音楽の仕事とは
私は、何としてでも有名大学に入れたいという両親に育てられた。だが、溝は開いていくばかりだった。
母は高卒で私を教えられるだけの器量は持ち合わせていなかった。父は大卒だったが、単身赴任のため、あまり家に居るということが少なかったばかりでなく、両親の夫婦関係は悪く、ケンカになることもしばしばであった。
そんな環境下で、勉強をするということを見失ってしまっていた。
ただ音楽に興味のあった私は、お小遣いで楽典の本などを買って読んでいた。だが、音大に行くというまでのスキルは持ち合わせていなかった。
というか両親は、「有名大学に入れる」という事だけに執着し、私のやりたいことなど、聞こうともしないのだった。
当然のことだが、大学には学部というものがある。
「私は将来○○に関する仕事がしたいので○○学部を志望します」
みたいなものが、私にはなかった。
そんな状態で、ただ有名大学に!と言うのは、今思えば、とてもおかしな話である。
私は高校は理系コースに進んでいたが、工学部、理学部、理工学部の違いが分からない状態だった。
友達に聞けばいいという人もいるかもしれないが、場面緘黙が完全に抜けきったという訳ではなかったし、加えて両親の圧力が私を支配し、私には判断力というものが極端になかったと思う。
自分に自信がなく、自分から誰かに話しかけるということもほとんどないまま、ほぼ孤立状態で、高校生活を送ったのだった。
高校ともなれば、自我も確立していくし、異性と交際し始める人もいる。思考も奥深くなっていくところだと思う。
ただ、幼少期からクラシック音楽などを聞いていた私は、頭の中で、音楽の関係の仕事をする夢を描いていたのは事実である。
だが、そんなものを打ち開ければ、父は「華やかな世界が好きか」などと私に言うのだった。私は何も言えなくなってしまった。なぜなら、その言葉の裏には「現実を見ろ」という言葉が隠されているように感じたからだった。
だが、他にやりたい事は私にはなかった。
大学受験を機にピアノを辞めさせられた私ではあったが、それもできればやめたくなかった。
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