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【良い提案、悪い提案】第二話

 お世話になっております。仙と申します。金融の個人営業一筋16年。昨年末に15年勤めた都銀を退職し、今は個人会社を設立して財産コンサルティング業を行うと共に、業務委託IFAとして活動しています。

 第一話では生前贈与を絡めた平準払い保険の提案についての良し悪しを述べさせていただきました。
 今回の第二話ではターゲット型保険と仕組債に触れようと思っていましたが、ちょっと「これは・・・」と思う事案がありましたので、先に書いていきたいと思います。思い当たる方がいらっしゃいましたら、ぜひご対応を…

【良い提案、悪い提案】
第二話 生命保険金の受取人

 銀行のお客様は保険が生命保険が好き…というか、銀行は生命保険が好きです。理由を3つ挙げます。理由①勧めやすい。理由②手数料が高い。理由③メンテナンスの手間が無い。
細かく見ますと
<理由① 勧めやすい>
 大前提として、生命保険は運用商品ではありません。まず第一に保障が必要な為に生命保険を契約します。その次に、生命保険の中でお客様ご自身のご意向にあったものを選んでいきます。パフォーマンスの良し悪しも生命保険の中での比較になります。
変額保険や外貨建て保険を選ぶ場合は、金融商品取引法に従って契約をすることになりますが、保険を契約する方は保障=仕組みを買っています。その仕組みを使える商品であれば何でもいい…とまでは言いませんが、機能を満たしていれば細かな商品性は問わない、というところまでは合意があると思います。
 平成27年以降は相続税の基礎控除の額が少なくなったことで、保険金の「法定相続人の数×500万円は非課税」という効果が際立ちました。
それも銀行から生命保険会社に預け替えるだけでその恩恵を受けられます。加えて、マイナス金利政策下で預金利息が消滅する中、円建てでも5年程度預けていれば〇%増えて解約できる商品もあるなど、お金を減らしたくないと考えるお客様には、ハードルの低い提案になっているでしょう。
また、円建て商品と外貨建ての商品を並べて比較検討する際にはその予定利率の差が際立ち、内外の金利差のメリットを大きく感じることで、外貨建ての保険へのハードルもまた下がっているように思います。
世の中的には外貨建て保険はダメ、という説が広まっていますが、いざ円建ての保険と比べてみると欲が出てくるのも致し方ないところかと思います。

<理由② 手数料が高い>
 多くは触れませんが、保険は儲かります。円建てはそうでも無いのですが、外貨建ての保険の手数料は凄まじいです。半期半期(あるいは1年)の「目標」を追いかける銀行員からすると、1ショットで大きな収益を得られる外貨建て保険の成約は、非常に有難いものです。

<理由③ メンテナンスの手間がない>
 変額保険で運用内容を自分である程度コントロールできるものや、外貨建て保険で為替レートが急激に変動した…などのことが無い限りは、保険は投信のような細かいメンテナンスを求められることが少ないです。
そもそもが「保険金は相続人が受け取るものなので、既に自分が使うお金という感覚は無い」という方もいらっしゃいます。
メンテナンスの手間がかからないので、次々に新しいお客様に提案できる。マス富裕層を担当し、以前よりも少ない人数で以前よりも大きな目標を追う担い手からすると、使い勝手のよい商品だと思います。

お客様はというと、それぞれのご事情に合わせて判断をされるわけなので、仮に運用する為に保険を選んだ、ということがあっても「保険を契約するという判断は間違っている」とは私は思いません。
増やしたいなら効率的に運用する方法は他にありますが、保障付きで運用するメリットもありますので。

しかしながら、保険の機能を気に入ったのにも関わらず、その選択はいただけない…と思うことがあります。何の選択かというと、保険金の受取人です。

【悪い提案】
分かり易く下のような家族構成で前提を作ります。
本人資産は不動産3億円、現預金1億円。資産合計4億円(相続税評価額)。

この時、相続税は下表のようになります。


とりあえずは現預金で相続税が納められそうですね。
本人は不動産を配偶者を経て長男に相続して欲しいと考えていた為、一時相続時の納税も鑑みて、不動産を配偶者と長男に相続させ、次男長女に(あくまで相続税評価上ですが)遺留分に配慮して現預金を相続させることを考え、遺言を作成しました。
下表のイメージです。
信託銀行が好きそうな内容の遺産分割案ですね。

前置きが長くなりましたが、この時。
次男と長女には現金が遺されることが分かっているので「渡そうと思っている現金があるならば、それを生命保険にしませんか?保険の非課税枠も使われていませんし、保険金の請求ならば、お子様たちも手続きが楽ですよ」などと提案したとします。ご本人は「なるほど!」と言って次男と長女をそれぞれ受取人とする生命保険を、35,000千円ずつ契約しました。
一見すると良い提案…のように見えますが…

どうなると思いますか?

生命保険金は遺産分割対象財産からは除かれますから、次男と長女に渡る35,000千円が現預金から保険金に変わってしまったらば、次男と長女の相続財産は、遺留分を計算する上ではゼロになります。
つまり、現預金を保険に変えたら遺留分侵害額請求ができるようになってしまった。
最悪の提案と言わざるを得ないと思います。

【良い提案】
…というほどではないですが、この場合は保険金の受取人を長男にすれば、逆に次男と長女の遺留分は少なくなるわけですから、保険金の受取人を長男として次男と長女に代償金を支払う形の方が、かえって揉め事が少なくなるかもしれません。
いずれにしても、不幸な間違いが無いよう、ご家族の関係などのヒヤリングを確りと行った上で、提案をしていきたいですね。

あ!?と思った担い手の方は、保険契約のご確認をお願い致します。

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