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【良い提案、悪い提案】第4話~ファンドラップ哀歌~

お世話になっております。仙と申します。金融の個人営業一筋16年。昨年末に15年勤めた都銀を退職し、今は個人会社を設立して財産コンサルティング業を行うと共に、業務委託IFAとして活動しています。
今回のテーマは、何かと話題に上がることの多いファンドラップです。

それでは参ります。

普通に考えて、世間の常識は銀行の常識

 よく「世間の常識は銀行の非常識」などと言われることがありますが、私に言わせれば、銀行の常識は世間の常識で十分推し量れるものです。部下やらお客様から質問されたことに対して、上手く説明できない銀行員が言い訳に使い始めて、上手く説明できない銀行員の間で定着してるのでしょう。少なくとも私は銀行員でいた間に、一度も使うことはありませんでした。
昨今の資産運用に関わる状況を鑑み、特にお伝えしたいのは
<スケールメリット>です。

<スケールメリット>
 ある商品Aを買うに際して、Aの1個当たりの価格が一番低くなる可能性があるのは、次の①~③のパターンの内、どれでしょうか?

①Aを1個買う
②Aが12個入った箱で買う
③②の箱が12個入ったケースで買う

答えは③ですよね?
売る側に立って考えてみますと
全部で144個の商品Aがあるとして、1個当たりの利益が100円とでもしましょうか。144個全部売り切れば14,400円の利益。
定めた期日までにはAを売り切りたい。
1個ずつ買ってもらって12個売れ残った場合、利益は13,200円。
ケースで買って貰えれば、売れ残りの心配は無い。
なのでそんな大口の注文であれば、多少価格交渉には応じてもいいかも…
とか。
こういうの、スケールメリットって言いますよね。

 例えばファーストリテイリング(UNIQLOの親会社)の株価は、現在1株80,350円です。ですがファーストリテイリングの株は100株単位でしか買えません。ファーストリテイリングの株を買うには、80,350円×100株で8,035,000円必要になります。
例えば半導体企業の東京エレクトロンの株価は、現在1株38,880円です。同様に100株単位でしか買えないので、東京エレクトロンの株を買うには、38,880円×100株で3,888,000円必要になります。
ファーストリテイリングと東京エレクトロンの株を買うにはいくら必要ですか?上二つを足すわけですから、約1200万円ですよね。
こんなことで株を1人で買っていくと、日経平均と同じ銘柄を全部買おうと思ったら、相当な資金が必要になりますよね。
そこで、1人では難しくとも、100人でお金を出し合ったらどうですか?1,000人なら?10,000人なら?一人あたりの資金負担はとても少なくなりますね。1人じゃ買えなくても大勢集めれば買える。投資信託の考え方ですね。これもスケールメリットですよね。

一方で、規模が大きくなってくると、弊害も生まれてきます。
・管理により多くのリソースを費やさなければならなくなる。
・処理しきれなくなると外注しなければならなくなる。
・外注先を増やさなければならなくなる。
自社で完結できなくなった時には、上のような選択を取る必要が出てくるものと思います。基本的には、コストアップしても売れ続ければ問題にはなりませんが、売れなくなった時には上がってしまったコストが自分の首を絞める…ということもあり得ます。
これは、金融の世界でも起こり得るものです。

ファンドラップの仕組み

 ここからファンドラップの話になります。
テレビCMでの渡辺謙以外に、自分からファンドラップを買う人っているんでしょうか?ファンドラップは金融機関に勧められて買うものだと思いますが、どうでしょうか。 
 ファンドラップの仕組みは非常に簡単で、下図のように販売会社たる銀行や証券会社が一つのファンドラップという器に集金した後、様々なファンドへ資金を振り分けていきます。

 次の二つのファンドラップを見比べてみて下さい。
一つ目は、ファンドラップを販売する会社が、ファンドラップが投資をするファンドまでも自社で運用している場合です。

2つ目は、ファンドラップの販売会社は集金するだけで、投資先のファンド自体は別の会社のものである場合です。

 ここで考えたいのは、一つ目と二つ目、どちらが高いコストを負担しなくてはいけないか?ということなのですが、どうでしょうか?
何となく、二つ目の方が、外注している分コストが高くなりそうな感じがしますよね。

現実には、全てを内製化しているファンドラップもありますし、A金融グループのファンドラップの中にB金融グループのファンドがあったり、ファンドラップの中身が全部他社のファンド、のようなケースもあり、様々です。
敢えてその分野に得意な他社のファンドを使ったり、単純にファンドを運営する能力が無かったり、理由は様々です。
業界裏話として、ファンドマネージャーの人が仰るには、ファンドラップの運用指図をする人がファンドマネージャーと思われがちですが、『ファンドマネージャー』とは図のAファンドBファンドの中にあり、自らが株なり債券なりの投資を考えて組み立てる人のことを指します。ファンドを組み合わせる人はファンドマネージャーとは言わないそうです。『ファンドマネージャー』を多く抱えられる大きな金融機関のファンドラップが上図の一つ目のファンドラップ、そうでないところが2つ目のファンドラップ、ということが言えそうです。
大きな基盤を持つ金融機関であれば、大きな資金を集めることが出来、結果としてファンドマネージャーも集められ、効率的に運用ができる。こんな想像ができませんか?
ファンドラップの中でもこういった違いはあります。
その上で。

ファンドラップの課題

金融庁の第1回 金融審議会 顧客本位タスクフォース事務局説明資料の中で、ファンドラップは以下のように評価されています。

要約すると
「地銀で取扱い開始して残高を集めたものの、ファンドラップのパフォーマンスはバランスファンド以下のものが多く、主たる要因はコスト負けである」

資料の中では、ファンドラップ手数料、投資一任受任料、組み入れ対象ファンドの信託報酬などのコスト負担がパフォーマンスを引き下げる要因となっている、との指摘があります。端的に、リスクに見合ったリターンが得られない。
 そうであるにも拘わらず、なぜ金融機関はファンドラップの販売をしたいのでしょうか?
まあ、結論は既に出て来ている通り、手数料を取れるからですね。それも長期分散投資の為のファンドラップですから、長期間に渡って高い手数料を得られる。残高を積み上げたいはずです。積み上げれば積み上げるほど、顧客は相対的に損し続けるわけなのですが。その点に関して関心は無いのでしょうか?金融庁の指摘はそういうことです。
金融リテラシーを身に着けよう、金融資産を運用して老後に備えよう、少子高齢化社会に対応する為にお金に効率よく働いてもらおう。
その端に窓口たる金融機関を指導していきたい。

ちなみに、既存金融機関がダメだった場合のことも考えられています。
ダメなら切り捨てられるのみ、ということかもしれませんね。
ちなみに、上図の抜粋ですが、買って良いのは、左端の1社のファンドラップくらいですよね。

それでも尚、あなたはファンドラップを販売しますか?あるいは購入しますか?

お読みいただき、ありがとうございました。



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