ボタンを押してしまうのです。
『生活のニュース』アルバムレビュー
まず1曲目、I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)。
1曲目から抜群の情景描写とノスタルジアに満ちたフレーズの数々。ボーカルの高橋響さんの素直になり過ぎない歌唱(特にフォールが最高です)のあたたかみも加わって......
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